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夜想曲『花の国』  作者: ことは
第二部『月の詩』
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第七楽章8節

揺れる風は、リュパンの指が触れた波紋。

それは、突風へと目覚める。

砂塵が刃の如く一閃を描いていく。


防護壁に積もった砂は、雪原を彩る様に、全てを埋めていく。


踏み潰そうと掲げられたのは、雷鳴の槌。

それを包み込む、鋭い体毛。

それは、宝珠に呑み込まれた魔獣の残響。

奏でたのは、リュパンの手。

「ひれ伏せ。」

響く音色は、下された槌と共鳴する。

その旋律に描かれたのは、赤い花弁。

舞い上がる砂塵に、幾つもの灯火が散っていく。


「これほど強大とは…。嘸かし、魔族は更なる宝を隠しているのだろうな…。」

身に余るほどの魔法でさえ、リュパンにとっては、小さな所有物。

自らが持たぬものを他者が持っていれば、それを奪わなくては、気が収まらない。

「私を押し潰す魔法を放った小娘…、そして、プラタヌと言ったか…、あの2つは、必ず喰らわねば…。」

振り上げる拳。

そこから紡がれる次なる槌。

それは、リュパンの望むものを潰し、呑み込んでいく。


槌によって奏でられた三度の旋律が、多くの灯火を散らしていく。

赤い雪が降る様に。

それを一心に浴びる様に。

その全てがリュパンへと溶け込む様に。


「どれも外れか。まあ良い、時間は、幾らでもある。」

そして、再び振り翳される槌。


ゆっくりと紡がれる色彩を見つめ、それに抗う手を模索するプラタヌ。

あの魔法は、幾つもの魔獣の力が織り成した結晶。

故に、膨大な魔力を帯びている。

それでも、何も手がないわけではない。

リュパンを閉じ込めた様に、氷で固めることもできる。


だが、それには、膨大な魔力を要する。

そして、恐らく、リュパンには他にも手がある。


ここで魔力を使い果たせば、それに対応できなくなる。

ならば、されるがままに耐えるのか。


何度も彩られる惨劇を瞳に刻みながら、その旋律の綻びを探る。

故に、見えたのは、撃つ度に弱りゆく魔法の色彩。


「今一度、防護壁を固めろ。恐らく次で終わる。」

リュパンに届かぬ様に、プラタヌの音色が繋がっていく。

それに呼応する様に、全ての防護壁が固く閉ざされた。

それは、渾身の魔力を込めた至高の盾。


最初の一撃であれば、それさえも砕かれていただろう。

二撃目でさえも、魔力の足りぬ防護壁は崩れ落ちた。


だが、耐えた防護壁も、確かに存在した。

そしてそれは、決して少なくはなかった。


振り落とされる槌が、幾つかの壁へとぶつかる。

砕け散る轟音が、空へと反響する。

散らばる破片。

それは、淡い光と共に消えていく。


失われたのは槌。

「これだけの大魔法だ。連発すれば、そうなる。」

プラタヌは、その隙を見逃さなかった。

「破刃の一閃を奏でろ。」

それは、詠唱を紡がずとも放つことのできる小さな魔法。

矢の如く魔力の小さな棘が、壁を織り成す様に、刹那を切り裂く。

「…腕だ。」

見つけた小さな揺らぎ。

強大な魔力を練り続けた反動が、そこへと還る。

プラタヌは、その瞬間を待っていた。


収束する小さな棘。

貫いたのは、リュパンの腕。


響き渡る不協和音は、今尚、戦場に立つ精鋭に、希望という火を灯す。

先ほどまでとは違い、今のリュパンには攻撃が通じる。

腕の様に落とせずとも、傷を負わせることが可能。


ならば、その奥にある宝珠にも、攻撃は届く。


「愚か者めが…、愚か者めが…、愚かな者めが…。」

滲み出る怒り。

その音色は、少しずつ地響きとなって反響し始める。

枯渇した魔力を満たす様に、宝珠に呑み込まれた魔獣の灯火が奪われていく。

「雷鳴の陣だ。漆黒よ、雷を詩え。白妙よ、閃光に備え、暁に刃を掲げよ。」

それは、防護壁で繋がれた戦術。

漆黒が手を翳し、白妙が剣を収める。

その刹那、幾つもの雲から、紫電の柱が描かれる。

全ては、リュパンへと。

想いが、願いが、祈りが、そこへと集う。


純白の世界。

静寂の園。

独り立つのは、リュパン。

彼が触れられるのは、それだけだった。


悠久に感じる色彩は、刹那の旋律に崩壊する。

終わりなき剣舞が、リュパンを刻んだ。



崩れ落ちる影。

大地を染めるのは、リュパンを作り出していた物。

歪な音を奏で、それらは蠢きを手放していく。


全てを削ぎ落とされた宝珠が、静かに漂う戦場。

「服を刻み、私の全てを晒せというのなら、望み通りにしてやろう。」

柔らかな音色。

それが静寂を切り裂いていく。

「…だが、その代償は、払ってもらうぞ。」

笑い声に聞こえる不協和音が、精鋭たちの耳を舐める。


宝珠の織り成す幻影。

その手は、一つの魔法を奏でた。

「虚空の刃。」

それは、プラタヌたちが奏でた魔法ではない。

彼らが来るよりも前、ロベリアによって与えられた傷。

それを宝珠は食していた。

幾つもの剣が空に彩られ、抗う灯火へと降り注ぐ。

白妙が盾となり、剣を構える。

漆黒が手を翳し、穿つ魔法を詩う。


だが、食していたのは、一つでない。

「雷槍。」

リュパンの作り出した剣を縫う様に、鋭い閃光が空を覆う。

それは、一つ一つを紡ぎ、剣と混ざり合う。


リュパンが最も傷ついた魔法。

それさえも、彼の所有物として、食べ尽くしていた。

故に、それは、奏でた者と共に生きる全てへと還っていく。


宝珠が紡ぐ、唯一の真実へと帰着する様に。

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