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夜想曲『花の国』  作者: ことは
第二部『月の詩』
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第五楽章7節

廃村には、小さな蕾が揺れている。

今日も、ぴょんぴょこ隊とがじがじ隊が水を運ぶ。

お腹いっぱいになった花を見つめ、ユニとコンに群がっていく。

彼らにとって、ユニとコンの背中がお気に入りになっていた。

代わる代わる、鬣を滑り台にしている。

ユニとコンは、それを気にすることもなく、生い茂る草を美味しそうに食べている。


それを微笑みながら見つめるガオは、この廃村の門番を担う。

これまでは、その勇猛な姿に反して、怖がりな自らの弱さを、負い目に感じていた。

それを、ステラとルナは穏やかな優しい子と褒めてくれた。

座っているだけで安心感があると、門番の役を与えてくれた。

だから、ガオにとって、ここに座ることが、何よりの誇りだった。


そんな彼らを空から眺めるのは、ピヨ。

その様は、猛禽類を思わせる巨躯と、鋭い爪を誇る。

そして、この廃村に集う魔獣の中で、最も深い叡智を宿している。

それは、ステラやルナをも凌駕する。

だからこそ、彼はいつも心配していた。

少女二人が無防備に旅を続け、ここに生活を営むと決めてからも、のんびりと過ごしていることに。

今も尚、かつての飼い主と呼ばれる者に狙われているにも関わらず、その危機感を持たないことに。

だからこそ、ピヨは、常に二人を見守り続けていた。

その身に危険が及ぶ前に、それを伝えるために。


今日も、みんなのご飯を作るために、近くの森で木の実を集めるステラとルナ。

まだ影さえも届かぬ地で、その二人を見つめるリュパン。

宝珠を産む奇跡、それを宿す聖女を、我が物と成す為に。

その手が届くまで、もう幾分の猶予さえ残ってはいない。


それを知らずとも、警戒し続けるピヨ。

その心に刻まれる望み。

それは、無垢なる二人が、揺らぐ波紋に触れるより早く、忍び寄る影から逃れること。

そこに、義などはない。

ただ、二人と共に旅路を彩り続け、その姿を見つめ続けたことで、生まれたものがあった。

柔らかく、温かいそれは、慈愛と呼ぶ。

まるで母のように、ピヨは、二人と共に空を泳いだ。




木漏れ日が、心を弾ませる。

木々の色彩が途切れる小さな広場に、空が描かれる。

そこに繋がる小さな獣道は、私たちを緩やかな香りで包み込む。

手に持つのは、小さな籠。

ルナが、たくさんの木から分けてもらった木の実が、籠を賑やかにしている。

私は、小さな瓶へと、蜜を流し込んだ。

それは、花がわけてくれた甘美。

いつもと変わらない音色が、今日も森をそよいでいる。

ふと、道の先を見つめると、広場にピヨが佇んでいた。

その瞳は、私たちだけを彩り、静かに揺らいでいる。

「そろそろ、護衛でもつけたらどうだ?ぴょんぴょこ隊なら壁になれるし、がじがじ隊なら攻撃の要になる。モコなんて、特にステラに懐いているだろう。」

のんびりと歩む私たちに、ピヨは奏でた。

「どうして?もうピヨちゃんが、私たちのことを見守ってくれているよ。後、モコちゃんなら、ずっと後ろをついてきてるよ。」

私は、穏やかに微笑む。

モコが、ぴょこんと跳ね、私の頭に乗っかる。

その色彩は、どこか誇らしげだ。

「わかっていないな、ステラ。我は、戦いには向いていない。何かあっても守ることなどできない。戦いとなれば、モコ一匹でどうにかるものでもないこと、わかっているだろう。」

「戦うの?」

ルナが、小さく顔を覗かせた。

「そうではない。だが、そうならざるを得ないことも、必ず起こる。」

「その時は、逃げよう。みんな足が速いし、私たちもユニちゃんとコンちゃんが乗せてくれるもの。」

私は、力強く微笑んだ。

「…そうも言ってられないこともあると言いたいのだが…………、まあ、いい。それが、お前たちだ…。」

ピヨが、深くため息を奏でる。

「それと、ぴょんぴょこ隊とがじがじ隊は、意外と好戦的だぞ…。」

そのため息の中に、小さな囁きが混ざりこんだ。

「それは…、何となくわかるかも…。」

思い出すのは、彼らに手をかじられた思い出。

私は、その色彩に、少し微笑んだ。

「ピヨちゃん。」

私は、ピヨを見つめながら囁く。

「何だ、改まって。」

「いつも、ありがとう。見守ってくれて。助けてくれて。」

私の紡いだ音色に、ピヨが微笑みのため息を奏でる。

「こう見えて、我は、お前たちの何倍も生きている。孫の世話くらい容易い。」

その音色と共に、ピヨは空高く舞い上がった。


「ステラちゃん。」

ルナが、空を見つめながら柔らかく微笑んだ。

「どうしたの、ルナちゃん。」

「みんな、優しいね。」

「うん。私たちの、大切な家族たちだね。」

私たちは、穏やかな音色に見つめ合う。

「もし、何かあったら、私たちが守ろうね。」

小さく結んだ小指に、想いが温かく絡み合った。


ぴょんと、私の頭から飛び出すモコ。

背を高く伸ばす様に、私たちの前に立つ。

「ミーミーミー。」

その力強い音色は、モコも一緒に守ると奏でる様に、私たちへと紡がれた。

「ありがとう、モコちゃん。頼りにしているね。」

重なる音色を奏で、私たちは、モコと共に腰を下ろした。



籠を満たす木の実。

私たちは、それを見つめ、微笑み合う。

「たくさん集まったね。」

私は、ルナへ囁いた。

「うん。これなら、何日分もご飯が作れるね。」

ルナが柔らかな音色を返してくれる。

「クッキーも、いっぱい焼こうね。」

手を繋ぎ、森の外へと歩む影を、二人で見つめる。

その揺めきが、木漏れ日に交う。

小さな風が、私たちを優しく撫でてくれた。


森から村までは、ゆっくり歩いても、子守唄を三度奏でるまでには辿り着く。

私は、それが少し短く感じてしまう。

村に戻れば、ルナの奏でる愛しい詩が、終わってしまうから。

初めは聞いているだけだった音色は、いつしか共鳴していた。

それが何より楽しくて、私は、どんどんゆっくり歩く様になった。

ルナも、それを知っているかの様に、歩幅を合わせてくれる。

モコだけが、忙しそうに私たちの周りを駆け回り、早く村へ戻ろうとはしゃいでいた。


きっと、これからも、この穏やかな色彩が褪せることなく続いていく。

私たちは、何も疑うことなく、それを信じていた。

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