012 Mithril Knife
巨大なブリスケットにたっぷりスパイスを擦り込んだあと、俺たちは街の見学へと繰り出した。
「Hey Everyone! 仕込みはPerfect、ここからはこの新しい街の散策だ!」
俺がスポンサーロゴだらけのド派手なTシャツをはためかせながらスマホを掲げると、チャット欄がすぐに勢いよく動き出す。
:『歩く広告塔、異世界の街に降り立つ lol』
:『相変わらずF1レーサーみたいなTシャツで草』
Bluebird Brewing公式:『大交易都市の皆さんにも、我が社のロゴがバッチリ見えていますね!』
:『公式の営業活動早すぎるwww』
「ここは『大交易都市ガレリア』。オルディアの町とは規模が違う。街道の要所に位置していて、世界中の珍しい食材や資材、それに腕利きの冒険者が集まる商業のハブなんだとさ」
見上げるほどの石造りの建物が並び、行き交う人々の熱気で溢れかえっている。
「まずはここ、ガレリアの冒険者ギルドだ。キング・タウロスの革を売りに行くぜ」
オルディアの数倍はある巨大なギルドの買取カウンターに、俺はガレージ・リンクからキング・タウロスの分厚い革をドサリと取り出した。
査定を担当する恰幅のいいドワーフの親方が、それを見た瞬間、手にしたパイプを落とした。
「おいおいおい……! こりゃあキング・タウロスの革じゃねえか! しかも、このサイズ……傷がほとんどねえぞ!?」
「真正面からの撃ち合いは避けたからな。横から心臓を直接ワンショットさ」
「心臓を一撃だと……!? どんな大魔法か、あるいはドラゴンスレイヤーの業だ。これほど綺麗なタウロスの革は見たことがねえ。金貨20枚でどうだ!」
「相場よりかなりいい値段ね。どうするKen?」
「買いたい物があるから売るぜ!」
:『金貨20枚!! 大金ゲットキターーー!』
Dad:『よくやったKen! 職人の技術には正当な対価が支払われるべきだからな。それで新しいBBQギアでも買え!』
:『銃の威力が、革の査定で証明されてて草ww』
ギルドを出てホクホクの懐になった俺たちは、さまざまな物資が集まる中央市場へと向かった。露店には見たこともない色彩の果物や、怪しく光る鉱石が並んでいる。
「次のお目当てはこれさ。鍛冶屋の並ぶエリアだな。キング・タウロスの肉を捌いて思ったんだが、地球のナイフだけじゃ、こっちの肉の硬いスジに対抗し続けるのは厳しい」
一軒の鍛冶屋の店内で、俺の目は釘付けになった。
カウンターの奥の棚に鎮座する一本のナイフ。
「ん!? お兄さん流れ人かい? 良い目を持ってるねぇ」
店主の男がニヤリと笑う。
「こいつは『ミスリルのナイフ』だ。頑丈で、刃こぼれとは無縁。強靭な獣の皮でも肉でも、まるで温めたバターみたいに滑らかに切り裂ける最高の一品ですぜ。金貨20枚でどうです?」
「Wow……Beautiful。試しに持たせてもらえるかい?」
手に取って眺めていると、試し切りにと店主が出してくれた魔獣の硬い毛皮の切れ端に刃を当てる。力を入れるまでもなく、吸い込まれるように真っ二つに切れた。
「これで金貨20枚? かなり安いわね……」
「おや、お姉さんも目が肥えてますね。まだミスリルを扱い始めて日が浅い鍛冶師なんですよ。でも腕はご覧の通りピカイチ! 今買わないと金貨20枚でこのレベルのナイフは、二度と手に入りませんぜ」
「Perfectだ! こいつをもらうぜ!」
:『ミスリルの解体ナイフwww贅沢すぎるww』
:『異世界のチートナイフを手に入れた!』
East Tops Whiskey公式:『美しい刃ですね。そのナイフで綺麗に切り分けられた肉には、我が社のウイスキーが絶対に合います』
ナイフを腰に帯び、次に街の中心にそびえ立つ巨大な神殿へと向かった。
「新しい街に来たら、神殿でお祈りをするのがこの世界のジャスティスだからな」
「ふふん、よく覚えているじゃない。ガレリアのこの神殿はオルディアよりずっと大きくて、ご利益もあるんだから」
エルナに案内され、厳かな大聖堂の中へ。ステンドグラスから差し込む光が、中央にある蒼い石の御神体を照らしている。
俺は木箱に銀貨を入れ、御神体に手を当てて目を閉じた。
「神様。明日、最高のカンザスシティ・ブリスケットが焼けますように。BBQソースと共にあらんことを」
:『お祈りの内容がやっぱり肉一色ww』
:『テキサスへの対抗心が隠せてない lol』
Mama:『ガレリアの神殿、ゴシック様式っぽくて本当に素敵ね! ブリスケットの神様も、きっとKenの声を聞き届けてくれるわよ』
もちろん、訪問記念の鮮やかな蒼いリボンもしっかり購入。これでランクルのルームミラーがまた一つ華やかになる。
神殿を出ると、まだ夕方で辺りは明るい。
「Kenどうする? 大きな街だから他にも神殿あるわよ? まあ、他の神殿は次来た時にとっておいてもいいし、もうちょっと街をぶらぶらする?」
「いいや、街の見学はここまでだ。エルナ、宿屋へチェックインしにいくぞ。そして俺は、速攻でベッドに入る!」
「ええっ!? ちょっと待ってよKen、まだ太陽が沈む前よ? もう寝ちゃうの?」
エルナが信じられないといった顔で声を裏返した。
:『早すぎだろwww』
:『さてはJames Bangを隠れて飲む気だな? lmao』
「No, no, no! 誤解しないでくれEverybody! 明日は、日の出前からブリスケットをLow and Slowだ!」
俺は不敵な笑みを浮かべ、カメラを指差した。
「テキサスはシンプルだが、俺のカンザスシティ・スタイルはブラウンシュガーの甘みとビネガーの酸味が命だ。そして、あの巨大なキング・タウロスのブリスケットを、芯までホロホロの極上に仕上げるための『Low and Slow(低温でじっくり)』。スモーク時間を計算すれば、日の出前、いや深夜には火を起こさなきゃ間に合わねえんだよ!」
チャット欄が一気にヒートアップする。
Dad:『その通りだKen! ブリスケットの火入れをナメてかかる奴にピットマスターの資格はねえ! 早く寝て体力を蓄えろ!』
:『うおおおお! 深夜からスモーク開始か!』
Mike:『KC vs テキサス、異世界のBBQ頂上決戦がマジで始まるんだな!』
「そういうわけさ! 最高の肉、最高のナイフ、最高のスパイスは揃った。あとは俺が最高のコンディションで挑むだけだ。それじゃあEverybody、またスモーカーの前で会おう! Good night!」
明日のBBQに向けて、俺はガレリアの宿屋のベッドへ一番乗りで飛び込み、またたく間に深い眠りへと落ちていくのだった。
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次話明日7:00に公開予定。




