021 Death run
防衛戦は、太陽が西の空を赤く染める夕暮れ時に突入した。
通常であれば、度重なるウェーブによる疲労で戦線が崩壊してもおかしくない時間帯だ。しかし、今日の冒険者たちは違った。むしろ、時間が経つごとにその動きはキレを増していた。
「ウォォォォ! なんだこれ、力が底から湧いてくるぞ!!」
「BBQソース、最高ォォ!!」
彼らの胃袋に収まった『レッドボアのBBQ・サンドイッチ』。
長時間スモークされ、極上のBBQソースがたっぷり絡んだその肉は、彼らに『BBQパワー』という名のバフをもたらしていた。筋力向上、体力回復、そして何より「最高に美味い肉を食った」という異常なまでの士気の高さ。
押し寄せるサハギンの群れを、冒険者たちは文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げ、圧倒的な力で海岸線へと押し返していく。
「よし、このウェーブで終わりだ!」
前衛のひとりがそう叫び、勝利の空気が漂い始めた、その時だった。
ザバーーーン!!
海岸線の少し沖合から、これまでのサハギンとは比較にならないほど巨大な水柱が上がった。
水しぶきの中から現れたのは、全身を鈍く光る分厚い鱗に覆われ、巨大な三叉槍を手にした異形の怪物。
「な、なんだあのデカさは……!」
ボス……サハギン・キングの登場だ。
巨体から繰り出される薙ぎ払いで、バフ状態の冒険者たちでさえ次々と吹き飛ばされていく。
「くそっ、攻撃が通らねえ! 鱗が硬すぎる!!」
剣も槍も分厚い鱗に弾かれ、戦況は一気に逆転。前衛の冒険者たちは防戦一方となり、苦戦を強いられていた。
「……行こう」
後方で戦いの行方を見ていた俺に、短く声をかけたのはJariだった。
その手には、美しい木目が特徴的な狩猟用コンビネーションウェポン、『ブレイザー BBF 95(Blaser BBF 95)』が握られている。
「ああ。最高のBBQの後は、最高のパーティータイムと行こうぜ!」
俺も『ウィンチェスター M70(Winchester Model 70)』を取り出し、薬室に弾を送り込む。
ジャキッ、と硬質な金属音が夕暮れの浜辺に心地よく響いた。
俺とJariは素早く移動し、後方の高台で杖を構え、魔法のタイミングを計っていたエルナと合流した。
「エルナ、いけるか?」
「ええ、いつでも。でも、動きを止めないと……」
「大丈夫だ。俺が隙を作る」
ウィンチェスター M70を構えるとサハギン・キングの頭上、誰もいない海に向かって、.458ウィンチェスター・マグナムを立て続けに3発、発射する。
ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
突然の轟音。
サハギン・キングと前衛の冒険者たちの動きが止まり、皆一斉にこちらを振り向く。
俺は前衛に向かって大きく手を振り、「伏せろ!」と大声で合図を送った。
意図を察した前衛たちが、一斉に砂浜へ身をかがめる。
その瞬間、俺たちからサハギン・キングへの射線が、一直線にクリアになった。
「今だ! 撃てェ!!」
サハギン・キングに攻撃魔法が殺到する。
俺の隣にいるJariのブレイザー BBF 95も火を噴いた。
放たれた9.3x74R弾は空気を切り裂き、サハギン・キングの右足を撃ち抜く。
Jariは銃身を折って空薬莢を弾き飛ばすと、精密機械のような無駄のない動きでリロードし、次弾を発射する。
サハギン・キングの左足にも鮮血が走る。
『ギィィィッ!?』
予期せぬ痛撃に、サハギン・キングが三叉槍を手放し膝をつく。
「Jari! トドメはもらうよ!」
「……どうぞ」
俺はウィンチェスター M70の薬室に残る.458ウィンチェスター・マグナム、最後の一発をサハギン・キングの心臓に狙いを定め、引き金を引いた。
ドンッ!!
銃口から放たれた閃光が、薄暗い水辺の空気を切り裂いた。
放たれた弾は、サハギン・キングの分厚い青緑色の鱗を紙のように貫き、その奥で激しく脈打つ巨大な心臓を正確に粉砕した。
「手応えあり! 心臓を潰した!」
俺の叫びと同時に、サハギン・キングの巨体が硬直する。破壊された胸郭から、どす黒い血液が間欠泉のように噴き出した。
やった、倒した。誰もがそう安堵しかけた瞬間——サハギン・キングの濁った黄色い眼球が、不気味にギョロリと動いた。
『ギ、ギィィィィィィィィルルルルッッ!!』
それは、怒りでも痛みでもない。死の淵に立たされた生物の脳が、残された僅かな酸素を燃やして発した、純粋な生存本能の絶叫だった。
心臓というポンプを失ったにもかかわらず、サハギン・キングの肉体は過剰なアドレナリンに支配され、狂戦士と化して前衛へと襲いかかった。
「Death runだ! 気をつけろ!」
「馬鹿な、まだ動くのか!?」
「気を抜くな! 盾を構えろ!!」
前衛の冒険者たちが怒号を交わし、即座に盾持ちが横一列に並ぶ。
直後、サハギン・キングの無軌道な剛腕が、盾の壁を無慈悲に殴りつけた。
ガァンッ! と鼓膜を破るような音が響き渡る。心臓を失っているとは思えない、いや、リミッターが外れた分、先ほどまでの攻撃よりも遥かに重く、速い。理性を失ったサハギン・キングは、自らの腕が傷つくことすら厭わず、ただ目の前の敵を道連れにしようと嵐のように拳を突き出した。
飛び散る泥水。焦げた火薬の匂いと、むせ返るような生臭い血の悪臭が混ざり合い、戦場を支配する。
「行かせる、かよァッ!!」
ガンツが大剣を振り回し必死にサハギン・キングの猛攻をさばき続ける。
この暴走が永遠に続くわけがない。脳に巡る酸素が尽きれば、必ず終わる。その事実だけを頼りに、前衛陣は死に物狂いでサハギン・キングの最期の足掻きを受け止める。
十秒、二十秒。まるで永遠にも感じられたその時。
不意に、サハギン・キングの動きがカクン、と不自然に途切れた。
高く振り上げられた拳が、宙で力なく停止する。脳の活動限界——ついに、その瞬間が訪れたのだ。
巨大な質量が、つっかえ棒を失ったかのように前のめりに崩れ落ちる。
ズドォォォンッ!!
地響きとともに泥水が数メートルの高さまで跳ね上がり、戦場に泥の雨を降らせた。
ピクピクと反射で動く指が、やがて完全に動かなくなるのを見届けると、前衛の戦士たちは盾を落とし、その場に泥まみれになって座り込んだ。
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次回7:00に公開予定。
タイトル、長文をつけ足しました。
混乱した方いましたら、ごめんなさい。




