表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜想曲『花の国』  作者: ことは
Primo movimento『花の祈り』
33/117

第三楽章4節

騎士団精鋭隊。

それは、人族の国に於いて、最も優れた武功に彩られた者が集う、剣の花園。

その中から、更に篩をかけた騎士たちが、ヴィオラの元へと集められた。

「ヴィオラ、花の砦を頼む。」

アコニの穏やかな音色は、孕む旋律を微笑みに隠す。

「だめだ。私が行く。」

ヴィオラが、それが通じるような者ではない事など、わかっていながら。

「偵察に行くだけだ。すぐに戻る。」

「なら、私でも問題ないだろう。」

「もし、偵察に出ている間に襲撃に遭ったら、どうする。我が身だけを護るより、多くの命を護る方が、困難だ。」

「自ら飛び込むのと、座して待つのとでは、訳が違う。」

あの日と反転した、想いの重なり。

その攻防に、私は口を挟むことなどできるはずもない。

魔力の無いはずの彼らから、全てを喰らい尽くすような炎を感じ、近づくことさえ叶わない。


「けんかは、だめだよ…。」

その炎は、どうやら、メルでさえ近づけないようだ。

「すまない。テラ、メルさん。だが、わかってほしい。人族の敗走兵が、ここを目指している。それを座して待てるほど、この国は強固ではない。」

憤怒の化身へと成り果てたヴィオラが、剛腕の舞を彩る。

だが、アコニだけは、動じない。

「まずは、動向を観察し、然るべき時に討つ。」

それは、つまり、偵察であっても、剣を交える可能性があるということ。

ならば、行かせるわけにはいかない。

「だめだと、言いたそうだね。理由を教えてくれ。」

決まっている。

私は、アコニも、騎士団のみんなも、失いたくない。

だが、だからこそ、決断しなければならないことも、わかっている。

「一つだけ、約束してくれ。」

私は、アコニを瞳に彩り、それを見失わないように刻む。

「花の村は、その形跡すら残さずに潰えるかもしれない。故に、再び育まなければならない。アコニ、その時は、必ず手伝ってくれ。」

「約束しなくても、そのつもりだよ。」

アコニの微笑みが、風に溶け落ちた。



ヴィオラと共に残る精鋭隊は、護るべき者への最大の祝福。

アコニの指揮があれば、砦を落とす事など、宮廷騎士団全勢力を以てしても、容易いことではない。

だが、その最たる剣を持つ者を失う事だけは、避けなければならない。

ヴィオラは、花の国にとっての、最後の要。

そして、アコニにとって、揺るがぬ意志なのだ。


故に、偵察を掲げ、花の国への侵攻を防ぐ為に、自らの足で、数多の灯火が潰える地へと、向かう事を選んだ。



アコニと共に旅路を彩る者たちは、賭すものを抱き、小さな宿舎に集う。

彼らは、すでに理解している。

この先に彩られた旋律を、咲き誇る気高き赤花を。


これが正義でなくとも、果てに得るものがなくとも、そこに求めるものなどなくとも、共に彩る事を詠う。

全ては、王と王妃への忠誠のために。

そして、護るべき者への誓いのために。


アコニは、全てを包むように、奏でる。

「集う友よ。兄弟たちよ。今、思い出す時なのだ。


我々が、新たなる王に跪いたとき、何を手にしたのか。

その胸に掲げた一輪の花が、何を成すのか。

それは、刻む為では、断じて無い。

それは、殺める為では、断じて無い。

それは、切り開く為では、断じて無い。

それは、領土を広げる為では、断じて無い。


我々が手にしたのは、貫く盾。

牙を受け、爪を断ち、愛する子らを護る為。


いつか、その刃が枯れる日が来るかもしれない。

いつか、その灯火が旅路に沈む日が来るかもしれない。

いつか、護るべき者が永遠の夢へと昇る日が来るかもしれない。

いつか、花の国が潰え、その営みが散り、息遣いが途絶える日が来るかもしれない。

いつか、全てが忘却に揺らぎ、我々の足跡さえ風に消える日が来るかもしれない。

だが、それは…。


今日ではない。


我が親愛なる友よ。

共に捧げよう、アルストロメリアの咲く大地に。

共に紡ごう、穏やかなる花の国を彩る営みに。

共に詠おう、愛する我々の子らに。


今こそ、その時なのだ。

盾を、その手に。」


咆哮が、魂を奏で、大地を揺るがす。

凛と佇むアルストロメリアは、呼応するかのように、金色を彩る。

風が踊り、陽光を包む雲が、青天の果てへと消えていく。

ただ、その旋律を聞くだけの者は、静寂の雫に溺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ