025 ブルース
小さな村『オーツ』を出発した俺たちは、数日の旅を経て、目的地の町『ルスト』に到着した。
「Hey Everybody! 目的地のルストに到着だぜ! 鉄の採掘と加工で有名な町らしい!」
:『おお、新しい町だ!』
:『Kenの旅も順調だな!』
Mama:『ガレリアみたいに大きな街じゃないけど、武骨な職人街って感じで趣があっていいわね』
町に到着し、俺たちはまず中心部にある神殿へ向かった。もはや、この世界の新しい町に到着した時のお約束だからな。
「神様、BBQソースと共にあらんことを」
銀色に鈍く光る石の御神体に銀貨を供え、祈りを捧げる。
もちろん、神殿ごとに違う訪問記念のリボンもしっかりゲットした。ルストの神殿のものは銀色のリボンだった。
「Ken、すっかり神殿の作法も板についてきたわね」
杖にたくさんのリボンを揺らすエルナが、先輩風を吹かせて得意げに笑った。
◆◆◆◆◆
神殿での挨拶を終えた後、俺たちは情報収集と喉の渇きを潤すために、冒険者ギルドの酒場へと足を運んだ。
昼間から冒険者たちで賑わう酒場の重い木の扉を開けた瞬間――。
ジャラァン……♪
土臭く、そして魂の奥底を揺さぶるようなアコースティックギターの音色と、深い哀愁を帯びたハスキーな歌声が耳に飛び込んできた。
「……Wow。こいつは……ブルース?」
俺は思わずその場に立ち止まった。
間違いない。このコード進行、この独特のスウィング感とブルーノート。ファンタジー世界の吟遊詩人が奏でる音楽じゃない。
地球の、それもアメリカ南部の泥臭い本物のブルースだ。
酒場の隅、薄暗いランプの下でギターを爪弾いていたのは、スーツに身を包み、サングラスをかけた黒人の大男だった。
「たまんねえな……」
俺は自然と歩み寄り、曲が終わるのと同時に大きな拍手を送った。
「Hey! 最高のブルースだ! 魂が震えたぜ!」
大男はサングラスの奥の目をわずかに見開き、ギターを弾く手を止めてニヤリと白い歯を見せた。
「Oh……このソウルが分かる奴が、こんな異世界にいるとはな」
「俺はKen! カンザスシティ出身のBBQMANさ。アンタも『流れ人』だな?」
俺がフレンドリーに手を差し出すと、大男はギターをそっと置き、俺の倍はありそうな巨大な手でガッチリと握り返してきた。
「カンザスシティのBBQボーイか。俺はMarcus。テネシー州メンフィスから来た」
「メンフィス! ブルースとロックンロール、そして極上のポークリブの聖地じゃないか!」
:『ここでメンフィス出身キターーー!』
:『テキサスの次はメンフィスかよ! アメリカのBBQ四大聖地が集結しつつあるぞ lmao』
Dad:『メンフィスだと!? Ken、奴らのドライラブとポークリブをナメるなよ! カンザス魂を見せつけろ!』
Mike:『音楽とBBQの街から最強の刺客が来たぜ!』
俺の興奮気味な言葉に、マーカスは野太く豪快な笑い声を上げた。
「HAHAHA! 違いの分かる男がいて嬉しいぜ。どうやらお前さんも、あっちの世界じゃ相当火を焚いてた口らしいな」
「ああ。神様の野郎に『BBQを広めろ』って言われて、この世界を旅してるんだ」
「なるほどな。だが、BBQ語るなら俺たちメンフィスを避けては通れねえ。いいだろう……Ken。明日、俺が最高の『メンフィス流BBQ』をご馳走してやろう」
マーカスが自信に満ちた笑みを浮かべ、サムズアップする。
メンフィス流BBQ。甘辛いソースをたっぷりと絡める俺のカンザスシティ・スタイルとはまた違う、ドライラブを極めた至高の豚肉BBQだ。
「You got it! 楽しみにしてるぜ、マーカス!」
異世界の酒場に響くブルースの余韻の中、新たなBBQの熱い火蓋が切られようとしていた。
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次回7:00公開予定。




