029 仏独
「Alright, 予定の野営地に到着だぜ!」
俺がランクルのエンジンを切ると、助手席で地図を見ていた魔法使いのエルナが大きく伸びをした。
ガンツとトーマスが乗った馬車もすぐに到着する。
「ふぅ、やっと着いたわね。次の町まではもう少しだけど、今日はここで一晩明かしましょう」
「おう、Ken! 今日も極上の肉が食えるんだろうな?」
ガンツが馬車から飛び降り、腹をさすりながら訪ねてくる。
「HAHAHA! もちろんだぜ! ……Wait。なんだ、このいい匂いは?」
野営地には、すでに先客がいた。
焚き火を囲み、夕食を作っている二人の男だ。
一人は立派な口髭を蓄えた男。もう一人は筋肉質の大柄な男だ。
「Oh! もしかしてあんた達も『流れ人』か?」
俺が声をかけると、二人は驚いたように振り返った。
「Oui! 私はフランスから来た、ピエールだ」
「Ja。俺はドイツ出身のクラウスだ」
「Bingo! 俺は米日ハーフでカンザスシティのBBQMAN、Kenだ! こっちは冒険者のガンツとエルナ、そして商人のトーマスだ」
俺はすかさず『ライブ配信』をオンにして、スマホのカメラを二人に向ける。
「Hey Everybody! 見てくれ、異世界でフランスとドイツのコンビに遭遇したぜ!」
:『マジかよ! 新たな転移者キター!』
:『国際色豊かすぎるだろwww』
:『これは美味いもん作ってそうな匂いがするぞ!』
「ちょうど料理が出来上がったところです。良かったら食べるかい? 私たちの自慢の料理をご馳走しよう」
ピエールとクラウスが、気前よくそれぞれの料理を皿に盛り分けてくれた。
ピエールの皿からは、赤ワインとハーブの芳醇な香りが漂っている。
「私の料理は、野鳥を赤ワインと香草でじっくり煮込んだものだ。ソースの深いコクとエレガントな香り……これぞフランスの芸術的野外料理だよ」
対するクラウスの料理は、鳥が豪快に丸焼きにされていた。
「フランス料理は気取ってばかりだ。野外料理なら、鳥の腹にハーブとリンゴを詰め、豚の脂を塗りながら豪快に焼き上げるドイツ流ローストが一番だ!」
まずはピエールの料理に齧り付く。
「……Oh my god! ほろほろに崩れる肉に、赤ワインの深いコクが染み込んでる! この上品な香りはまさにC'est bon(美味い)だ!」
続いてクラウスのローストをがぶり。
「Holy cow! ローストもヤバいぜ! パリッとした皮と、溢れ出す肉汁! 中に詰めたリンゴの酸味が絶妙なアクセントになってる! まさにWunderbar(素晴らしい)!」
俺が2人を大絶賛すると、ピエールがふふんと鼻を鳴らした。
「クラウスの粗野な丸焼きとは違い、私の料理には計算し尽くされたエレガンスがあるからね。私の料理の方が美味しかったでしょう?」
「Nein(違うな)! 肉本来のポテンシャルを最大限に引き出す俺のローストこそが至高だ! 気取ったソースで味をごまかすフランス料理と一緒にされては困るな!」
「なんだと!? もう一度言ってみろ、このビール野郎!」
「事実を言ったまでだ、このヒゲ野郎!」
バチバチと火花を散らし、今にも掴み合いになりそうな二人。
:『欧米の食文化レスバ始まってて草 lmao』
:『どっちも美味そうで飯テロすぎる』
:『Ken、これどうすんのww』
「Hey hey, calm down(落ち着けよ)!」
俺は二人の間に割って入り、両手を広げた。
「どっちが一番かなんて決める必要はないだろ? どっちもパーフェクトに美味いんだからさ! まあまあ、美味い酒でも飲もうぜ!」
俺は『ガレージ・リンク』を発動させた。
「俺からは、キンキンに冷えたBale Aleと、とっておきのRye Whiskeyだ!」
光と共に現れたアメリカン・ビールと琥珀色のウイスキーのボトルを見て、クラウスが目を丸くした後にニヤリと笑った。
「Hmph! ドイツ人の俺にアメリカのビールを出すとはいい度胸をしているな……だが、お前の言う通りだ。美味いメシの前でいがみ合うより、酒だ! ならば俺は、本場ドイツの黒ビールを出すぞ!」
「ふふっ、それもそうだな。野外料理の席で争うのはエレガントじゃない。ならば私は、この料理にふさわしい故郷の赤ワインを提供しようじゃないか!」
ピエールとクラウスも『ガレージ・リンク』から、それぞれ自国の酒を取り出して並べた。
Bluebird Brewing公式:『ドイツビールとワインの横に並ぶBale Ale……! 最高の異世界国際交流ですね!』
:『公式ニキ、今日も営業お疲れ様ですww』
:『平和的解決策最高じゃん!』
「さあ Everybody! アメリカ、フランス、ドイツの酒と料理、そして異世界の夜に! CHEERS(乾杯)!」
「「「「「CHEERS!!」」」」」
酒を酌み交わすと、ピエールとクラウスも笑い合い、互いの料理と酒を楽しみ始めた。
ガンツやトーマスも、見たことのない各国の酒に舌鼓を打って大盛り上がりだ。
その様子を見ながら、エルナが俺の隣で呆れたように、微笑んだ。
「ふふっ。いつもは『自分のBBQが世界一だ』って絶対に譲らないのに、ケンが仲裁に入るなんて珍しいわね」
「HAHAHA! 今日は俺の出番がなかっただけさ! 美味いメシと美味い酒の前じゃ、対立なんてナンセンスだからな!」
俺は笑ってグラスを煽る。
焚き火の温かな炎が揺れる中、賑やかな異世界の夜は、酒と最高の匂いと共に更けていくのだった。
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次話明日7:00に公開予定。




