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夜想曲『花の国』  作者: ことは
第二部『月の詩』
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第六楽章3節

荒野を駆け抜ける一つの影。

その巨躯に見合わぬ速度で、足跡が紡がれていく。

それは、彼女の魔力故の旋律。

そして、それに呼応する宝珠の賜。


目指すべき場所は、もう知っている。

空を覆った歪つな魔力。

その高鳴りを見た。


それを奏でているのは、大切な友達。

でも、今は、何かに取り憑かれている。

「助けないと…。」

モフの柔らかな音色が、重く、深く、砂塵に溶けていく。


それは、もう手の届くところまで来ている。

その瞳に彩られたのは、小さな廃村。

花の蕾が風に揺れている。


誰かが手入れをしている証。

焼き菓子のほのかな香りが、その手入れの主が人間であることを教えてくれた。


そこに、微かに残る柔らかな魔力。

「ルナさん…。きっと、ステラさんも近くに居る…。」

二人が贈ってくれた宝珠。

それは、その巨躯の中に溶け込んでいる。

耳元で揺れるリボンは、二人が結んでくれた絆。


過ぎる不安。

大切な友達は、今、心の下に歩んでいるとは思えない。

そんな彼が、大切な二人と邂逅したかもしれない。


それが齎すものは、きっと…。


揺れる木々、強大な魔力が、そこから手を伸ばす。

近づいてはならないと、詩っているかのように。

その奥に潜む柔らかな魔力を感じるが、もうその痕跡はない。

「きっと、二人は、ここに隠れていたんだ…。」

小さな森の傍を駆け抜け、モフは囁いた。


歪な魔力が全身を突き刺す。

空を見上げると、無数の鳥の魔族が泳いでいる。

恐らく、その下に彼らは居る。



みんなで、仲良くなりたい。

そしたら、たくさんの木の実と果実を集めて、ピクニックに行くの。

煌めくせせらぎを眺めながら、みんなで頬張る味は、きっと美味しいよ。


主役は、君だよ、ゆらくん。



彼は、名前を持たない。

誰も、呼んだことはない。

気づきさえしない者ばかりだった。

だから、モフは、勝手に呼んでいた。


でも、その名前を気に入ってもらえるかわからなくて、ずっと言えずにいた。


それを、ずっと後悔してきた。

だから、ずっと待っていた。

白妙の都の近くの森で、ずっと、ずっと。


「私ね、強くなったんだよ。」

森を荒らしに来る者たちを、拒み続けた。

刃を向けてくる者も、たくさん居た。

それに抗い続けたのは、ゆらくんの帰る場所を守るため。

抗おうって、守ろうって、立ち上がる勇気を持てた。

「全部、君のおかげだよ。」


だから、一緒に帰ろう。

私たちの家に。


ねえ、いいでしょう?

私たちは、きっと、お友達になれるよ。

だって、君は、寂しそうにしていたから。

何より、私は、君を見てきたから。


ずっと、お友達になりたいって、願い続けてきたから。



その瞳に映るものが、歪な影だとしても、モフの意志は、揺るがない。

それが、何を齎すのか、もう誰にもわからない。

それでも、決して、揺るぎはしない。



嘲笑う影。

それを織り成す宝珠。

取り込まれたのは、二つの灯火。

一つは、孤独に生き、触れ合うことだけを望み続けた無垢なるゆらの旋律。

そして、もう一つは、強欲の渦を紡ぎ続けるリュパンの旋律。


奥底に押し潰された、ゆらの心。

その存在意義は、器を成すためだけにある。

それを見るのは、モフのみ。


リュパンの形を成す歪な影でさえ、もうゆらの存在を認識してなどいない。

ただ求めるものは一つだけ。


それは、全て。

その最初の一歩こそが、ステラとルナ。



「追いつかれちゃう…。」

その音色は、歪な影に掻き消される。

それは、もう逃げられないという確信。

迫り来る手が、コンに触れた。


それに纏わりつくのは、ぴょんぴょこ隊。

自らの灯火を賭してまで、それに抗う。

呼応する、がじがじ隊。

ぴょんぴょこ隊を押しつぶそうとする手のひらに噛みついていく。

刹那の怯みを見たピヨが、無数の鳥の魔獣とともに、その爪を貫く。


だが、それで終わるほど、この影は脆くはない。



「無駄だ。…無駄だ、無駄だ、無駄だ。全て、私のもの。」

歪に響く不協和音。

「拒むなら、全て喰らい尽くしてやろう。」

手を伸ばした先にあるのは、がじがじ隊。

リュパンの影は、それに与えられた痛みを忘れない。

故に、最初に消すことを選んだ。


声を持たぬ小さな灯火は、その旋律に齧り付く。

その傷跡から伸びるのは、悍ましい色彩。

それは、飢えた手の如く、幾つもの小さな灯火を掴む。


「だめ、逃げて。」


その音色を、多くのがじがじ隊は、聞くことはなかった。

ユニとコンから飛び降り、駆け寄る二つの影より早く、ぴょんぴょこ隊が宝珠の紡ぐ触手に群がる。

ぶつかり合う幾つもの影。

その勢いに弾け飛ぶ、がじがじ隊とぴょんぴょこ隊。


そのたった一つでさえ逃すことを許さぬ様に、触手が枝分かれしていく。

逃げ惑う、がじがじ隊とぴょんぴょこ隊。

彼らを守る様に、桃色の炎が触手を包んだ。


「言ったでしょう、戦えるって…。」

震える音色を奏でるのは、炎を纏うがお。

「力も弱いし、怖がりだけど、火の魔法なら得意なんだから…。」

それは、草木や木の実に飽きたときに使い続けた魔法。

その炎が奏でる、木の実の燻る香りが好きだった。

「あなたの焼ける匂いは嫌いだけど、あなたが居なくなるのなら、何だって我慢するわ。」

その音色に、リュパンの影は瞳を揺らす。

「魔法…、欲しい…。魔法、私のもの…、全て…。」

肥大化していく巨躯を揺らし、がおを覆わんとする、リュパンの影。

それに抗う様に、桃色の炎が強く奏でられる。



がおを守ろうと伸ばす手。

その幾つもの手の届かぬ色彩。


それが、ゆっくりと蝕まれていく。



腐臭と鉄の錆びた香りが、その空間に混ざる。

リュパンの影から滴るそれは、黒く濁っている。

それを、そっと撫で、歪な微笑みをうかべる。


そして、その全てを黒く染めた。

それが、がおの見た、最後の色彩。


「私の…、持たぬもの…。私は得た…。」

その身を纏う桃色の炎が、黒く澱み、空を覆った。

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