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夜想曲『花の国』  作者: ことは
Primo movimento『花の祈り』
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第四楽章10節

荒野の牙の子達が眠る墓標。

そこに、メルが、独り佇んでいる。

「何をしてるんだ、メル。」

声をかけたのは、ラシレ。

そして、傍らには、チユも居る。

「挿し木をしていたのよ。」

「魔法で咲かせないのか。」

「この木だけは、魔法では無理なの。」

それは、魔王城跡地、テラとメルの聖域に佇む大樹の枝。

メルが、テラに贈った指輪と同じ枝。

メルは、枝を優しく撫で、微笑みを彩った。


「そうだ。丁度良かったわ。二人に用事があったの。」

「何だ。」

「そうね、まずは、チユから。貴女の魔法についてよ。」

メルは、チユの手に、そっと温もりを奏でる。

「やっぱり、貴女の治療魔法は、本当に優れているわ。」

「私の魔法が…。」

「うん。今から言う練習を、これから続けてほしいの。」

「やってみる。」

「約束ね。きっと、チユは、誰よりも素敵な魔族になれるわ。」

メルは、チユの頭を撫で、優しく微笑んだ。


「ラシレ、待たせちゃったわね。少し、相談があるの。」

メルは、欲していた。

痺れる様な、登場の言葉を。

故に、一度は考えたのだ。

宝剣のジプソフィルが、火を吹くわ。

これ以上はないと言える、素晴らしい旋律。

そのはずだった。

だが、テラに否定されたのだ。

まず、ジプソフィルは、剣ではなくナイフであること。

メルは、火の魔法を使えないこと。

そこで、メルは導き出したのだ。

究極の答えを。

宝ナイフのジプソフィルが、花を吹くわ。

それは、誰にも響かなかった。

メルでさえ、その事に気がつくほど、誰も触れようとはしなかったのだ。

テラですら、触れなかったのだ。

だが、メルは諦めない。

「何と言うか、恥ずかしい台詞だな、これじゃ。」

ラシレが、ため息を奏でる。

「ラシレも、あまり変わらないわよ…。」

チユのため息が、それを包み込む。

「そうかしら、私は好きよ。」

メルの心を魅了した言葉、いつか聞いた、その旋律。

傭兵戦隊みんな怯える最強の荒野の牙。

その痺れる旋律に、メルは、密かに憧れていたのだ。

「だろう。メルは、よく分かってるな。なら、私も一緒に考えてやる。」

チユは、庭の隅に腰掛け、ぼんやりと見つめている。

二人が奏でる、有意義な無駄な時間を。

「完成だな。」

「うん。」

「なら、メル、あそこで呆けてるチユに、一発、浴びせてやれ。」

「任せて…。この煌びやかで華やかで可憐な聖ナイフのジプソフィルが、最強の名を轟かせる荒野に咲く一輪の花を咲かせるわよ。」

「…阿呆なのかな。」

三人で、再考した。



メルとラシレの、類を見ない孤高の感性を輝かせている頃。

同じ空の下で、私は、ライラックとコスモスフレ、セロぺギアとストレリチア、そして、アリウムとリナリアを部屋に呼んでいた。

「私とメルは、しばらく花の国を空ける。その間の防衛は、ヴィオラに任せる。そして、君たちにやってほしいことがあるんだ。」

私の瞳が、三組を彩る。

「本来なら、ライラックとセロぺギアに委ねたかった。君たち二人は、この国に於ける魔族と人族の代表みたいなものだからね。でも、どちらにも、大切な命が奏でられてる。」

私は、アリウムとリナリアを、眼差しで包んだ。

「だから、君たちに、執政官を任せたい。もちろん、ライラックとコスモスフレ、セロぺギアとストレリチアと相談しながら、舵を切るんだ。君たち二人だけに、重荷を背負わせたりはしない。」

再び、三人を見据える。

「責任は、全て私が取る。どうか、みんなで力を合わせて、花の国の民を、守ってほしいんだ。」

誰一人として、音色を紡ごうとしない。

だが、アリウムだけが、その重い彩りに、音を紡いだ。

「執政官って、何ですか。」

「私の代わりに、みんなを、まとめることだよ。」

私は、アリウムに想いを込めて、肩を撫でる。

「テラ様、お帰りはいつ頃に…。」

ライラックが、不安の彩りを靡かせて、小さく囁く。

「わからない。でも、必ず戻るよ。」

「我々にできることを、尽力します。」

セロぺギアが、悲しみを噛み締める旋律を抑え、穏やかに呟いた。

「ありがとう。期待しているよ。」

陽光が頂を過ぎ、大地へと落ちてゆく。



宵闇が、空を彩り始めた頃、ジェルベラが私の元を訪ねてきた。

「テラ殿、我々は、明日の朝には発ちます。」

「どこに行くの。」

「それは…、剣に委ねます。ただ、白妙の都には、戻りません。」

「そうだね。今は、その方がいい。」

私は、少し、伏せた目に想いを馳せた。

「シャルドンと合流したら、またいつか、その傷を癒して、私と試合をしようと言っていたと、伝えてほしいんだ。」

きっと彼は、別の形で剣を振るう。

その時、彼は、今より強くなる。

本音を言えば、剣を交えたくない。

それは、純粋に、恐怖心によるもの。

でも、まだ、私は、彼の夢を叶えていない。

故に、私の夢もまた、そこに彩っていたい。

「…テラ殿……。いえ、わかりました。必ず、お伝えします。」

「ごめんね。でも、寂しい顔をしないで。シャルドンは、必ず立ち上がるから。」

「……、はい。ありがとうございます。」

空を彩る星々は、微かな雲に隠れ、血を照らすものは、朧月のみとなった。


その別れに、言葉が紡がれることはない。

それを彩れば、惜しくなってしまう。

故に、硬く結ばれた幾つもの拳が、想いを繋ぎあった。

その無骨な温もりは、私に留まらず、メル、そして花の国の盾の全てを、優しく包んだ。

やがて、小さくなりゆく白銀の灯火は、暁に舞う砂塵へと消えた。



蹄の奏でも、連なる咆哮も、届かぬ最果ての荒野。

そこで、ジェルベラは、剣を空へ捧げた。

静寂の地平線に、陽光が煌めきを彩り始める。

荒ぶる蹄が、そこに留まり、幾つもの剣が、空へと捧げられた。

その連なりは、今、確かに大地を踏み締めている。


ジェルベラが、その大地に、咆哮を響き渡らせた。

「我々、シャルドン親衛隊は、今、この時を以て、解散する。

だが、シャルドン様への忠誠を、忘れるな。

器を失おうとも、魂は不滅だということを、忘れるな。


我々が掲げたのは何だ。

刃を研ぎ澄ませ、腕を磨き上げ、信じるものの為に、剣を振るう。

それこそが、シャルドン様への誓いだ。


信じるものとは何だ。

シャルドン様を奪った白妙か。

長く傷つけ合ってきた漆黒か。

いや違う。

奪いに来た我らを、茶で持て成し、甘美なひと時で癒してくれた、花の国にある。


我々は、今、この時を以て、花の国騎士団を結成する。


我が友よ。

我らの名は、何だ。

そうだ。

我らの名は、花の国の剣。

剣に生きよ。

剣と共に散れ。

胸にシャルドン様を刻み、いざ、行かん。」


彼らの目的地は、最初から決まっていた。

目指すは、白妙の第三旅団と第四旅団。


迂回された旅路へと、その崇高たる蹄を、掻き鳴らした。

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