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夜想曲『花の国』  作者: ことは
Primo movimento『花の祈り』
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終楽章終節

出会った日、それは、別れの日への旅路の始まり。

それでも、寂しくないのは、別れの日は、再会への旅路の始まりでもあるが故。

そう想えるのは、これまでの彩りが、そこに集う全ての灯火にとって、掛け替えのない大切な宝物だから。


「チユ姉、本当に行っちゃうの。」

フルールが、チユの足にしがみ付く。

「また、帰ってくるよ。」

チユは、フルールの頭を撫で、優しく微笑む。


ここは、魔王城跡地、秘密の庭園。

テラの眠る聖域。

旅立ちの地として、ここを選んだのは、チユであり、メルであり、花の国の民であった。

それは、花の国の全てを以て、見送りたい、そして、見送られたいという願い故に。

「メル様、貴女が此処を旅立った日の私の気持ち、少しはご理解できましたか。」

メルの横に立つレーヌが、薄く開いた瞳でメルに囁く。

「とても理解したわ…。」

メルは、理由のわからぬ恐怖心を抱き、その瞳を見つめ返すことができずに囁く。

「とても、寂しいでしょう。」

レーヌの温かな手が、メルを撫でる。

「うん…。」

メルは、雫を抑える事をやめた。


一人一人の手を握り、言葉を交わしていくチユ。

その最後に選んだのは、メルだった。

「メルさん、今まで、ありがとうございました。」

「今までなんて、言わないで。チユちゃん。」

「そうですね。メルさん、これからも、お願いします。」

「うん。こちらこそ、チユちゃん。」

その微笑みが、二人を包む。

「メルさんに分けてもらった加護と、その使い方を教えてもらったこと、私の宝物です。」

「そう言ってもらえると、嬉しいわ。でも、治癒魔法は、使いすぎると、加護を超える代償を求めてくるから、気をつけてね。」

「もう何度も、聞きましたよ。安心してください。」

「それでも、心配なの。ごめんね…。」

「嬉しいです…。」

二人が、互いを優しく包み込む。

「ルナお姉さんに、会えるといいね。」

「必ず会います。その為の旅ですから…。」

「必ず帰ってきてね。二人分のご飯を用意しておくわ。」

「ルナお姉ちゃんは、トマトが好きでした。」

「それなら、得意な料理がいっぱいあるわ。」

「楽しみにしています。」

「うん。……このまま、ここに居てほしいな…。」

「私の力は、きっと、誰かの役に立てると、あの戦争で学びました。その為にも、世界を見て回りたいのです。」

「うん。わかっているわ。ごめんね、少し、わがままを言ってみたくなったの。」

「なら、私も、少しだけ…。ずっと、みんなと一緒に居たい…。」

重なる頬に、二つの雫が溶け合う。

「また、会おうね。」

その肢体に残る温もりを忘れないように、二人の瞳は優しく震えた。



「私は、荒野の牙。ラシレ達と共に過ごした小さな国。だから、ここを発ちます。」

チユは、集う灯火の前に立ち、穏やかに奏で始めた。


「たくさんの事が、ありました。

最初は、みんなでご飯を食べただけです。

でも、それが、とても嬉しかったです。

だから、一緒に、花の国を守りたかった。

でも、それは、……あの戦争は、多くのものを失いました。


もう、取り戻せません。

だから、縋り続けたいです。

…でも、それだけでは、私は、足りなくなりました。

私も、私にできる事をしたい。

ラシレみたいに強くはないけれど、私にもできる事がある。

それを教えてくれたのも、あの戦争の中での、皆さんとの彩りでした。

だから、ここを離れたくないけど、前に進みます。


やっぱり、私は、荒野の牙なのです。

でも、花の国は、私の家です。

私の故郷です。

だから、必ず帰ってきます。

私のベッド、残しておいてくださいね。」


チユは、ようやく息を吸い、穏やかに微笑んだ。


メルが託した木の指輪。

それをお守りに纏い、チユは、大樹に触れる。

少しずつ、淡い光がチユを包みゆく。

その光に隠されていく、幾つもの灯火。

「行ってきます。」

その音色は、優しく反響した。



「いってらっしゃい。」

それに呼応するように、テラの音色が、そこに集う全ての耳を撫でた。

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