表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜想曲『花の国』  作者: ことは
Primo movimento『花の祈り』
49/116

第四楽章8節

恐ろしいほどの彩りを奏でる魔力。

翌朝、花の村の様子を見にきた私とメルを待っていたのは、命の危機さえ感じる、それだった。

「どこに行ってたのよ…。」

私は、聖剣の柄を握る。

だが、下手に動くと、ここに赤い花が咲き乱れることになるだろう。

「ロベリアちゃん…。」

この子が、神王ロベリア…。

今、魔族を束ねている王。

何をしに来た。

今更、花の国に何かをしようとしてるとは、思えない。

だが、この地には、白妙の騎士が居る。

「ずっと待ってたのよ。」

今、魔族の軍力は、壊滅状態。

つまり、王自ら、戦場に身を投じに来たのか。

「ごめんなさい…。」

だが、砦には、花の国の民も居る。

「だから、漆黒の塔で、引き留めてたのに…。」

メルに攻めることを伝え、花の国の民を退避させた上で、人族を落とす。

それなら、全てが繋がる。

「今年も、お誕生日会に参加したかったのに…。」

私は、膝から崩れ落ちた。

「今夜も、するわよ。」

今夜も、するのか。

「ロベリアちゃんが居ないと、寂しいもの。」

私は、お誕生日会をニ夜連続でする文化を、初めて知った。

「メルちゃん、お誕生日会は、その日だけしかしないものなのよ。」

「うん。でも、ロベリアちゃんと、お誕生日会したいの。」

そんな文化は、無かったようだ。


「それはそうと、この男が、テラね…。」

歩み寄る拳に、薄かった影が、更に小さくなる。

「そうだけど…、どうしたの。」

「一発だけでいいから、殴らせてほしい。」

小柄な体躯から彩られる、巨大な影。

私は、ここで灯火を失うのか。

「ダメよ。」

メルが、ロベリアを羽交締めにして、私の灯火を守ろうとしてくれている。

だが、私は、その瞳から発せられる炎に恐れ慄き、微動だにできない。

「放せ。この男は、私のメルちゃんを奪った。」

「私は、ロベリアちゃんのものでもあるわよ。」

「………。うるさい、私は、一晩中、独りで待ってたんだぞ。メルちゃんの作った村を隅々まで見ても、誰も来なかったんだ。そこら中に咲いてる花に水をやり終えても、散らかった埃を掃除し終えても、綻んだ屋根を修繕し終えても、誰も来なかったんだぞ。」

羽交締めにされながらも、その肢体に彩る震えは、より強くなる。

「ごめんなさい…。」

それに呼応するかの様に、メルの吐息も震えた。

「くそ…。私もここに住みたい…。」

「一緒に、住もう。」

「…それは、無理だ。私は、王だ。国に住む魔族を手放すことは、できない。」

「う…、心が…、抉られちゃう…。」

「だが、これからも、遊びに来る。」

「うん。」

「だから、一発だけ…。」

「ダメよ。」

私は、そこに入る余地などない。

これは、神王と元魔王という、魔族の王を冠する者の戦い。

謂わば、頂上決戦なのだ。

私の様な矮小な人間が、触れていいものなどでは、決してないのだ。

いや、言い訳はよそう。

私は、見ていたいのだ。

この可憐な天使メルの彩る、幼馴染との戯れを。

私は、堪能したいのだ。

この微笑ましい光景を。

私は、独り、頷いていた。



香ばしい香りが、鼻を擽る。

歓喜の咆哮を奏でたのは、ロベリア。

その佇まいから描かれるはずのない彩りは、見る者を驚愕させた。

ただ一人、メルを除いて。

「ロベリアちゃんは、お肉が大好きだものね。」

「肉なら、何でも好きだ。」

「何でも…、ロベリア殿、まさか、人族の肉も…。」

アブリコが、恐る恐る音色を囁く。

「そんな訳あるか。私を何だと思っている…。」

ロベリアが、ため息を奏で、次々と肉を頬張る。

「よかったです…。ちなみに、我々も、魔族を食べたりはしませんよ。」

アブリコの安堵の彩りが、ほのかに紡がれた。

ロベリアは、構わず肉を頬張り続けている。

「わかっておるわ…。」

「ロベリアちゃん、野菜も食べなきゃ、ダメよ。」

メルが、ロベリアの口に、野菜を突っ込んだ。


「ロベリアさん、私たちを恨まないのか。」

ラシレが、静かに近づく。

その傍らで、チユが不安そうに見つめる。

彼女達が邂逅したのは、あの日が最初で最後。

ラシレは、ロベリアの圧倒的な魔力と、全てを嬲る魔法を前にして、共闘を拒んだのだ。

それは、統領が選んだ道。

だが、その答えは、荒野の牙の答えでもある。

「恨むことなど、どこにある。」

ロベリアは、静かに微笑み、柔らかな音色を奏でる。

「お前達を見て、荒野の牙が共闘を拒む様に、世にも恐ろしい魔法を見せたのだ。気にすることはない。」

「どういう事だ。」

「子供には、早いという事だ。」

「…………、どういう事だ…。」

「…ラシレ、仲直りしようという意味よ。」

チユのため息が、ラシレを優しく包んだ。



「異様な光景ですね…。」

砦に咲き乱れる花園を彩る、無数の笑みに、ヴィオラは、囁いた。

「私たちの、夢だよ。」

あの日、メルが奏でてくれた夢。

口にすれば、嘲笑われるような夢。

それは、今、確かな色彩として、ここに紡がれている。

「でも、まだ、夢は終わらないよ。」

私には、私たちには、やらなければならないことが、残されている。



白妙の都。

避けて通れぬ道。

やがて来る、その刹那に備え、私たちは、凪を謳歌した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ