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夜想曲『花の国』  作者: ことは
Primo movimento『花の祈り』
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第四楽章3節

漆黒の塔に彩られる花畑と、二人の可憐な揺めき。

その二人の壮絶な戦いは、今も尚、終焉を奏でることはない。


「本当に、テラという男が、信用に足るのか、私には、わからん。」

「なら、もっとテラとの幸せな日々を教えてあげる。」

「それは、もう満腹だ…。それに、そんなものでは騙されん。」

「嘘なんて、ついてないよ。」

「メルちゃんのことではない。テラのことだ。大体、メルちゃんは、何でも信じるから、心配なんだ。」

「私は、もう子供じゃないよ。ちゃんと見分けられるもの。」

「いや…、相変わらずだよ、メルちゃんは…。」

「どうして、そう思うの。」

「何でも分かるんだよ。今まで黙ってきたけど、私は、メルちゃんの双子の姉なんだから。」

「そうなの…。ごめんね。知らなかったの。これからは、ロベリアお姉ちゃんって呼ぶね。」

「ね、騙されやすい。」


双子と告げられ、思わず立ち上がったメルの肢体は、小刻みに震えていた。

薄紅の花を、咲き乱れさせながら。



遠い朧月の空を駆る、咆哮の先。

蹄を鳴らすヴィオラの瞳には、シャルドンは映らない。

彼は、ここに来ていない。

つまり、シャルドンと対峙しているのは、テラとメルということになる。

「希望の光が満ちてきた。シャルドンは、テラ様が討つ。我々は、あの鉄の塊を押し流すぞ。」

ヴィオラの猛々しい音色が、風を切り裂く。

続く咆哮が、空に奏でる。

轟々たる鉄の旋律が、一つの点に収束する。

やがて、響き出す刃の重なりが、月光を覆す閃光となり、星々が如く煌めきを放つ。


「負け犬が、再び顔を見せにきたのか。」

その長剣は、彼の体躯に比べると、ヴィオラの持つ剣と変わらない。

だが、振り翳せば、雲にも届く色彩を放つ。

あの日、勲章を得てから、彼は自らを、こう名乗った。

紫雷のアマリス。

ヴィオラが、唯一、敗北を彩った男。

「頭の中まで筋肉なのか。夫の仇を討ちに来たんだよ、シャルドンの犬。」

「ならば、返り討ちにしてやろう。テラの犬。」

「猛犬注意だ、鈍間。」

ヴィオラの一閃が、アマリスを過ぎる。

「子犬ほど、よく吠える。」

それは、緩やかに流された、残影。

「なら、斬ってみろ。背中が空いてるんだ。怖がらなくてもいいぞ、弱小者。」

ヴィオラの目、それは全てを見る。

故に、向けられているのが背であろうとも、その瞳を彩る旋律は、何も変わらない。

故に、アマリスも、迂闊には飛び込めない。

それは、アマリスが誇るべき剣の彩りを紡いできた所以でもある。

「どうした。来ないのか。お前は、子犬にも劣るのだな。」

アマリスの切先は、揺らぐこともなく、ヴィオラの首に向く。

「まるで、噛み付かれるを待っているようだな。それほどまでに早く、夫の元に行きたいのか。」

「そうだな、行きたいさ。だが、お前の首を土産に持っていく。」

その切先に、旋律がカノンする。

触れるヴィオラの肌の色彩に、アマリスは、彩りの変わらぬ音色を紡ぐ。

早くとも、正面から捉えれば、避けやすい。

だが、避けるだけでは、踊り続けなければならない。

「犬の次は、猪か。美味そうな肉だ。」

ヴィオラの刃がアマリスの腕に触れる。

掠めるそれは、滲む赤に揺れた。

「お子様には、まだ早いご馳走だ。」

拮抗する音色が、小節を繰り返し、コーダに触れることはない。


だが、精鋭隊と親衛隊のコンチェルトは、それに呼応することはない。

空を舞う花弁は、二つの旋律に咲き乱れた赤の彩り。

それは、天秤の揺らぎに、溢れゆく灯火。


変わらぬ揺らぎに、不変を貫くヴィオラとアマリス。



変えたのは、二つの彩り。


ヴィオラは、果たしたかった。

果たさなければならなかった。

この道を、一歩、進むために。

愛する人の仇の首を、その手にする事を。


アマリスは、信じていた。

揺らぐ事のない信仰が、光を齎す事を。

それは、シャルドンの勝利。

諜報隊の知らせが、耳に響く。

それが、僅かな緩みを彩らせる。


その知らせは、ヴィオラの耳さえも撫でる。

故に、抱く旋律が暴発する。

そして、その手に掛かる彩りは、重く纏わりつく。


故に、彼女は、笑った。


かつて、豪炎の姫などと謳われ、奏でた者を追い回していた。

その枕詞が、ヴィオラの誇りを逆撫でていたが故に。


華麗なる一閃が、アマリスの歪つな微笑みを、空に彩った。


アマリスの奏でた、赤の花弁の舞いを浴びて、愛する人への弔いへ流す。



「退くぞ。」

ヴィオラの咆哮が、重なる鉄の旋律を躙る。

アマリスに咲いた赤い花。

それは、終焉を彩ったものではない。


アマリスは、討った。

だが、シャルドンは、生きている。

何より、テラの行末は、不明。


今、この瞳を彩る鉄の塊より、シャルドンを花の砦に迎える方が、遥かに危うい。

ヴィオラは、踵を返し、蹄を掻き鳴らした。



避けるべき彩り。

大切な家族たちが潜む、花の砦を呑み込む荒波。

抗えぬ旋律が、荒野を駆け抜ける。

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