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夜想曲『花の国』  作者: ことは
第二部『月の詩』
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第七楽章13節

かつて白妙の誇る最大の騎士団を彩った猛者達は、今、自由の御旗に忠誠を誓っている。

それは、グロリオサの信念。


生きる自由。

守る自由。

救う自由。

光を齎す自由。


その身を賭し、剣を捧げる。

それこそが、グランディオーソたる者の誉れ。

グロリオサが選んだ、生きる道。

それにカノンする者達の祈り。


「自由を掲げよ。」

その咆哮は、まだ見ぬ影の先、戦場へと響く。

それは、花の国の奏でる蹄の旋律を縫う様に、ニゲラへと届いた。

「期待していたのは事実だ…。だが、本当に来てくれるとはな。」

その音色に触れ、ニゲラが微笑む。

「グランディオーソ。……私は夢を見ている様な気分だ。」

「ならば、その心地を今宵の宴で存分に味わおう。」

プラタヌの笑みが、ニゲラに呼応する。

「それは、私も参加していいのかしら?」

パシフロールが振り返り、目を輝かせた。

「もちろんだ。君の旅の話も聞きたい。」

プラタヌが優しく頷く。

「なら、頑張らないとね。」

迫り来る砂の兵。

刻まれたリュパンの手は歪に再生し、再び空を覆うとする。

それを穿つように、小さな光が、三人の心を満たしていく。


それを強く育むように、地響きの旋律が砂の兵の壁を貫いた。

「戦士たる者、宴は戦場に在り。」

プロテアの剣舞が、砂の兵を薙ぎ倒していく。

それにカノンする三つの剣舞と、一つの魔導。

それが織り成す道は、確かに未来を掴もうとしていた。

「エデラ、イエドラ、エフォイ、リエー…。戻ってきたのか。」

その四人の先陣を切る者。

「貴方は…、鬼神プロテア。」

白妙の騎士ならば、知らぬ者など居ない。

その強さも然る事ながら、戦う事に生き甲斐を見出す姿に、いつだって疲弊した戦場が鼓舞されてきた。

「心強い…。」

プラタヌが、小さく微笑む。

「俺たちより心強い者達が、間も無くここに集う。先に乾杯しよう。」

空を覆うリュパンの手の影を切り裂き、プロテアはその笑い声を空へと響かせた。


「…小虫が増えたところで、何になる。」

宝珠から繰り出される魔法。

それは、強大なものではない。

それでも、決して多くはない精鋭を穿つには充分。

リュパンの過信が氷槍となって、幾つも降り注ぐ。

「俺たちを討ちたいのなら、その倍は紡げ。」

プロテアは、空へと跳び、氷槍へと迫る。

その一つへと重なる刹那、両手に構えた大剣を振るい、全ての氷槍を斬り落としていく。

「あの宝珠を壊す手立てはあるのか?」

地へと足を繋ぎ、プロテアはニゲラとプラタヌへと振り返った。

「ある。…だが、問題は二つある。一つは、宝珠を留めること。もう一つは、穿つ剣を振るうことだ。」

プラタヌは、ゆっくりとニゲラの腕を見つめ、静寂に語る。

「一度は傷つけることができた。だが、それはリュパンの器を留めさせ、ニゲラの腕が健在であったからこそ成せた。」

「そうか。ならば、今、宝珠を留めることはできるか?」

「あの宝珠は、大樹に囚われているせいか、あの小さな範囲から動かない。後は、気を逸らすことができれば、可能なはずだ。」

プラタヌの音色。

「そして、もう一つ…。可能ならば、だが。できるだけ砂の兵を潰し、リュパンに、新たな兵を補わせたい。」

「魔力を消費させたいということか。」

ニゲラがプラタヌを見つめる。

「そうだ。リュパンは気づいていないようだが、同じ魔法でも、撃つ度に弱くなってきている。つまり、彼は、魔力の枯渇に触れ始めた。」

宝珠が呑み込んだ魔獣は数え切れない。

だが、それ以上に強大な魔法を、彼は奏でていた。

その代償が、ようやく顕れた。

できるなら、危険の少ない魔法で、それを積み上げたい。

そして、砂の兵こそが、少なくともリュパンが奏でた魔法で、最も対応が容易いと、プラタヌは判断した。

プロテアと集いゆく騎士団。

その旋律が、プラタヌに確信を与えた。

「そうか。お前を信じる。あの傀儡を殲滅すればいいのだな。」

その音色を受け止め、プロテアは砂の兵によって彩られた壁を睨む。

「この数を殲滅か…。」

ニゲラは、微笑みの中にため息を紡いだ。

「何、暫しの辛抱だ。だが、それをするのは、俺一人。ニゲラ、お前は、その腕を温存しろ。リュパンは必ず何かする。その時、プラタヌを守るんだ。」

プラタヌが戦えないわけではない。

寧ろ、戦力としては、プロテアよりも高い。

だが、彼にはやるべきことがある。

宝珠を穿つ魔法。

それを奏でるために、今は何もしないことをすべきだ。

その意志は、ここに集う者にとって、変わりはない。

故に、ニゲラは、プロテアの言葉を身に刻んだ。


まるで舞踏会を嗜むように、プロテアが大剣を振るい駆けていく。

その背を見つめ、ニゲラは小さく笑った。

「彼は、元からこうだったのか?聞いていたより、…何というか、戦士だな……。」

それは、プロテア自身も気づいていない。

一度、宝珠に取り憑かれ、そこから解放されても尚、その身に刻まれた残穢。

戦いへの高揚と、人智を超えた力。

ただ、それは、宝珠なくして扱えるものではない。

故に、代償は支払わなければならない。

そして、その代償は、プロテアの灯火。


彼は、その小さな違和感に気づいていた。

それが齎すものを、朧げに理解していた。

だからこそ、心が昂っている。

「俺の墓標を立ててみろ。」

戦士として咲き乱れ、戦士として散る。

戦場に夢を見た花が、砂塵の舞台に咲き誇った。


それを崇めるように、幾つもの旋律が集う。

最初に辿り着いたのは、グランディオーソ。


砂の壁の向こう。

そこに靡く自由の御旗を、プロテアは見た。

砂の兵の背が次々と刻まれていく。

それに気づいたのはリュパン。

迫り来る刃を穿てと声を響かせる。

だが、グランディオーソへと刃を向ければ、プロテアの剣が砂の兵を狩る。

「所詮は傀儡だな。」

広がりゆく砂の壁の綻びに、プロテアの笑い声が反響する。

その音色に、グロリオサの叫びが共鳴する。

「プロテア、また会えたな。この時を信じて待っていたぞ。」

最後に見たプロテアの背中。

その残響を振り払うように、グロリオサは柄を握り締めた。

「待っていたのは、俺の方だ。共に砂の傀儡を殲滅しよう。」

「もちろんだ、友よ。」

まるで子供が憧れを真似、戯れるように、笑みが交う。

砂の壁の綻びを突き抜けた兵達が、プラタヌ達の元へと集う。

「ほら、リュパン。力を尽くせ。砂の兵が散るぞ。」

響き渡るプロテアの声。

それは、リュパンの驕りを刺激する。

砂の兵と対峙する者たちにとって、更に増えることは危険だった。

だが、この傀儡の魔法によって、魔力を消費させたい。

その意志が、抗う力を滾らせていた。

「良いだろう。蹂躙を望むのならば、叶えてやる。」

リュパンの不協和音と共に、幾つもの砂が起き上がる。

既に砂の刃を翳す兵の倍の数。

それが、プロテア達に襲いかかる。

「そうだ。もっとだ。俺たちを躙るのだろう。」

砂の海へと潜り、斬り裂いていくプロテアが、空高く笑い、リュパンにけしかける。

更に増え続ける砂の兵。

「全て斬り伏せてやる。」

プロテアの怒号は、グランディオーソをも扇動する。

「プロテアに負けるな。最強を誇った騎士団の力を魅せるのだ。」

グロリオサが騎士たちを鼓舞する。

その音色は、白銀の剣舞を、より強くする。

全ては、自由のために。

全ては、愛する者たちのために。

その想いが、剣へと紡がれていく。


そして何より、間も無く花の国の騎士団が、ここに集う。

その希望が、増えゆく砂の兵を凌駕した。


「ならば、強い兵を与えてやろう。」

その希望の光を呑み込もうと、リュパンは歪な微笑みを浮かべた。

黒い炎。

それは、砂の兵に纏わりつく。

「焼き払え。」

リュパンの声が、砂の兵を動かす。

纏った黒い炎が砂の剣へと収束する。

重なり合う砂と白銀の剣。

その炎が、白銀を這う。

燃えるのは、グランディオーソの騎士。


その色彩に、騎士の灯火が散っていく。

「どうした。まだまだ増えるぞ。」

リュパンの嘲りが、空を覆う。

だが、誇りは消えることはない。

「それは、我々も同じだ。」

グロリオサの旋律が、空を覆う影を貫いた。

そこに、差し込む光。


「花を咲かせる魔法。」

メルの可憐な詩が、柔らかく踊る。


芽吹いたのは、瑞々しい花々。

一つ一つは、可憐で弱い。

焼けて散る花。

舞う灰を包み込むように、更に咲く花。

その全てが紡ぐのは、大地の水。

それは、黒い炎を優しく抱きしめながら咲き乱れた。


そよぐ花弁。

紡がれるのは、揺るがない想い。

それを詩うのは、幾つもの蹄。

「漸く来てくれたか…。」

グロリオサが、微笑む。

「待っていたぞ。」

その微笑みへと瞳を向け、プロテアが頷く。


共鳴する幾つもの祈り。

重なりゆく音色。

それは、アルストロメリアの御旗へと紡がれる。

「花の国。」

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