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夜想曲『花の国』  作者: ことは
第二部『月の詩』
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第三楽章終節

茜色が、村を煌めかせる。

そこに上がるのは、芳しい煙。

幾つもの小屋が、競うように火に焚べている。


やがて、広場に彩られ始めるのは、幾つものご馳走。

それは、旅立つ大切な家族への贈り物。

「ユズリハ、二人を呼んできてちょうだい。」

どこからか聞こえる音色に、ユズリハは、弾む足音を奏でて歩み出した。


向かう先は、ひとつの小屋。

三つ扉を叩くが、返事はない。

不思議に思ったユズリハは、ゆっくりと開く。

そこに彩られていたのは、想いも寄らぬ色彩だった。


自らの瞳から零れ落ちた宝珠。

その殆どを、村のみんなと分かち合った。

そして、残る二つの宝珠は、この小屋にある。

それを必死に転がし、夢中で戯れる二つの影。

「何やってるの…。」

突然の音色に、私とルナは飛び跳ねた。



二人を呼びに行ったユズリハが戻ってこない。

広場のご馳走は、もうすぐ全てが彩られる。

テーブルから響く、小さな音色が耳を撫でるたびに、焦燥が芽吹く。

プラムは、ついに立ち上がった。

「ちょっと見てくるね。」

恐る恐る足音を奏で、小屋へ向かう。

二つ扉を叩くが、返事はない。

ため息を奏でたプラムは、ゆっくりと開く。

そこに彩られていたのは、何となく予想していた色彩だった。


村へと贈られた宝珠。

それは、ひとつが屋敷を建てるほどの価値を持つ。

それ以上に、愛する家族から溢れ出た想いの結晶。

それは、どのひとつであっても、掛け替えのない宝物。

それを必死に転がし、夢中で戯れる三つの影。

「何やってるのよ…。」

「ち、違うんだ。何だか、楽しくなっちゃって…。」

突然の音色に飛び跳ねたユズリハが、慌てた様に音色を紡ぐ。

「何も違わないじゃない。」

プラムは、ユズリハの耳を摘み、外へと引き摺った。



私は、ルナの手を取り、ゆっくりと歩む。

少しの距離なら、ルナは一人でも歩ける。

それでも、その手を握るのは、繋がっていたいから。

「良い香りがするね。」

ルナが、煌めく笑顔を私へと奏でる。

「うん。とても楽しみだね。」

私は、ルナの微笑みに共鳴する様に、囁く。


小さな切り株は、いつもの席。

私たちは、寄り添いながら、そこへ座る。

私は小さな器を恐る恐る右手に抱き、それを見つめる。

まだ、不安は残っている。

でも、気をつけていれば、零すことはない。

それに、もう、震えることもない。

私は、小さなため息に微笑んだ。

左手に握るカトラリーは、今も慣れない。

それでも、ゆっくりと口へと運ぶ。

少し零れ落ちた欠片が、裾に触れる。

気づけば、それは、頬を伝わり落ちた雫と混ざり合っていた。


「ずっと、一緒に居たい…。」

柔らかな吐息が、湯気に舞った。

「ずっと、ここに居ちゃう。」

ルナが私を覗き込み、柔らかく問いかける。

「そうしたいよ。でも、リュパンの手が私たちに届いた時、みんなを巻き込んじゃう…。」

今も私たちを覆う影は、その蠢きを心に落とす。

「みんなが大好きだから、ここを発つの。」

私の瞳に映る、全ての色彩へ、私は想いを込めた。

「ステラちゃん。」

「なあに、ルナちゃん。」

「絶対に、ずっと幸せでいようね。」

ルナの微笑みに、私たちは肩を寄せ合った。


それを見つめるひとつの影が、隣の方へと寄り添う。

「何、どうしたの。」

ユズリハは、落としかけたカトラリーを握りしめ、プラムを見つめた。

「何となくよ。嫌なの。」

プラムは、目を逸らしながら囁くように問いかけた。

「嬉しいよ。」

ユズリハもまた、プラムの肩へと身を委ねた。

「いよいよ、明日、二人が旅立つんだね。」

「寂しいの。」

ユズリハの吐息に、プラムが想いを尋ねる。

「寂しいよ。プラムもそうでしょう。」

「うん。でも、私たちも旅立つのだから、またどこかで会えるよ。」

「そうだね。それに、僕たちの家も、ステラちゃんやルナちゃんの家も、ここにある。」

「帰る場所は、ずっと一緒だね。」

二つの吐息が、優しく絡み合う。

「なら、きっと、悲しくないね。」


無垢なる微笑みが彩られる広場で、柔らかな灯火が、いつまでも揺れ続けた。



暁が村を包む頃、広い世界へと連なる道との狭間に、全ての灯火が集う。

陽光が、寄り添う影を揺らし、その温もりに微笑みの雫が舞う。


「本当に、行っちゃうのね。」

幾つもの優しい手が、私たちを包んでくれる。

「うん…。私たちは、目指すところがあるから。」

リュパンのことは、決して、言わない。

でも、私たちが、花の国を目指しているということは、本当。

ただ、心配だけは、かけたくなかった。

だから、私たちは、心に奏でた願いを紡いだ。

「また、必ず帰るね。」


何度も振り返る。

何一つ変わらない彩りが、私たちを包む。

砂塵が、陽光に煌めいて、宝石の雨の様に彩る。

やがて、その色彩だけが、私たちの旅路を織りなす頃、私たちの家は、遠くに消えていた。


その彩りは、小さな小屋。

でも、何よりも温かい聖域だった。

そこに置かれた、動く椅子。

それは、私たちが居た証。

そして、いつか帰る私たちの家という証。


再び始まる、長い旅路。

きっと、幸せなことばかりではない。

でも、此処に生きたよって、笑い合える。

たくさんの思い出が、背中を押してくれる。

だから、私たちは、歩くことができる。


絡み合う指に、優しい風が、静かに舞った。

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