第三楽章2節
無理に連れてくることはない。
でも、必要になれば、いつでも来ればいい。
それが、ひと時の安息を得るためだけでも。
花の丘は、私たちが住まうより、ずっと前から、そういう場所だったはずだ。
「ラシレ、君はどうするの。」
私は、ラシレが座っていた隣に腰を下ろしたまま、目の前を行き来するラシレに言葉を紡いだ。
「テラは、どうしたら良いと思う。仲間が心配だけど、ここで食べるご飯が美味しいんだ。」
腕を組み、世界の行末を慮る様に、目を伏せる。
ただ、忙しない足取りだけが、私の瞳を何度も過ぎる。
「ご飯だけ、食べに来ればいいよ。」
「本当か。」
「うん。君の仲間も、食べたいと言ったら、連れてくれば良いよ。」
ラシレに笑顔が戻り、私の肩を掴む。
「ありがとう。借りは返すからな。」
仲間の元へと駆ける彼女を見届け、私は小屋に戻った。
「ただいま。」
「おかえりなさい。明日からは、いっぱいご飯を作った方が良さそうね。」
柔らかな吐息を奏でるフルールを撫でながら、メルが微笑みを彩った。
再び、宵が村を包み、広場で踊る柔らかな火が喧騒を紡ぐ頃、華やかに囲む彩り。
そこには、ラシレと、彼女の家族の音色が溶け合う。
彼らが、ここに住むことはないだろう。
でも、こうして交われる隣人ができたことに、私の家族たちに、黄色い花が咲いた。
宵闇に駆ける幾つもの影。
その先を彩るのは、ラシレ。
「わかってるよな。私たちは、借りたものは、絶対に返す。」
纏う風に、仲間たちへと振り返る。
「人族も魔族も、私は、どうでも良い。あいつらが、どこで何をしようと、知ったことか。でも、ここから先へは行かせない。ここは、私たちの縄張りだ。」
無垢なる咆哮が、連なり彩る。
「この先にあるのは、私たちの友達の家だ。」
その咆哮は、更なる旋律を響かせた。
「統領、子供たちを先に立たせていいのですか。」
連なる影を追い、青年がため息を紡ぐ。
「あの子たちが先頭を走る時は、いつも調子が良くなる。」
その微笑みが、幾つもの影に広がる。
「それに、あの子の、あんな笑顔を見るのは、久しぶりだ。」
先陣を奏でる小さき背中は、幾つもの温かい瞳に揺られ、岩肌に勇大な影を彩る。
雲が流れ、朧を抜けた月が、彼らを彩った。
鍔鳴りを嘲る囁き、重い足に漏れる吐息、整然を保とうとする鉄の音色、陽光が砂塵に踊る中で、静寂の風が吹き荒れる。
その旅路を蝕む忌憚は、かつて、勇者を纏った魂によって削られた。
だが、野草とは刈ろうとも芽吹くもの。
そこに蔓延る牙は、孕む正義より、肉を貪る。
白妙の王都を出た地響きは、緩やかに静寂に削り取られゆく。
鍔鳴りを嘲る声は途絶え、重い足は潰え、整然を失った鉄の音色が斑らを奏でる。
それでも、砂塵が踊り、陽光が静かに眠る。
静かに立つ聖剣。
そこに眠る呪いは、均衡の瀬戸際を担っていた。
連なる鉄の音色が、静かに通り過ぎていく。
風に舞う布切れが、その刃を覆い、向かうべき道へと靡く。
だが、それを知る旋律は、そこには生まれなかった。
ただ、孤独に佇むそれが、赤い花の園が近いことを告げていた。
森を這う囀りは、艶やかな布を啄む。
木陰に潜む爪は、静寂の中で、その連なりを詠う。
やがて陽光を得る頃には、怨嗟すら紡ぐものは無くなった。
自ら歩み寄る、灯火の終焉に、泥濘む土が纏わりつく。
漆黒の城から続く彩りは、舞う風に霞ゆく。
縋る呪詛は、歩を紡ぐだけの旋律となり、馳せる想いは、その中に眠る。
やがて、二つの正義が、火と鉄に溶け合い、最初の赤が咲いた。




