019 Loimulohi & Akvavit
潮の香りが色濃くなる中、俺たちはついに目的の港町へと到着した。
「Ken、町に着いたらまずは神殿よ!」
エルナ に先導されて全員でやってきたのは、潮風に晒された重厚な石造りの神殿だ。中に入ると、ステンドグラスの光に照らされていたのは、石ではなく巨大な『鉄の錨』だった。
「Wow! ここの御神体は錨なのか! 石だけじゃなくてこういうのもあるんだな」
「ここは港町だからね。海の安全と豊漁を祈願して、錨が御神体になっているのよ」
御神体に挨拶し記念として、この神殿の『水色のリボン』を銀貨で購入した。これを愛車のランクルのルームミラーに結び付ければ、また一つ思い出が増えるぜ。
:『水色のリボンいいね!』
:『交通安全のお守り感がマシマシで草』
◆◆◆◆◆
トーマスとガンツはいつも通り商談に行き、エルナと町を散策していると、どこからともなく美味そうな匂いが漂ってきた。ヒッコリーやオークの煙とは違う、もっと素朴で、それでいて食欲を猛烈に刺激する木の焼ける匂いと……魚の脂が焦げる香りだ!
「ん……? ねえKen、何の匂いかしら? すっごく美味しそう! 行ってみましょう!」
エルナに手を引かれ、匂いの元へと向かう。人だかりの向こう側で、パチパチと焚き火の炎が揺らめいていた。
「Oh my god……! 確かあれは……『Loimulohi』じゃないか!」
木の板にサーモンの半身を木釘で打ち付け、焚き火の炎のすぐ脇に立てかけてじっくりと炙り焼きにする、北欧フィンランドの伝統的な料理だ。
そして、その火の番をしているのは、煤けたエプロンを身につけた、思わず見惚れてしまうほど、深い魅力をたたえた男だった。
どこか物憂げで、北欧の森のように静かで落ち着いたオーラを放っている。
俺はたまらず歩み寄り、声をかけた。
「Hey! 最高に美味そうなサーモンだな! 俺はカンザスシティから来たBBQMANのKenだ! アンタも流れ人かい?」
男は炎から視線を外し、俺を静かに見つめた。
「……Moi。俺はJariだ」
彼はそれだけ短く言うと、再び焚き火へと向き直った。
「もう少しで焼き上がる。……少し、待っててくれ」
静かだ。テキサス親父のハンク とはまた違う、沈黙と自然を愛する職人の気迫を感じる。
すると、背後の店舗から、息を呑むほど美しいエルフの女性が出てきた。
「いらっしゃいませ。あら、流れ人の方かしら? Jariの料理に興味が?」
「あ、ああ。俺も肉や魚を焼くのが好きでね。彼、すごく集中してるな」
エルフの女性はふふっと微笑み、Jariの広い背中を愛おしそうに見つめた。
「彼はフィンランドという国から来た流れ人なんです。言葉数は少ないけれど、森と火とサウナを愛する、とても温かい人なの。私と出会ってからは、こうしてこの町で暮らしているんです。私はエルフのリリア。よろしくね」
:『異世界でエルフの美人の嫁もらってスローライフとか勝ち組かよ!』
:『フィンランドおじさん、渋くてカッコいいな』
:『言葉より背中で語るタイプだ』
:『北欧のイケメンおじさんとエルフの美女とか絵になりすぎだろ lmao』
Dad:『Ken! ロイムロヒは木の種類が命だ。彼が何の木を使っているか聞いてみろ!』
Mama:『あらあら、無口な北欧イケメン……ラノベに出てきそうな属性ね!』
◆◆◆◆◆
「……焼けたぞ」
Jariが静かに板を火から外し、完璧にローストされたサーモンをテーブルに置いた。表面は黄金色に色づき、縁は香ばしく焼け、中央からはジューシーな脂がふつふつと湧き出している。
俺とエルナは、切り分けられたサーモンを一口頬張った。
「Amazing!! 外側はパリッと香ばしいのに、中は信じられないほどふっくらしている! 放射熱がサーモンの水分を逃さず、極上の脂を内側に閉じ込めてるんだ! 薪の香りが魚の旨味を何倍にも引き上げてるぜ!」
「んんっ! お魚ってこんなに美味しいの!? 噛むと甘い脂がじゅわっと口いっぱいに広がって、とろけちゃうわ!」
食レポに、スマホ越しのライブ配信 も大盛り上がりだ。
Dad:『放射熱(Radiant heat)を利用した見事な調理法だ! これぞ原始にして至高のアウトドアクッキング!』
Mama:『北欧のサーモン料理なんて最高じゃない! 寡黙な職人とエルフの恋人だなんて、まるでロマンス小説ね!』
:『美味そうすぎる! スモークサーモンの究極系だな』
:『シーフード飯テロやめろ! 腹減った!』
:『フィンランドBBQも侮れないな』
俺たちの反応を見たJariは、満足そうに僅かに口角を上げると、店の奥から美しい琥珀色のボトルと小さなグラスを取り出してきた。
「……オルボー・ヤムリウムス・アクアヴィット(OLLBORG Yumvilaeums Akvavit)だ。……一緒にどうだ?」
「Whoa! アクアヴィット! 北欧の『命の水』じゃないか! 喜んで頂くぜ!」
「……俺の故郷の味だ。強いから気をつけろ」
Jariは無言でグラスに酒を注ぐと、俺に向かってグラスを軽く掲げた。
「……Kippis(乾杯)」
「Kippis!!」
強烈なアルコールと共に、ディルとコリアンダーの爽やかでスパイシーな香りが喉を駆け抜ける。サーモンの濃厚な脂を、冷えたアクアヴィットが完璧に洗い流し、極上の余韻だけが口の中に残った。
「Phew! サーモンとアクアヴィット、これ以上ない最強のペアリングだぜ!」
:『飯テロからの酒テロキター!』
:『フィンランド人にアクアヴィット勧められたら断れないよなww』
:『異世界のグルメレベル高すぎだろ lmao』
OLLBORG公式:『素敵な宣伝ありがとう! East Topsさん、もしかして「ウイスキー以外飲んだらダメ」なんて、心の狭いこと言わないですよねー?(チラッ)』
East Tops Whiskey公式:『まさか!彼が【本物】に戻ってきたとき、よりその有り難みが分かるように、たまには浮気するのもいい経験さ。……ところで、そのアクアヴィット、うちの樽で追加熟成してみない? もっと美味しくしてあげるよ(ウインク)』
言葉は少なくても、火を囲み、美味い飯と酒を分かち合えば、もう立派なBro(兄弟)だ。潮風とスモークの香りが交じる港町の夜は、北欧の静かで熱い魂と共に心地よく更けていくのだった。
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次回7:00公開予定。




