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夜想曲『花の国』  作者: ことは
Primo movimento『花の祈り』
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第五楽章11節

挿し木が紡ぐ彩り。

それは、メルの施した手品。

それらは一つの旋律の元に繋がり、そして、還る。


挿し木に導かれ、淡い光と共に幾つもの灯火が、そこへ足を踏み入れた。

そこで、漆黒の民が目にしたものは、夢幻を疑う静寂。

「花の国の民は、まだ来ていないのか…。」

それは、焦燥の音色。

ジェルベラは、踵を返し、プラタヌを向く。

「あの指輪を貸してくれ。花の国へ行く。」

白妙が、漆黒の国だけを攻めるとは、まず考えられない。

そして、花の国の今の力で、それを退けるとも…。

ここに、淡い夢は描けない。

既に、花の国の剣も大きく削がれている。

だが、それを思うほど、ジェルベラは理を抱いてはいない。

「指輪を持とうとも、魔力がなければ、ただの飾り。私も行こう。」

そして、プラタヌもまた、同じ旋律を奏でている。

「これは、花の国の問題だ。巻き込めん。」

「自ら、漆黒の国に巻き込まれに来た者が、何を言っている。」

プラタヌの穏やかな微笑みが、ジェルベラを包む。

「まさか、結んだばかりの同盟を、放棄するつもりではあるまいな。」

その微笑みは、何よりも強い笑みへと変わる。

「ありがとう…。助かる。」

そして、それは、揺るがぬ拳の繋がりへと変わった。



花の国の砦は、強固だが小さい。

それは、彼らに一縷の光を齎してくれる。


守るべき範囲の狭さにより、決して多くはない花の国の盾でさえ、全方位を守るに足る。

どれほど大きな波であれ、重なり合う面が小さければ、凌ぐことはできる。


ヴィオラには、ほんの僅かな光が灯った。

故に、咆哮に揺れる紋章、黄色のアルストロメリアは、燦々たる旗めきを奏でた。

混ざり合う鉄に、小石が飛び交う。

それは白妙を翻弄し、花の国の盾の灯火を存えさせる。

だが、ヴィオラの心は、喜びには触れなかった。

「何故、来た。」

予想できなかったわけではない。

いや、来ると予想していた。

だが同時に、来てほしくないと願っていた。

「悪いかよ。」

ラシレが、荒野の牙と共に逃げる影を彩りながら囁く。

「…わからない。少なくとも、助かった。」

ヴィオラは、選択に迷う。

荒野の牙は、まだ幼い子らの集まりだ。

だが、今は、その戦力が尊い。

「だが、生きろ。」

それが、精一杯の答えであった。

「当たり前だ。私も、私についてきてくれた仲間も、必殺技は、逃げ足だ。」

そう言い残し、ラシレの影は消えた。


狭く暗い通路。

そこを駆けるのは、ラシレ。

その後ろを付くのは、エシナセ。

「正直に言うと、エシナセ、お前には来てほしくなかった…。」

二人は、立ち止まる。

「よく分からないけど、お前には、チユの元に残ってほしかったんだ。」

「どうして…。」

エシナセの顔に、不安が彩られる。

「生きてほしいから。」

ラシレは、目を伏せ、小さく囁く。

光の内通は、二人を影で覆っている。

故に、その頬が薄紅に染まっていることは、誰にも知られることはなかった。

「生きるよ。ラシレと共に。」

「仕方ないな。行くぞ。」

二人は、道の先の光へと、駆け出した。


「みんなが居ない…。」

ラシレだけなら、予想はしていた。

だが、荒野の牙の大半が居なくなっている。

チユが、それに気づいたのは、ラシレが居なくなった直後。

「アリウム、荒野の牙の子達が、ラシレと共に、どこかに行っちゃったわ。探してくるね。」

チユは、アリウムに駆け寄り、そのまま駆け出そうとした。

「僕も行く。」

「駄目よ。花の国の民を導くのでしょう。」

「そうだよ。民の全てを導くのが、僕の責務だ。」

その瞳は、何があっても揺るがない。

チユは俯き、静寂を語る。

何を言っても、答えは変わらない。

それ以上に、チユ自身がしようとしていることが、その何かを言う資格を奪っている。

「…わかったわ。でも、私から離れないで。」

アリウムは、フルールを抱くリナリアを見つめ、小さく微笑む。

そして、小さな吐息を彩り、前を向いた。

「わかった。行こう。」



それは、崩壊の音色。

触れる面が限られていようとも、途絶えることなく迫りくれば、少しずつ削られていく。

最早、ヴィオラの咆哮が、何を意味しているのかさえ、聞き取ることはできない。

ただ、刃の重なる閃光と、弾かれる旋律だけが、花の砦を支配している。


斬り伏せた白妙は、限り無い。

だが、花の国の盾もまた、その花弁を散らせていく。

ヴィオラは、折れた剣を投げ捨て、石造りを埋める様に散らばる刃を握り、意志を受け継いだ。

盾で在り続ける。

花の国の子を守り続ける。

テラを慕い、テラを追い、ようやくテラの元へ辿り着いた。

誓いを忘れるな。

それだけが、ヴィオラの重い肢体を突き動かす。

どれほど盾が立っているかさえ、わからない。

「アリウム、早くしてくれ…。」

もう、砦を守り切るという望みは手放した。

故に、最後の願いは、民の逃避。

ヴィオラの愛する民、花の国の子らが、未来を紡ぐ。

それだけが、離すことのできない願い。


弔いの聖域に強い魔力を感じさえすれば、メルとの約束は果たされたに等しい。


散りゆく仲間の灯火を見つめながら、赤い花弁の舞に翻弄されていく。

その中でヴィオラは、一つの願いを奏で続けるしかなかった。

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