013 KC vs Texas
深夜0時。交易都市ガレリアの城壁の外。
静まり返った広場で、俺は1人、特大スモーカーの前でパチパチと爆ぜるヒッコリーの薪の音に耳を傾けていた。
「Hey Everybody。今は深夜の0時だ。昨日仕留めた巨大なキング・タウロスのブリスケットをスモーカーにぶち込んだぜ。 こいつを完璧なホロホロに仕上げるには、ここから18時間の『Low and Slow(低温でじっくり)』が必要だ。完成は今日の夕暮れ時だな」
スマホの画面には、日本の昼休みを満喫しているリスナーたちからのコメントが流れている。
:『深夜のBBQ配信とかチルいな』
:『18時間耐久配信www』
Mama:『日本は、もう昼なのね。Ken、火傷しないようにね』
ガレージ・リンクで取り寄せた漫画を読みながら、スモーカーの番をしていると、暗闇の奥からザク、ザクと重い足音が近づいてきた。
「Boy、調子はどうだ?」
振り返ると、そこには見覚えのあるテンガロンハットと、分厚い革エプロン。一昨日、圧倒的なテキサス・ブリスケットで俺を打ちのめしたテキサスオヤジだった。
「HAHAHA! いい感じさ! ゆっくり話すのは、初めてだな。俺はカンザスシティ出身、米日ハーフのKenさ!」
俺が笑って手を差し出すと、男はフッと鼻を鳴らしてその手を力強く握り返してきた。
「サムライボーイか! 俺はハンクだ!」
ハンクは俺の隣に置かれた丸太に腰を下ろした。俺がクーラーボックスから冷えたドクペを取り出して渡すと、彼は無言で受け取り、一口あおった。
「……で、サムライボーイ。お前のカンザスシティのBBQってのは、どういう流儀なんだ? 俺のテキサスBBQは、塩と黒胡椒だけで肉自身の暴力的な旨味を引き出す。 スパイスと煙が織りなす真っ黒な『樹皮』こそが至高だ」
「テキサスが肉の旨味の直球勝負なら、俺たちカンザスシティは複雑なハーモニーさ。ブラウンシュガーの『甘み』と、ビネガーやトマトの『酸味』を効かせた特製ソースを絡める。 じっくりスモークして、最後にそのソースでテリッテリに仕上げるんだ!」
俺の言葉を聞いて、ハンクは大袈裟に肩をすくめた。
「どいつもこいつも肉をソースの海に溺れさせたがる。最高のキング・タウロスの肉が泣いてるぜ、サムライボーイ」
「HAHAHA! 何言ってんだハンク。このソースこそが魔法なんだよ!」
俺が笑いながら、スモーカーの蓋を開け、ブリスケットの中心温度を肉芯温度計で測ろうとすると、すかさずハンクが横から口を出してきた。
「おいおい、プローブなんかに頼るな。肉の弾力を指で感じろ。温度計の数字じゃなくて、肉の声を聞くんだよ」
「Wait、この巨大なキング・タウロスだぜ!? 中心まで完璧な火入れを決めるには、温度管理が命なんだよ!」
Dad:『その通りだKen! テキサスの頑固親父の言うことなんか聞くな! 数字は嘘をつかない!』
:『ハンクおじさん、完全に姑モードで草ww』
:『BBQガチ勢同士の深夜のレスバ最高 lmao』
◆◆◆◆◆
そして、太陽が真上に登った昼頃。スモーク開始から12時間が経過していた。
「だから! ここでアルミホイルで包む(テキサスクラッチ)のは早すぎるって言ってんだよ! 樹皮がまだ育ち切ってねえぞ!」
「いや、このキング・タウロスの肉質なら、今のタイミングで包んで肉汁を閉じ込めたほうが絶対にジューシーに仕上がるんだって!」
「サムライボーイ、お前は本当にマニュアル通りだな!」
「アンタこそうるさいピットマスターだな! 少しは黙ってドクペでも飲んでてくれ!」
「Ken、差し入れ持ってきたわよー……って、あなた達、まだやってるの?」
街の方から、紙袋を抱えた魔法使いのエルナが呆れたような顔で歩いてきた。
「Oh! エルナ、Good timing! 腹ペコだったんだ」
「はい、これ。市場で買った評判のミートパイよ。 ……それにしても、私が朝起きた時も言い争ってたのに、お昼になってもまだ肉の焼き方で喧嘩してるの? 本当に肉バカね、あなた達」
エルナがやれやれと肩をすくめると、俺とハンクは顔を見合わせ、同時に笑い出した。
「喧嘩じゃないさ。これはピットマスター同士の神聖なディスカッションだぜ!」
「フン、このサムライボーイが頑固で言うことを聞かねえだけだ。……嬢ちゃん、俺の分のパイはあるのか?」
:『エルナちゃん完全に保護者ww』
:『肉バカおじさんたち仲良すぎだろ lmao』
:『12時間同じ話してるのヤバすぎる lol』
エルナからの昼飯をかじりながらも、俺たちのBBQ談義は止まることなく続いた。言葉はぶつかり合っても、煙を挟んで肉と向き合うこの時間は最高にクールだ。
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次回7:00公開予定。




