016 Texas Beef Ribs
俺はダッチオーブンで表面にしっかり焼き色をつけた豚とキング・タウロスのモモ肉に、たっぷりの香味野菜とビールを注ぐ。重い蓋をしてじっくりと蒸し煮にし、肉がホロホロになるまでゆっくりと待つことにした。
エルナは、『よ●ばと!』を読み終わり、今度は科学に興味を持ったので『Dr.ST●NE』を渡したのだが……。
「Ken……石化の呪いが解ける復活薬だけど、これ作れる?」
「Wait! エルナ、よく聞いてくれ。それはフィクション。作り話なんだ」
「……つまり嘘っていうこと?」
「Sorry……俺達の世界には石化の呪いも、石化から復活する薬もないんだ」
「分かったわ。でも、それはあなた達の世界の話でしょ? もしこの復活薬で石化が解けるなら大発見よ! それで、この薬作れるの?」
「作れるかと聞かれれば、作れるけど……」
「ちょっと作ってみてよ!」
大興奮のエルナをなんとか落ち着かせたあと、ふと周りを見ると、ライバルであり戦友でもあるテキサスBBQピットマスターのハンクが、特大オフセットスモーカーの前で火の番をしていた。俺はドクペ片手に歩み寄る。
「Hey、ハンク。アンタはずっとこのガレリアの街にいるのか?」
ハンクはスモーカーから目を離さず、短く鼻を鳴らした。
「いや、極上の牛を求めて、あちこち旅をしてる。週に何回か、こうしてBBQをしてるな」
「HAHAHA! 流石はカウボーイ! テキサス魂だぜ!」
「フン。今日は極上の『テキサス・ビーフリブ』を仕込んでる。お前にも食べさせてやるよ、サムライボーイ」
「Oh! そいつは最高だ! 楽しみにしてるぜ!」
ビーフリブ。牛の骨付きあばら肉を長時間スモークした、巨大で野性味あふれるBBQの王様だ。期待で胸が高鳴る。
「Ken、この『ラーメン』っていうの食べてみたいんだけど」
「……また今度な」
「モテる男は大変だな! サムライボーイ!」
◆◆◆◆◆
そして夜。
ダッチオーブンの中でコク深く仕上がった『異世界ダブルモモ肉のカレー』と、ハンクの『テキサス・ビーフリブ』が同時に完成した。
「仕上げに福神漬けを付けて完成だ!」
Mama:『OK! やっぱりカレーといえば福神漬けよね!』
:『らっきょうも今度試してみて!』
:『やっぱり、たくあんなんだよな!』
:『きゅうりのキューちゃんも美味しいよ』
盛大な宴会がスタートした。
「さあ、みんな食べてくれ! 日本のソウルフード、カレーだ!」
ガンツやエルナ、トーマスたちが、恐る恐るカレーライスを口に運ぶ。
「うおおおっ!? なんだこの複雑でスパイシーな美味さは! 硬かったはずのモモ肉が口の中で溶けるぞ!」
「この『ライス』にドロっとしたスープを絡めて食べると、スプーンが止まらないわ! 刺激的な辛さが冷えたエールと悪魔的な相性ね!」
「おお……スパイスの刺激の奥に、じっくり煮込まれた肉と野菜の濃密な甘みを感じますぞ! 昨日のBBQとはまた違う、米が進みすぎる恐ろしい料理ですな……!」
カレーライスは大好評だ。
そして俺の目の前には、ハンクが切り分けてくれた巨大なビーフリブが鎮座している。漆黒のバーク(樹皮)に包まれ、骨から肉がホロリと外れそうな極上の仕上がりだ。
一口齧り付いた瞬間、力強い牛肉の旨味と強烈なスモークの香りが口いっぱいに爆発した。昨日のブリスケットも最高だったが、骨周りの肉ならではの濃厚な味わいはまた格別だ!
「Oh my god……こいつはたまらないぜ!」
するとハンクがニヤリと笑い、どこからともなく見慣れた琥珀色のボトルを取り出した。
「エールもいいが、テキサスBBQの相棒にはコイツだ。Mild Turkey Rare Bird (マイルドターキー レアバード)。バーボンの真髄を教えてやるよ、サムライボーイ」
マイルドターキー蒸留所:『テキサスBBQという「本物」の横に並ぶ資格があるのは、レアブリードだけ。異論は認めません!』
East Tops Whiskey公式:『おいおい、七面鳥さん、ずいぶんとデカい口を叩くじゃない。カンザスシティの魂が詰まったうちの James Bang Rye を飲んだら、腰を抜かして巣に逃げ帰るぜ?』
Bluebird Brewing公式:『ウイスキーおじさんたち、度数の高さで脳みそまで蒸留されちまったのかい? ビーフリブの濃厚な脂も、カレーの強烈なスパイスも、綺麗に洗い流せるのはうちの Bale Ale だけ。Q.E.D.(証明終了)』
East Tops Whiskey公式:『↑ Bale Aleさん、まずはKenのガレージに空き缶が何個転がってるか数えてから出直してきな。売上への貢献度ならうちの勝ちだろ? lmao』
Rabbit Laboratories公式:『……まぁ、お前ら全員、明日の朝にはうちに泣きつくことになるんだけどな。仲良くやりなよ』
企業公式のプロレスを横目に、アルコール度数が高く強烈なバーボンをストレートで煽り、完全に心地よい酔いが回ってきた俺は、思考が愉快で大胆な方向へシフトしていくのを感じていた。
俺はビーフリブを手に取ると、……カレーに、ちょっとディップして、
「いただきま――」
「おい!! 何してんだサムライボーイ!!」
突如、ハンクの怒号が響き渡った。
「俺が完璧な温度管理と塩胡椒だけで仕上げた至高のビーフリブを……そのドロドロのスパイス汁に沈めやがったな!? 肉に対する冒涜だぞ!!」
「HAHAHA! 落ち着けよハンク! カンザスシティじゃ何にでもソースをつけるんだ! それに、日本のカレーとテキサスBBQのコラボレーションだぜ! ほら、アンタもやってみな!」
「ふざけるな! 俺の肉はそのまま食うのが一番美味えんだよ!!」
顔を真っ赤にして怒るハンクと、大笑いしながらカレーまみれのビーフリブに噛み付く俺。
その横では、異世界の住人たちがカレーライスを食べ、冷えたBale Aleを呷って大騒ぎしている。
:『ハンクおじさんガチギレで草 lmao』
:『そりゃテキサスBBQをカレーにぶち込んだら怒るわww』
Dad:『Ken! それは流石にハンクが正しいぞ!』
リスナーやDadのツッコミがチャット欄を流れる中、香ばしい煙とスパイスの匂いが入り混じるガレリアの夜は、賑やかに更けていくのだった。
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次回7:00に公開予定。




