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夜想曲『花の国』  作者: ことは
Primo movimento『花の祈り』
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第七楽章11節

勇者の加護を持つ者に与えられた禁呪。

それは、魂を失った器を傀儡として扱うもの。

人族も魔族も、その対象を人間であると考えてきた。

それを疑う事など、なかった。

それ以外に用いる事を、必要としていなかった。


だが、私は、その行使への嫌悪で、人へ使うことを禁じてきた。

故に、辿り着いた答え。

かつて、仲間を失い、魔王城へと独り歩んだが故の、縋り続けた彩り。

朽ちた草花、想いを託して手放された武具、祈りを捧げた石碑、詩を奏でた砂塵。

その中で、呼応してくれたのは…。


もう私に何も残っていなくとも、故に何も起こらずとも、試してみる価値はある。

もし、未だ、私に勇者の呪いの残火が燻り続けているのなら…。

「魂無き器に傀儡を彩る呪詛。」

それは、淡い光を奏で、砂へと朽ちるメルの花を包む。

その花には、初めから魂など無い。

だが、その花にも、器はある。


レーヌを包んでいた花は、全て崩れ落ちた。

溢れ出すレーヌの純白が、瞬く間に石造りを砂へと変えていく。

それは、白銀の連なりにさえ届き、彼らは、その身を守り抗う全てを失う。

彼らの正義の御旗は、風に逃げ惑い、抗う術を知らずに消えた。

そこに彩られるのは、絶対的な一つの真実。

それは、絶望。


それら全てを包むように、砂が舞い始める。

それは、純白を覆い隠し、レーヌへと纏う。

既に砂であるが故に、朽ちる事ができぬそれは、幾重にも連なっていった。


私から、私を歩ませ続けた枷が抜けていく。

私に強泥付いていた呪いが溶けていく。

それは、私から意識と力を奪っていく。

「驚いた…。だが、加減を知れ、馬鹿者…。」

冷たい温もりが、私の耳へと微笑みかける。

その穏やかなレーヌの彩りは、やがて、砂へと埋もれていった。

篩にかけられ、残された、私の意識と研いできた力が、私へと還る。


払った代償が、レーヌの手によって贈られた。

それに気づいた時、私は微睡みに堕ちた。

「レーヌが、居なくなっちゃった…。」

メルの囁きを子守唄に纏い、その温かく柔らかな華奢で可憐で愛おしい世界で一番大好きな腕に抱かれながら。



白妙の民を引き連れ、王都から離れていたグランディオーソの補助隊は、そこにあったはずの宮殿を見つめる。

「白妙の都を、失ってしまった…。」

加勢しに行かなくてはならない。

だが、民を引き連れている以上、為すべき事は、それではない。

ここから最も近い街は、勇者の故郷。

白妙が攻め込んだ、忌まわしき地。

「いや、忌まわれるべきは、我々か…。」

補助隊長スグリは、虚ろを彩る瞳に音色を奏でた。

「だが、せめて、民の無事だけでも乞うしかあるまい…。」

重い足跡は、その地へと向けられた。


そこには、崩れ落ちた家屋、焼け果てた記憶の欠片が散らばる。

だが、それを包む手は、一つも光を失ってはいない。

「派手に壊れてるわね。まずは、台所を作るわよ。」

リスヴァイスの黄色い旋律が、街を彩る。

「まずは、家を…。」

その夫、セダムは、機嫌を伺うように音色を奏でた。

「家を建てるには、満腹じゃないと力が湧かないでしょう。」

集う人々の微笑みが、高らかに空へと響いた。


瞬く間に生まれ変わる食卓は、寄せ集めた木の実とキノコ、街の外れであるが故に火を逃れた畑の野菜に溢れ返る。

「お肉も食べたい。」

子供達の不貞腐れた音色が、小さくこだまする。

「一日くらい、我慢なさい。」

それを包み込むのは、大人達のため息。

明日でなくとも、いつか、叶うことを知っている。

故に、人々は、工具を手に、穏やかな音色を奏で始めた。


白銀の連なりに囲まれ、色彩を失った民が、そこに辿り着いたのは、再び陽光が空を包み出した頃。

暁色に現を掴む大人達が、やがて目覚めるであろう子供達の為に、食卓を彩り始める。


その手を止めたのは、街を囲む崩れた防壁を囲む白銀を知ったが故。

「子供達を、すぐに起こして、逃げて。」

リスヴァイスは、手に持つ包丁を構え、そこに集う全ての人に囁く。

今度こそ、灯火さえ失われる。

微睡む子供達を隠された逃げ道へと導くより早く、その刃に奪われる。

ならば、せめて、自らを盾に、より多くの灯火を残す。

そこに迷いは無かった。


だが、掲げられたのは、剣ではなく干し肉。

「無礼を承知で乞う。ここに連なる民に、憐みを与えてほしい。」

スグリが街に響く旋律を奏で、武具を地に脱ぎ捨てる。

それに呼応して、全ての白銀が、地と共鳴する。

「貴方たちは、何をする気よ。」

リスヴァイスは、尚も包丁を持つ手が震えている。

だが、その意志は揺るがない。

「我々は、都に戻る。…勝ち負けなど、もうどうでもいい……。だが、…止めねばならん。都を守らねばならん。」

それは、白妙への反逆にも似た旋律。

力無き音色が、緩やかに漂う。

スグリには、そして、そこに連なる白銀には、喪失のみが纏っている。

「そう。なら、ご飯を食べていきなさい。」

リスヴァイスが、包丁をテーブルに置き、歩み寄る。

「食べ物なら、貴方達が持ってきたのだから、後は美味しくするだけよ。」

彼女は、微笑みながら、干し肉を受け取り、台所へと戻る。

「申し訳ない…。全て…本当に…。」

白銀を伝う雫が、青く彩られ始めた空に煌めいた。

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