表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜想曲『花の国』  作者: ことは
Secondo movimento『月の詩』
98/116

序奏中節

かつて、白妙は、絢爛の国であった。

作り上げてきた秩序は、装飾を奏で、序列を彩る。

都の中心に棲まう者は、その事が誇りとなる。

やがて、そこには、轟く名の大きさ、持つものの質と数、そして住まう場所の大きさが競われ始める。

いつか、そこで住まう事に誇りを持っていた民は、どれほど得ても足りぬと踠き始めた。


その色彩が濃くなるほどに、都の外れから朽ちていく。

搾取する者と、奪われる者。

華やかな音色を奏でる大通りの傍で、最早、道とは呼べぬ地に這う泥濁。

それは、自らの灯火が未だ残っていることさえ知らぬ器と、消え変えた灯火をひたすらに抱き踠く器、その何れも、明日を見ず、今に縋る。

そこに築かれた見えぬ壁。

たった一つの、その彩りが、白妙の秩序を強固なものへと変えていく。



白妙と漆黒の戦争が、火となって紡がれ始めた頃、既に、都の中心に棲まう者にさえ、大きな差に彩られていた。

国が求めるものを持つ者、それが、国を牛耳る者となる。

その最たる者は、一人の武器商人。

彼の売る物は、武器に留まらなかった。

そして、買うものもまた、多岐に渡る。

その事が、凡ゆる生業に名を馳せる架け橋となった。

いつの頃からか、彼は、錬金術師と名乗り始める。

その所以は、価値を、より価値のあるものに変える事にある。

全ては、彼の思い通りに進められていった。

やがて、リュパンという彼の名は、抗えぬ者として白妙に深く刻まれる。

その一声が、甘美に群がる都の装飾を動かし、リュパンを満たす。

リュパンへと集められた魅惑を奏でる商品が、彼の手に触れられれば、それを持ち参じた者が歓喜する。

そしてそれを、より価値のあるものへと塗り替えて、リュパンは、知を持たぬ装飾の持つ欲へと施す。

その連鎖が、王と名乗る事が赦されぬ地で、王と名乗る事が赦されぬ者を、王の様に振る舞わせた。


だが、それは、一夜にして崩れ落ちる。

砂となり、崩れゆく、リュパンの館。

それは、それ以外の全てが、既に砂となって朽ち始めた証でもある。

逃げ惑う幾多の灯火が、白銀の連なりに導かれ、離れた地へと歩む。

残されたのは、面影さえも失った都。

そして、それに縋り続けるリュパンの影。


それは、一つの刃が、怨嗟という正義の元に、赤い花を咲かせた日。

そして、それは、二つの灯火が、空へ羽ばたいた日でもある。



レーヌの奏でた砂塵の詩は、絢爛なる装飾のみを溶かし、灯火を一つも傷つける事はなかった。

ただ、そこに遺ったのは、確かな想い。


それは、新たなる白妙を築いた。

それは、贖罪を奏でる街を築いた。

それは、剣無き剣聖が育む営みを築いた。

そして、それは、遠い旅路を歩む足跡を築いた。


その旋律に呼応するように、メルの贈った種が芽吹く。

それは、純白の肌の奥、清らかなる心に植えられた種。

それは、誰も知らない確かな彩り。

その種を宿す、白銀の髪の少女さえも、その灰色の瞳に、それを映すことはなかった。

ただ静かに、白妙の宮殿に次ぐ、都の壮麗な館の中で、夢から醒めるように、その花を咲かせようとしていた。



戦争を経た、幾つもの今が、傷を遺された、この世界を行き交う。


勇者と魔王が、初めて神の手から離れる事を選んだ、この継ぎ接ぎの世界が、ようやく歩き始めたのだ。

まるで、ここに歩む二人の少女が、架せられた運命から、逃れようとするかのように。


「あのね、前に、知らない女の子に、教えてもらったの。」

途切れそうな音色を囁くのは、背に頬を寄せる少女。

「私たちの行く宛ての事かな。」

その音色に微笑む、鼓動を背に抱く少女。

「うん。」

「それは、どこかな。遠いかな。」

「きっと、遠いよ。」

「そうなんだね。良かった。」

「花の国という場所なの。」

背負う少女と、背負われる少女。

持つべきものを失った二人が、静かに囁き合う。

その足跡が、月光に彩り、小さな詩となった。



白銀の髪を風に靡かせ、その透き通る純白の肌の奥で、小さな種が育ち始めている。

黒曜の髪を結い、それを背負う赤濁と泥に塗れた、繊細なる白き肌。

その端麗な顔に輝く金色の瞳は、背に這う様に耳を撫でた言葉に、目指すべき地を映す。



砂塵の舞う荊の旅路。

幾星霜の果てに待つ彩りが、楽園である事を祈り、星が月に寄り添う。

花の国、遠き旅路が、緩やかに開かれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ