027 ビア缶チキン
翌朝、ルストの町の冒険者ギルドは大騒ぎになっていた。
「おい、聞いたか!? 鉱山の入り口近くに『コカトリス』が出たらしいぞ!」
「ああ、採掘作業が完全にストップしちまってるらしい……」
ギルドに足を踏み入れた俺と、魔法使いのエルナの耳に、そんな切羽詰まった声が飛び込んできた。
どうやら、この町を支える鉱山にコカトリスが現れたらしい。
コカトリス。
エルナの解説によれば、体長1メートルはあろうかという鶏の体に、蛇の頭が付いた尻尾を持つ巨大な怪鳥だ。さらに鋭い嘴と、浴びれば石化するという恐ろしいブレスを吐くという。
「石化ブレスねぇ……。要するにデカいチキンだろ?」
俺が肩をすくめてそう言うと、エルナが呆れたような目を向けてきた。
「Ken……もしかして討伐するつもり?」
「当然。昨日、鉱山の連中にご馳走になったBBQスパゲッティのお礼をしないとな。ディナーのメインディッシュは決まりだな」
:『石化するバケモノをチキン扱いwww』
:『晩飯のメインディッシュ決定 lmao』
:『異世界の魔獣、またもやBBQの食材にされる lol』
◆◆◆◆◆
森の奥、薄暗い岩場にコカトリスの巣はあった。
「Shh……見ろよEverybody。あいつが今日のディナーだ」
俺たちは巣から500メートルほど離れた小高い丘に陣取っていた。
俺はダッシュボードのスマホに向かって声を潜めた。
「Dad! 念のためにRPRを頼む!」
Dad:『Roger! .338ラプア・マグナム弾もセットで送る! あのサイズの鳥ならオーバーキルだが、石化の危険があるからな、超遠距離から一撃で仕留めろ!』
「Thanks, Dad! 『ガレージ・リンク』!」
光と共に、無骨でタクティカルな漆黒の狙撃銃、RPRが姿を現した。俺はバイポッド(二脚)を展開して地面に据え、強力な.338Lapua Mag弾をチャンバーに送り込む。
俺は横に居るエルナに双眼鏡と耳栓、イヤーマフを手渡した。
「エルナ、少し離れて双眼鏡でコカトリスを見ててくれ。もし撃ち漏らしたら石でも投げて教えてくれ」
「何これ……うわっ! Ken、これスゴイわね! 遠くのものがこんなに大きく、はっきりと見えるなんて!」
初めて双眼鏡を覗いたエルナが、子供のように声を上げて驚いている。日本の漫画『Dr.STONE』を読んで科学の知識を身につけつつある彼女だが、実物の光学機器の威力には感動を隠せないようだ。
「HAHAHA! 科学の力ってやつさ。しっかり見ててくれよ」
:『双眼鏡に感動するエルナちゃん可愛い lol』
:『完全に狙撃手の観測手やらされてて草』
:『てかRPRに.338ラプアとか、マジでバケモノ狩る気満々だなww』
エルナが十分離れたのを確認してから、俺はスコープを覗き込み、十字のレティクルをコカトリスの頭部に合わせる。
風を読み、呼吸を整え、引き金に指をかけた。
「Say goodnight, giant chicken.」
ドンッ!!
.338ラプア・マグナム弾の腹の底に響くような轟音が森を揺らした。
音速を遥かに超える巨大な弾頭が、500メートル先のコカトリスの頭部を正確に、そして無慈悲に粉砕する。巨鳥はそのまま岩場にドサリと倒れ伏した。
「コカトリス討伐完了!」
俺がRPRから離れると、双眼鏡を覗いていたエルナが、ゴクリと生唾を飲み込んで呟いた。
「……相変わらず、すごいわね。あんな遠くのモンスターを、魔法の詠唱もなしに一撃だなんて。この武器があったら、怖いものなしね」
◆◆◆◆◆
コカトリスの巨体を解体・処理しガレージ・リンクで送って、俺たちはルストの町へと凱旋した。
鉱山の安全が確保されたと聞き、町の人々はすでにお祭り騒ぎだ。
「Hey, Ken。あのデカいチキンを仕留めたらしいな」
重低音の効いたハスキーな声に振り向くと、そこにはスーツにサングラス姿の大男——昨日、極上のBBQスパゲッティを振る舞ってくれたメンフィス出身のブルースマン、マーカスがニヤリと笑って立っていた。
「マーカス! ああ、昨日のBBQスパゲッティのおかげで、最高のコンディションで挑めたぜ。メンフィスのソウルフードは伊達じゃないな!」
「違いの分かる男がいて嬉しいぜ。で、今日のディナーはどうするんだ?」
「Everybody! お待ちかねのBBQタイムだ! 今日はコカトリスの丸鶏を使って『ビア缶チキン・カンザスシティBBQ風』を作るぜ!」
俺は特大オフセットスモーカーの前に立ち、綺麗に下処理されたコカトリスの丸鶏を取り出した。
そこにブラウンシュガー、パプリカ、ガーリックなどをブレンドしたKCスタイルの特製ラブ(スパイス)をたっぷりと擦り込む。
「ここで今日の主役の登場だ! Bluebird Brewing社のBale Ale!」
俺がスポンサーから提供されたアルミ缶のビールを掲げると、公式アカウントがすかさず反応した。
Bluebird Brewing公式:『出番ですね! Ken! キンキンに冷えたエールは飲むだけじゃなく、料理にも最高です!』
:『公式待機してて草』
:『ここでスポンサー商品を使うのかww』
「半分ほど飲んだBale Aleの缶を、この丸鶏のお尻にズボッと差し込む! そして、このままスモーカーに立ててじっくりと焼き上げるんだ!」
:『絵面がヤバすぎる lmao』
:『チキンの尊厳破壊www』
Dad:『素晴らしい! ビールが沸騰して鶏肉の内側から蒸し焼きにすることで、信じられないほどジューシーに仕上がるんだ!』
「Dadの言う通りだ! 外側はスモークとスパイスでカリッと香ばしく、内側はビールの蒸気でホロホロになる。最後にカンザスシティ特製の甘酸っぱいBBQソースをたっぷり塗ってテリッテリに仕上げれば……完成だ!……ん!? 一本じゃ足りないな。エルナとマーカスも飲んでくれ」
◆◆◆◆◆
一時間後。
スモーカーから取り出されたのは、マホガニー色に輝き、甘辛いソースが焦げる極上の匂いを漂わせる『コカトリスのビア缶チキン』だった。
俺がミスリルのナイフで切り分けると、中から滝のような肉汁が溢れ出す。
「まずはアンタに味見してもらおうか、マーカス。カンザスシティ流の甘辛いソースと、ビールの魔法が効いた自慢のチキンだ」
俺は湯気を立てる極上のモモ肉を切り出しマーカスに手渡した。
マーカスは豪快にそれを口に放り込み、ゆっくりと咀嚼する。
「……Oh、こいつはヤバいな。俺たちメンフィスのドライラブとは対極にある、カンザスシティ特有の甘く濃厚なソース……それが、チキンの旨味と完璧に絡み合ってる。それに、この信じられない柔らかさ。ビールの蒸気が中から肉を解きほぐしてるんだな。参ったぜ、Ken。こいつは間違いなく一級品のBBQだ!」
「Thanks, マーカス! エルナ、お前の分も当然あるぞ」
俺が切り分けた部位を渡すと、エルナは待ちきれない様子で肉にかぶりついた。
「んんっ……! 外の皮がパリパリで甘辛くて、中のお肉がフワフワよ! パサパサ感が全然ないし、ビールの香りがふわっと抜けて、これ最高に美味しいわ!」
二人の反応を見て、周りでヨダレを垂らしていた鉱山のドワーフや町の人々にもビア缶チキンを振る舞う。
「うおおおおっ! なんだこの柔らかさは!」
「あの恐ろしいコカトリスが、こんなに甘くてスパイシーになるなんて!」
「HAHAHA! これには冷えたエールを合わせるしかないよな!」
俺がガレージ・リンクで大量のBale Aleと、James Bang Rye Whiskeyを呼び出すと、広場は完全な宴会状態に突入した。
:『美味そうすぎる……飯テロの極みだろ』
:『ビア缶チキン、今度の週末のキャンプで絶対やるわ』
Mama:『怪鳥コカトリスまで美味しくいただいちゃうなんて、さすが私の息子ね!』
Rabbit Laboratories公式:『これだけ盛り上がれば、明日の朝は皆様にMedialyteが必要になりますね!』
「HAHAHA! 間違いないぜ! さあ、ルストの町の平和と、極上のコカトリスBBQに……CHEERS(乾杯)!」
「「「CHEERS!!」」」
お読み頂きありがとうございます。
ブックマーク、★ボタン、できたらよろしくお願いします。
次話公開済。




