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夜想曲『花の国』  作者: ことは
第二部『月の詩』
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第六楽章8節

ここに集う騎士たちは、精鋭ばかりだ。

数多の窮地を乗り越えて、今も尚、立ち続けている。

彼らの持つ一つ一つに、優劣など付けることはできない。

謂うなれば、全てが誇るべき剣聖。


その誇りが、如何なる旋律を前にしても、揺るがぬ共鳴を紡ぎ出す。

それが綻ぶことなど、決してない。


それは、未だに変わることはない。

散りゆく友を横目に、それでも、剣を掲げる。

迫る爪が、次は己を捕食しようとしている。

ここで終わろうとも、騎士団が為すべきことを果たせれば、勝利と成す。


故に、どれだけ痛みに抱かれようとも、咆哮が途切れることはなかった。


守るべきは、テラの背中。

守ることは、アブリコの誇り。

唯一、シャルドンに認められた盾の剣。

例え刃を失おうとも、その巨躯が剣。

「ここは、断じて、通さない。」

その旋律が、魔獣を貫く。

赤く染まるアブリコの手が、迫り来る牙を握りしめる。

折れた剣を喉の奥へと通し、牙をへし折る。

その上を飛び越える魔獣が、空を遮った。

アブリコは、振り向き様に引き抜いた剣を投げる。

それは閃光のように風を斬り、魔獣の首筋を経った。

手に持つのは、魔獣の牙。

盾と成るならば、それが鋼である必要などない。


アブリコの背後に迫る爪。

それに気づいた時には、もう躱すことは叶わなかった。

故に、正面から受けざるを得ない。

手に持つ牙に重なる爪が、重低音を奏でる。

その旋律に、アブリコは、全身が軋むのを感じた。


僅かな均衡。

それを崩すように、左右から魔獣が飛び掛かる。

それを弾いたのは、白妙の騎士。

飛び散る赤い花弁が、アブリコに降りかかる。

それを咲かせたのは、微笑みを交わし続けた大切な灯火。


去り行く仲間を見つめ、アブリコは溺れゆく怒りを知る。

それは、自らに向けられた刃。

守ることこそが、己の価値。

守れぬどころか、守られた。

散りゆく灯火と、引き換えに。



もう、何人目だ。

どれだけ仲間を失おうとも、魔獣は数を増やしていく。

そう見えてしまうほどに、如何ともし難い数の差が、ここにはある。

砂で覆い尽くされていた地は、灯火の器で満たされている。

そこに、人間も魔獣も関係ない。


勝ち目のない戦争。

終わりのない監獄。

光を手放し始めた色彩。

それを穿つように駆け寄るのは、花の国騎士団長ヴィオラ。

「アブリコ、点になれ。テラを守ることだけに集中する。」

元より、そのつもりだった。

だが、気づけば、騎士たちは数を失い、疎を描いている。

その色彩に、溺れかけていたことを、アブリコは思い出した。

「陣形を立て直す。」

ヴィオラの咆哮が、戦場に響き渡る。

集まりゆく騎士団が、壁を成す。

「もう、こんなに減ったのか…。」

小さく奏でるのは、アブリコ。

その音色とともに、ゆっくりと前に出る。

両手に持つのは、魔獣の牙。

剣を成すのは、アブリコ自身。

即ち、それは盾。

「ヴィオラさん、……後は、よろしくお願いします。」

振り向くことなく、アブリコは駆け出した。


その勇猛な背中を瞳に刻む、ヴィオラ。

だが、彼一人で背負うものではない。

「続け。今こそ、我々の力を魅せるときだ。」

猛々しく反響する、ヴィオラの旋律。

それは、魔獣の奏でる咆哮を瞬く間に飲み込んでいく。



終わり無きコンチェルト。

そう感じるほどに、魔獣は集いゆく。

もう終わっても良かったはずだ。

ヴィオラに揺れる残響。

それは、テラの言葉。


「半数も倒せば、過剰なほどだ。それ以上は求めず、即退避してほしい。」

テラのその言葉の意図は、恐らく切り札の為。

だが、それの代償は計り知れない。


それは、ヴィオラだけが知る真実。

それでも、騎士である以上、王の名には背けない。

ここが戦場で、己が騎士団長であるならば、尚更だ。


だが、それは、今では無い。


例え、最後の一人となろうとも、残るのが、この顔だけとなろうとも、噛み砕いてやる。

魔獣の数より、騎士の数の方が減っていく。

もう、心身の疲労が限界を超えている。

それでも、誰しもが止まろうとしないのは、そこに意志があるから。

背を預けているのが、テラだから。


諦めない。

絶対に、諦めない。

我々の立つ先には、何も知らぬ民が居る。

それを守るために盾を磨き、剣を研いできた。

我らが、その身を鍛えてきた。


諦めて、なるものか。


「魔獣が突破した。」

ヴィオラの耳を切り裂く叫び。

思わず振り返る。

それは、俊足を誇る魔獣。

巨大な爪痕が、その影を追う様に刻まれていく。

今から駆けて間に合うか否かでは無い。

ヴィオラは、その影を掴むべく、力の全てを尽くして、そこへと走る。

伸ばすての先に煌めく刃は、遠く離れた魔獣へと向けられている。


間に合うはずがない。

それでも、諦めたりはしない。

ここで、テラを失うわけにはいかない。


何もなければ、あんな魔獣の一匹程度では、テラに傷ひとつ付けることは叶わないだろう。

だが、今は、魔神と対峙している。

魔獣が傷つけられずとも、その対処に意識を割いた刹那、魔神に灯火を奪われる。


故に、絶対に行かせてはならない。


「テラ、逃げろ。」

王と騎士団長ではない。

ただの友としての叫び。

戦略ではない。

ただ生きてほしいという願い。

かつて失った愛する人の様に、テラを手放すことなど、耐えられない。


もう二度と、もう二度と…。



「傀儡の詩。」

それは、奏でた者の灯火を奪い去る旋律。

花の国の王であり、元勇者の、荘厳たるカデンツァ。

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