020 フロントライン
翌朝。
あれだけアルコール度数の高い酒を飲んだというのに、不思議と二日酔いは全くなかった。上質なアクアヴィットと極上のサーモンが、完璧に体を労わってくれた証拠だ。
爽やかな海風を浴びながら朝の市場を歩いていると、氷の上に並べられた巨大な海のエイリアン……いや、立派なロブスターの山を発見した!
「Holy cow! なんて巨大で美しいロブスターなんだ! ガーリックバターでグリルしたら最高だぞ。さて、いくつ買えば……」
頭の中で最高のレシピを組み立てていたその時。
——カンッカァァン! カンッカァァン!!
突然、平和な港町に甲高い鐘の音が鳴り響いた。
「サハギンの群れだ! 海からサハギンが来るぞぉーっ!!」
見張りの大声とともに、市場は一瞬にしてパニックに陥った。逃げ惑う人々の中、完全武装したガンツとエルナ、荷物を抱えたトーマスが駆け寄ってくる。
「Ken! 無事だったか!」
「ガンツ! 一体何が起きてるんだ!?」
「サハギンの大規模な襲撃よ! 私と兄貴は港の防衛線に入るわ!」
ガンツは鋭い視線を海へ向けながら、俺の肩を強く掴む。
「Ken、お前はまだランクが低いし、乱戦に向かない。トーマスさんと一緒に安全なところへ避難してろ! あとは俺たちに任せな!」
そう言うと、ガンツとエルナはサハギンの群れが押し寄せる海岸線へと走っていった。
取り残された俺とトーマス。
遠くから剣の交わる音と、半魚人たちの不気味な咆哮が聞こえてくる。
「逃げますぞ、Ken殿……!」
「……いや、待ってくれ」
ただ逃げて隠れているなんて、カンザスシティのBBQMANの誇りが許さない。俺のBBQは、皆を笑顔にし、活力を与えてきたじゃないか。
「俺にも……俺のBBQにも、必ずできることがあるはずだ! トーマス、手伝ってくれ! おやじ! ロブスターをありったけ売ってくれ!」
「ええ!? 一体何をやるんですか!?」
俺は両手に抱えたロブスターを、BBQトレーラーに放り込み愛車のランクルに飛び乗る。
「トーマス! 乗ってくれ! Jariのところに行く!」
ランクルのエンジンに点火してアクセルを踏む。
俺はスマホの配信画面に向かって叫んだ。
「Dad! Mama! 配信見てるか!? 悪いが今すぐ手分けして、ソーセージとSliced bread(食パン)を大量に買ってきてくれ! 前線の兵站を支えるんだ! あと、移動中に狩ったレッドボアの肉も全部ガレージに放り込んでくれ!」
Mama:『Oh, Ken! 任せなさい! 気をつけてね!』
Dad:『Roger! 辺り一帯のスーパーを空にするぞ!』
:『まさかの戦場クッキング!?』
:『バフ飯キターーー!』
Jariの店に着くと、あの静かで熱い木の燃える匂いが漂ってきた。
見るとJariが、すでに巨大なサーモンのLoimulohiを焼き始めている。
「Jari! 助かるぜ!」
「……一時間で焼きあがる。少しでも力になろう」
「最高だぜ、Bro!!」
:『フィンランドおじさん参戦胸アツ!!』
:『スローライフ(物理戦闘支援)』
:『野外料理人同盟かっこよすぎだろ!』
◆◆◆◆◆
海岸線では、冒険者たちとサハギンの熾烈な戦闘が繰り広げられていた。
数は向こうが圧倒的に上だ。ガンツの大剣がサハギンを薙ぎ払い、エルナの炎の魔法が炸裂するが、徐々に冒険者たちは疲労の色を見せ始めていた。
防衛線の後方、傷ついた冒険者をエルフのリリアが回復魔法で癒やしている。
Loimulohi、ロブスター、ハム、ベーコンのサンドイッチ、ホットドッグ、水分補給にMedialyteを大量にランクルに積んで運ぶ。
「リリア! BBQパワーでバフが掛かる! 食べてくれ!」
「分かったわ! ……これ、Jariの! あの人、逃げてないの!? 」
「安心しろ一緒に料理している。怪我一つしてないぜ!」
「……ありがとう。早く片付けて一緒にアクアヴィットが飲みたいって伝えておいて」
「Roger!」
◆◆◆◆◆
「Ken殿このあとは、どうしましすか? ロブスターもソーセージもハムも無くなってしまいましたぞ」
「Hmm……Dad達に手分けして買いに行ってもらっているが……」
現状、BBQパワーのおかげで前線は拮抗状態。
今までの経験から、BBQパワーのバフは、長時間『Low and Slow』したほうが効果が大きい気がする。
スモーカーの中でじっくり火を通しているレッドボアの肉だが、出来上がるまでにまだかなりの時間が掛かる……
それまでに戦いが終わって勝利の宴の主菜になってくれればいいが……
時間が経つのがもどかしい。
「……大大大だ。信じろ。俺達は最高に焼きあがるのを待てばいい」
Jariが火を見つめながらつぶやく。
お読み頂きありがとうございます。
ブックマーク、評価など、よろしくお願いいたします。
次回7:00公開予定。




