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夜想曲『花の国』  作者: ことは
第二部『月の詩』
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第七楽章11節

破片が舞う。

白銀が煌めき、聖なる渦が宝珠を蝕む。

砕け散ったのは、ニゲラの剣。

だが、宝珠もまた深い傷を負った。

そこへと入り込むプラタヌの魔法。

宝珠の奥を崩壊させる様に、パシフロールの魔力が爆ぜる。

リュパンの声にならない叫びが、大地を揺らす。

それは、全身を切り裂かれる痛み。


宝珠は、何も感じることはない。

故に全てが、リュパンへと還る。

それこそが、宝珠を操る者の代償。


「もう…良い……。」

掠れる音色。

それは、リュパンの囁き。

「次から次へと……。」

確かに宝珠に深い傷を付けた。

「虫螻の如き愚物が…。」

それでも、崩壊に至ることはなかった。

「全て…、消してやる。」

後一歩、もう一度、このシンフォニーを奏でることができたら。

漸く掴んだ濃い霧の中の光。

それを手放すわけにはいかない。


小さな不協和音を奏で始める宝珠。

それを感じ取り、プラタヌの元へと跳び戻るニゲラ。

交わす視線。

「どうするの…?」

パシフロールの無垢な音色が小さく響く。

だが、二人はそれに応えることができずにいた。

出来るならば、今すぐにでも、再び奏でたい。

だが、宝珠から漏れ出す歪な魔力が、二人の心に警鈴を響かせる。


宝珠の暴走。

そうなると決まったわけではない。

だが、そうならないという確証はない。

僅かでも、その片鱗が垣間見えた以上、迂闊に壊すことへの躊躇いが芽生えた。

それでも、やらなければならない。

その葛藤が、僅かな時間を作り出してしまった。


故に、リュパンは、魔力を紡ぎ直す猶予を得ることができた。

それは、傷を癒すより優先された、本能に近いリュパンの感情。


「お前たちが、私にしたことを、そのまま返してやる。」

宝珠を模するように、リュパンは怒号を奏でる。

痛みによる怒り。

蔑み続けた者から向けられた刃への屈辱。

傷つけられた驕りへの報復。


これまで、彼に逆らう者など居なかった。

事実が何であれ、少なくとも、リュパンには、そう見えていた。


「私が、支配者だ。叛逆するのならば、その魂を以て償え。」

彼の欲望の表出を支え続けた本質。

彼の知る彼の本当の姿。


虚無の王。

小さなおとぎ話の愚か者。

例えるのなら、それこそが相応しい。


だが、リュパンは確信している。

誰がなんと呼ぼうとも、己こそが真の王に相応しいと。

故に、紡がれた未知の魔法。

それは、禁呪の如く奏でられる。

「傀儡の支配。」

それは、詠唱なのか。

それとも、ただの願望なのか。

何れにしても、それは奏でられた。


吹き飛ばされた砂塵が、リュパンの元へと集まっていく。

それは幾つもの塊を生み、人の形を紡いでいく。

手に持つのは、砂の剣。


「砂の騎士団…。」

虚無の王が、独り寂しく作っていた幾つもの虚像。

何の役にも立たないオブジェ。

おとぎ話では、そう描かれていた。


だが、眼前のそれには、強い魔力が込められている。

「お前たちがそうしたように、私も数で押し潰してやろう…。」

整然たる壁が、ゆっくりと迫り来る。


一つ一つは、決して強くはない。

だが、これだけの数を壊すのは、容易ではない。

まして、その背後にはリュパンが居る。

「ニゲラ殿、剣の予備は…。」

「あれは、ユズリハの作った物だ。代わりはない。」

「そうか。ならば、手は一つ。」

パシフロールの魔力があれば、聖光の奏は、もう一度放つことが出来る。

だが、それを纏う剣はない。

何より、ニゲラは何も言わないが、彼は、これ以上は剣を振るえない。

プラタヌの瞳に映る、いくつもの綻びが芽生えた補助具が全てを語っている。

「聖光の奏で、全てを一掃する。」

プラタヌの下した決断。

ここに残る者たちだけでは、それ以外の選択肢はない。


「それは、援軍が来るとしても変わらぬか?」

「そんな夢が叶うのなら、いくらでも作戦はある。」

ニゲラの囁きに、プラタヌは力無く微笑んだ。

「ならば、その力は温存しておいてくれ。」

その微笑みを鼓舞する様に、ニゲラは地平線を見つめる。

「援軍が…、来るのか?」

「白妙ではないがな…。」

遠くに見える影は、未だニゲラにしか捉えることはできない。

「では、誰が…。」

プラタヌは、ニゲラを見つめる。

その瞳に、微笑みを奏でる様に、ニゲラは奏でた。


「花の国だ。」

風が舞い、彼方の丘に咲き乱れる花々が揺れる。

それは、一つの花が織り成す黄色の大地。

それを彩るのは、花の国の御旗。



先陣を切るのは、アブリコ。

花の国の誇る騎士団、盾の騎士団長。

彼の責務は、守ること。

この先にあるのは、討つべき者より、守るべき者。

故に、彼は、誰よりも速く駆け抜けた。


続くのは、総騎士団長ヴィオラ。

失った腕に紡がれたのは、魔力を宿す剣。

彼女の背に紡がれるのは、整然たる陣形。


そして、その中心で駆けるのは、テラとメル。

魔神との戦いで力を使い果たした二人が、それでも立ち上がったのは、たった一つの理由。


どうしても、守りたい。

そこに立つ、全ての者を。

その先に待つ、全ての者を。


魔族と人族が手を取り合う世界。

話せば笑われる様な夢を、私は見ているのです。


かつて、メルが奏でた願い。

それは、祈りとなって、大地に舞う。

元勇者と元魔王の織り成した無垢なる夢。

それが今、この場所で、全てを包み込む様に芽吹いた。

故に、その風は訪れる。

神話に語り継がれた情景を描く様に。

咲き乱れるのは、揺るがぬ花。

誓いの色彩へと靡く、黄色のアルストロメリア。

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