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第一楽章2節

頬を撫でる穏やかな青に、私は夢に触れていた事を知る。

その腕の中にあるはずの温もりが、空白だけを残していた。

「メル…。」

震えを隠せない吐息が、陽光に溶ける。

ここは魔族の領地、故に、安らぎに深く溺れていた。


過ぎるのは、魔王城を落とした鉄の雨。

それが、メルを絡みとり、旋律が消える。


私は、廃墟を飛び出した。


「おはようございます、テラ。」

柔らかな笑みは、私の心を撫でる。

メルを包む紗の裾を籠に、豊かな芳香を包む彩り。

透き通る肌が陽光に煌めく。

その安らぎに、私の触れる土が溶け、底へと落ちた。

「どうされましたか…。」

木の実の跳ねる音色を縫うように、メルの声が響く。

静かな風を靡かせ、崩れる様に私を抱く手。

その淡い温もりに、私は思わず囁いた。

「メルが居る事の幸せを、思い出しただけだよ…。」


木漏れ日を歌う小鳥たちが、二人を包んだ。

転がる木の実の香りに、メルの影を辿る。

「この木の実は…。」

「この辺りの子たちに、分けてもらいました。」

ここを辿る足跡に、人の息遣いを知ることはなかった。

その魔力の欠片さえ、触れることはない。

「この辺りに、集落があるのか。」

その問いに、メルは、薄紅の音色を奏でる。

「いえ、ここに棲まう木々たちです。」



燻る香りが、青天を彩る。

舞い降りた小さな命が、甘美を啄ばむ。

黄金色の丘から、私も一つ頬張った。

「こんなにたくさん、ありがとう。」

胸を包む温もりに、柔らかな吐息が漏れる。

私を巣食う虚無は、いつもメルの贈りものに満たされてきた。

私より、私を紡ぐメルを、隣で守りたい。

その想いが、思わず漏れた。

「だけど、一人で行くのは、心配してしまう。」

見据えたメルの瞳に、柔らかな記憶が揺れる。

「ごめんなさい…、テラも、レーヌと同じ事を言うのですね。」

穏やかに紡ぐメルの音色は、純白の園に黄色く揺らめく。

「でも、レーヌは、怒った後は、いつも褒めてくれましたよ。」

その無垢な微笑みは、私の初めて見る彩り。

私の心は、その色彩に深く溶けていく。

「メルが、たくさん分けてもらってくれた木の実を、次は一緒に集めたい。」

「はい。それは…、私の幸せです。」

擂られた木の実に、蜜の香りが絡まり、甘美の口溶けが、穏やかな旋律を奏でた。



メルの過ごした聖域は、もう既に、雲より遠くに彩られている。

土を踏む二つの音色は、やがてカノンを紡ぎ始めた。

「少し、休もう。」

私の囁きに、メルに笑顔の色彩がもどる。

その繊細な指が彩る温もりを握りしめ、小さな広場で寄り添った。

腰を下ろした先に広がる、芽吹きの香り。

風に揺れる葉が、空に彩りを咲かせる。


肩に感じるメルの温もり、その髪が私の腕をなぞる。

二つの吐息が混ざり合い、柔らかな旋律を奏でた。

「雲に、追い抜かれてしまいましたね。」

空を見つめるメルの横顔は、これまで見たどの絵画より美しい。

私は、魔王城を出てから初めて、メルと同じものを感じることを見失った。

メルの柔らかな彩りに、私の鼓動がコーダの様に響く。


「どうされましたか。」

私の眼差しに、メルの髪がなびく。

その刹那、目に映る全てが、メルに収束した。

触れ合うまつ毛が、旋律を掻き消し、世界に二人だけを彩る。

「私の、…初めてなの。」

絡み合う吐息が、焦がす温もりを奏でる。

瞳に映るのは、枯れることのない一輪の薔薇。



せせらぎに漂っていた清憐の心は、その色彩に掬われた。

ただ一つの想いとなって…。

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