第四楽章終節
メルと、小さな子供達。
花園の反対に位置する広場には、多くの遊具が彩られている。
「私、かくれんぼが得意なのよ。」
メルは、子供達に、誇らしげな音色を奏でた。
「怖くて優しいお姫様、レーヌに気づかれないように、かくれんぼの魔法で、いつもお城を抜け出していたのよ。」
メルの持つ、かくれんぼの魔法は、姿を隠す事ができる。
だが、魔力までは隠せない。
故に、彼女は、魔力を完全に隠せるように、汗と涙の努力を積み重ねたのだ。
ただ、お城を抜け出して、魔族の民達と遊ぶためだけに。
「でも、今日は、魔法は使わないわよ。でも、みんなには、後で、魔力を隠す練習を教えてあげるからね。」
子供達に囲まれながら、メルは一つ一つの頭を撫でる。
「さあ、次に探す番の子は誰かしら。」
声だけ聞いていれば、子供しか居ない、その彩りを、遠くの窓から、私は眺めている。
「天使だ…。」
私は、その甘美たるため息に、心を満たしていた。
花の砦の小さな花壇。
それが犇めき合う中庭に、二つの影が微かな旋律を奏でている。
「そうなると、思っていたわ。」
ロベリアが、静かに紡ぐ。
「…すまない。」
ヴィオラは、俯きながら、小さく囁いた。
「どうして、貴女が謝るの。そんなもの、覚悟の内よ。」
「だが、森が燃える。魔族の民が傷つけられる。ロベリア殿の国が、崩壊へと進む。もう、軍は壊滅状態なのだろう。」
白妙の第一旅団、第二旅団、そして、最強と謳われる第六旅団。
それが、漆黒の塔へと進行を始めた。
白妙の国は、ここで潰そうとしている。
いや、ここで潰せなくとも、その後に控える二つの師団が、それを成すだろう。
「そうね。でも、私が居るわ。」
「前線に、立つのか…。」
「どうかしらね。でも、逃げ道は用意してあるわよ。作ったのは、メルちゃんだけどね。」
ロベリアの指に、暖かい光がゆらめく。
「この指輪が、その鍵よ。」
それは、アリウムにも贈られた指輪。
そして、その最たる想いが込められた指輪を宿すのは、テラ。
その指輪には、他にはない想いが彩られている。
故に、常に繋がっている。
どれだけ、離れていようとも、そこに何が憚っていようとも。
その想いとは…。
「愛してる。」
メルが、私を包み込みながら、囁いた。
「私もだよ。でも、みんなが見てる。」
私は、胸の高鳴りを抑えながら、冷静を彩る。
「テラが、これからしようとしてることは、私にもわかるわ。」
メルの瞳が、私に突き刺さる。
「一人では、させないわよ。最後まで、私が、そばに居るからね。」
魔力を完全に隠せるメルなら、魔族と気づかれることはないだろう。
ただ、それは、メルが元魔王だと知らない事が、前提にある。
そして、そこには、メルを知る者が多く存在する。
「そうだね。でも、私が危険だと判断したら、そこから離れてほしい。」
「約束するわ。だから、テラも、約束してね。ずっと一緒だよって。」
「約束する。」
これだけ、多くの家族に見届けられたのだから、それを違えることは、絶対に無い。
それを伝えたいが為に、今、ここで誓ったのだ。
私にとっては、そんなものがなくとも、愛するメルとの約束を違う気など、全く無いが。
私は、集う家族へと向き直り、静かに奏でた。
「私とメルは、白妙の王都へ向かう。」
間も無く、白妙の国は、本陣を整え、それを発するだろう。
それだけは、避けたい。
故に、花の国の王として、話に行く。
それが、どの様な答えを導こうとも、座して待つより、私には合っている。
私は、加護を捨て、聖剣を手放したが、想いだけは、勇者を捨てられずにいたのだから。
この戦争が、花の国に及び、数々の足跡が、それに気づかせてくれた。
まして、彼らは、私の弟であり、妹であり、兄であり、姉であり、親であり、友人。
血の繋がりもなく、種族さえ違えども、私の家族なのだ。
それさえ守れずして、私は何といえる。
次は、違わない。
あの日、人族と魔族の共存を説き、裏切り者と追われた王都へ、再び足を踏み入れる。
その旅路を、今、この時、奏で始めるのだ。
陽光が頂を迎える頃、厳かなる角笛が、荒野を駆け抜けた。




