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夜想曲『花の国』  作者: ことは
第二部『月の詩』
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第七楽章14節

全てを思い通りにしてきた。

全てが思い通りになってきた。

全ては思い通りにならなければならない。

故に…。

「全て、私のものだ。」

抗いは、許されない。


砂に根を張り、荒野を花が埋め尽くす。

蠢いていた砂の兵が、小さな灯火の数々に包み込まれていく。


もう、砂の兵は紡げない。

砂を操る魔法は、花の糧となり、消える。


「燃やし尽くしてやる。」

怒りの不協和音。

それは、黒い炎となって爆ぜる。

全てを灰に変える魔法。

燃えゆく花々。


「花が燃えても、みんな、次へと繋いでくれる。」

メルは、微笑みに祈りを込めた。

黒く舞う花弁から溢れ出す水。

それは、炎の力を掻き消していく。

散りゆく灰が糧を紡ぐ。

その一つ一つが新しい芽吹きを彩っていく。


だが、その隙間を縫うリュパンの魔力は、砂の兵を目覚めさせていく。

「宴は、俺たちも参加していることを忘れるなよ,リュパン。」

その叫びと共に、幾つもの白銀の刃が、砂の兵を穿つ。

「そうだな。害虫は駆除しなければ…。」

リュパンの影が一つの指を彩り、空へと翳される。

そこに収束する魔力。

「雷鳴を与えてやろう。」

響く轟音。

それは、騎士たちへと降り注がれる。

だが、花の国の盾と剣は、騎士だけではない。


紡がれる防護壁。

それは、花の国の誇る魔道。

アルストロメリアを彩る黄金の盾。

大地は黄色に染まり、雷電を逸らしていく。


反響する旋律は、全ての音を覆い尽くす。

故に、小さな声は、確かに届いた。

「時は、満ちた。」

プラタヌの音色。

それは、ニゲラと交わした約束。

「俺も行こう。その腕では、得る物も得られない。」

ユズリハの紡いだ補助具は、悲鳴を上げ始めている。

「助かる。共に行こう。」

ニゲラは、強く頷き、グロリオサを見つめる。

「少し、任せた。共に戦えて、光栄だったよ。」

ニゲラとグロリオサの視線が交差する。

それは、強く繋がれた握手のように、固く繋がれた。


駆け出す二つの影。

辿り着く先は、プラタヌとパシフロール。

「守ってくれて、ありがとう。」

聞こえてくるプラタヌの囁き。

それは、彼を覆い、飛び交う火の粉から身を挺して守り続けたパシフロールへと向けられた讃美歌。

「な、何言ってるのよ。当たり前じゃない…。」

「君は、可憐なだけじゃなく、気高い。」

二人の影の奥で紡がれる魔力。

プラタヌの紡いだ魔法陣と、そこに彩られるパシフロールの魔力。

「この魔法が、その証明だ。」

「照れちゃうから、褒めるのは後にしてちょうだい…。」

揺れるパシフロールの瞳。

だが、意志は固く一つを見つめ続ける。


重なり合う四つの力。

「いけるのか?」

ニゲラが、プラタヌを見る。

それに呼応するように、プラタヌは頷いた。

「よし。ただ、一つだけプランを修正する。」

手にする剣を見つめる。

使い続けた大剣は、そこにはない。

今の腕と補助具では、それを扱うことは難しい。

だが、片手剣を両手で扱うならば、持ち堪えることはできる。


問題は、慣れぬ剣舞を奏でるため、その速度が落ちること。

「だが、やるべき事は変わらない。」

ニゲラが、リュパンを睨む。

「始めよう。」

紡がれた音色。

プラタヌが魔法陣紡ぎ、パシフロールが注いだ魔力が、麗しい刃へと流れていく。

「戦場で、この様な美しいものを見ることになるとはな。」

ニゲラの微笑みが、魔法を纏った剣へと奏でられる。

眩い輝きを詩う刃、この色彩に名を紡ぐならば、聖光の剣。

それは、絶世の美を誇るドレスのように、壮麗たる旋律を煌めかせた。


砂の兵と、それに抗う精鋭たちに向けられていたリュパンの瞳が、プラタヌたちの紡いだ光を掴む。

「こそこそと、何を企んでいるかと思えば…。」

宝珠から繰り出される無数の棘。

それは、殆ど力を持っていない。

「やはり、魔力の枯渇が見えてきている。」

プラタヌの瞳に映るのは、呑み込まれた魔獣の灯火。

それは、リュパンが魔法を紡ぐほどに失われ、虚無へと溶けていく。

そこに芽生えるのは、怒り。

プラタヌの底に沸る炎が、幾つもの魔法陣を描く。

そして、それ以上に燃え盛るのは、パシフロール。

「みんな、お前なんかに踏み躙られていい子達じゃない。」

暴発を抑え込んだ魔力が、プラタヌの紡いだ魔法陣へと注がれていく。

次々と生まれゆく、白き光の槍。

それは、壁となって押し寄せるリュパンの棘を、黒い砂塵へと変えていく。


舞い上がる白と黒。

その幕を貫いたのはニゲラの剣。

「自ら視界を覆うとは、愚か者め。」

振り翳す刃。

それは、宝珠だけを見つめる。

「愚か者は、お前だ。」

怒号が響き渡る。

歪む世界。

それを織り成したのは、リュパンではない。


宝珠の抗い。

その広がりゆく力の波紋を、リュパンが握りしめる。

収束する力の矛先は、ニゲラへと向けられた。

「当ててみろ。」

ニゲラが、軌道から逸れるように跳ぶ。

だが、刃は尚も宝珠を捉え続けている。

「子虫が…。」

その剣を掴み取るように、宝珠が不協和音を紡ぐ。

伸びる黒い触手。

それは、ニゲラを包み込むように広がった。



だが、触手は、何に触れることもなく溶け落ちる。

地の果てに響くほどの叫びと共に。

「やはり、愚か者は、お前だ。リュパン。」

貫かれた宝珠。

煌めく剣が、その色彩を詩う。

刃を纏うのは、聖光。


そして、その剣を握りしめるのは、プロテア。


リュパンは、その意識の全てをニゲラに注いでいた。

自らは手を汚さず、奪うことだけをしてきた彼だからこそ、それに気づくことはなかった。

自らの灯火を賭し、守るべき者へ捧げる。

その揺るがぬニゲラの祈りが、リュパンを惑わせた。

その影に潜む、本当の旋律を知る事なく。


降り注ぐ刃の中、独り耐え続けたプラタヌの祈り。

恐怖を噛み締め、立ち上がったパシフロールの祈り。

腕が折れても尚、自らの灯火を翳したニゲラの祈り。

重き色彩を背負い、たった一つを穿つプロテアの祈り。

そして、その奥に紡がれてきた、数え切れない祈り。

その全てが、宝珠を穿つ。


リュパンに染まった、宝珠の歪な魔力。

粘りつく様に蠢き、宝珠から流れ出す。

それを抑え込む様にに、眩い光が爆ぜた。


緩やかに舞う白。

宝珠を抱く様に、幾つもの小さな煌めきが一つに詩う。

その旋律は、最後の欠片を探す様に、柔らかく反響した。

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