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夜想曲『花の国』  作者: ことは
Secondo movimento『月の詩』
123/132

第二楽章11節

ごめんなさい。

この節は、特に閲覧注意です。


かなりセンシティブです。

残酷描写が、たくさんあります。

必要だと考えたので描きましたが、本当に辛い表現ばかり続きます。


なので、今、辛い想いをされている方や、過去に、辛い想いをしてこられた方は、避けた方がいいかもしれません…。

白妙の宮殿。

そこには、もう王はいない。

勇者と魔王を討つべく取り囲む騎士団と、地に伏すテラとメル。

それは、灯火を抱き、夢を描くのを手放しかけた頃。


白妙の空に咲き乱れた祈りは、勇者の加護に触れ、宝珠を奏でる。

その旋律が、思わぬ再会を彩った。


原初の魔王、レーヌの降臨。

彼女が紡ぐ詩は、魔力ですらなく、奏でられぬ音色。

それは、聖域により落とされた色彩。

「砂塵の詩。」

その旋律は、白妙の全ての刃と石造りを砂へと還らせた。


それは、白妙随一を誇るリュパンの館でさえ、その例外ではない。

要が砂と化し、綻び始めた壮麗なる佇まいは、そこに孕む絢爛なる装飾と、手に余る宝物に耐えきれずに崩れ落ちる。


「退避だ、退避しろ。」

叫び声を奏で、逃げ惑うのは、リュパンの私営騎士団。

「追うな。ステラちゃんとルナちゃんを探すんだ。」

それを追おうとする月と星の家の仲間。

彼らを引き留め、成すべき事へと導くのは、プロテア。


自らの手で見つけられなくとも、二人の居場所を知っている人物が、一人は居る。

そして、彼が為すであろう事、この色彩が生じたが故の答え。

リュパンは、宝物庫に向かうはず。

彼を拷問してでも、二人の居場所を聞き出す。


リュパンは、商人とはいえ、その財力を以てして、都を牛耳り、絶大な権力を得た。

彼に刃を突き付けるなど、その罪の重さは、計り知れない。

「あはは。」

プロテアは、思わず吹き出した。

そんなもの、あの路地裏に辿り着いた日に、捨てた。

そんなもの、ステラとルナに比べたら、羽根より軽い。


彼が持つ小剣は、武具ではなく生活のための道具。

故に、それを刃と見做す者は、私営騎士団のみであった。



プロテアの予想は、当たっていた。

鎖に繋がれたステラとルナを地下に残し、リュパンは宝物庫へと駆け上がる。

だが、取り残された二人は、その彩りを、ただ眺めるだけではない。

その瞳から零れ落ちた宝珠を、彼へと投げつける。

「二度と、私たちの世界に入ってこないで。」

それは、二人が奏でた、唯一の報復。

「後で、心ゆくまで貪ってやる。」

頭にぶつかった宝珠を拾い、歪な笑みを浮かべて、口へと運ぶ。

嚥下されたそれは、喉を通り、肢体へと溶け込み、混ざり合う。

貪欲な旋律は、それを覆い、彼の鼓動を感じる事は、二人には叶わなかった。

ただ、その旋律は、意図せぬ脈動を奏で始める。


それが芽吹くのは、陽光に舞う禁呪と触れる時。

宝珠は、ただ静かに、その時を待つ。

何も選ばず、何も増やさず、そして、何も減らさない。

ただただ、在るがままに、それを待っていた。



砂塵に埋もれゆく絢爛は、ルナが交換にと差し出したテラの袋を包んでいる。

見渡せば、都のほぼ全てが白い砂と化していても、リュパンにそれは映らない。

「これだけあれば、立て直せる…。」

砂の山を掘り起こし、取り出したのは、テラの袋。

それを開け、溢れるほどの金貨と宝珠を覗く。

これに加え、地下室の床を埋める宝珠。

その価値は、宮殿が幾つも建つほどの富を与える。

「あんな人形を早く消し去り、新たに宝珠を生めなくしなくては…。」

如何なる価値も、蔓延れば、それを失う。

だが、独占すれば、富は一つへと集う。

ならば、逃さぬ様に囲えばいい。

それで良かったはずだった。

だが、ステラとルナは、そこから這い出た。

あろう事か、仲間を引き連れて、崩壊を呼んだ。

「あんなもの、もう要らん。」

歪な不協和音が、砂塵を揺らす。

その埃に塗れ、リュパンは、視界を見失った。

故に、向けられたそれに気付くことができずにいた。

「ステラとルナは、どこだ。」

プロテアの赤い旋律が、リュパンを劈いた。

「お前は…。私は、お前を知っている。戦場のリスノワール、灯火の狩人プロテア。」

リュパンは、朗らかに微笑みを演じ、その不協和音を隠す。

「お前を雇ってやろう。いくら欲しい。」

プロテアは、それに答えず、リュパンの右目を貫いた。

「もう一度、聞く。ステラとルナは、どこだ。」

プロテアの瞳は、揺るぎなくリュパンを捉える。

「貴様、誰に何をしたのか、わかっているのか。」

その悲痛な叫びさえ、プロテアの色彩を変える事はない。

プロテアは、リュパンの髪を掴み、左目を貫いた。

「これが、最後だ。ステラと…。」

「に、逃げた。あいつらは逃げた。どこに行ったかもわからん。」

「そうか。」

リュパンが、自らの所有物と奏でたものを、逃したままにするはずがない。

まして、二人は捕えられていた。

この短時間で、混乱に乗じて逃げたと言いたいのだろう。

だが、この館は、月と星の家の仲間に囲まれていた。


プロテアは、リュパンの首を貫いた。

「あ…ぐ…。」

砂塵の舞う地に沈むリュパン。

だが、流れ出す赤に、灯火は乗らない。

それは、一つへと収束する。


混ざり合った宝珠が、器を侵食した。

芽吹いた花が、灯火を呑み込む。

それは、リュパンの中に紡がれる色彩。

故に、逃れる事はできない。


純白の金色の空間。

そこに限りは無く、音も影も無い。

「誰か。」

リュパンは、叫ぶが、それは響かず収束する。

「何なんだ、一体…。」

仕方なく、歩き出す。

出口は何処か、あるいは入口なのか。

地も空も、その先も、全てが純白の金色。

ついに、リュパンは、その空間から出る事を諦め始めた。

もう、何日も食べず、飲まず、それがどれだけの時間を彩ったのかさえわからない。

ただ、微睡みに落ちようとすると、リュパンに全てを奪われたという音色だけが、肢体に反響する。

それは、誰の声でもない。

リュパン自身の声ですらない。

混ざり合う様に、短音が響くだけ。

故に、現に縛られ続けた。


何年経っただろう。

数時間しか経っていないとも感じる。

だが、この先が閉じる事が無いことだけはわかる。

その意味も、その理由も、それが齎すものも、何も分からないままに。


やがて、そこに黒い色彩が滲み始めた。

漸く現れた変化にリュパンは、歓喜を奏でようとした。

それを掴む歪な手。

顔を覆われ、四肢を掴まれ、引き摺られる。

抵抗の声すら出せず、瞼を開こうとも手に覆われた闇だけが奏でられる。

そこに聞こえ出したのは、嘲りの旋律。

それに気づいた刹那、リュパンを覆っていた無数の手が、その全てを引き裂く様に引いていく。

故に、服は剥ぎ取られ、肢体に柘榴が咲き乱れる。

漸く光を取り戻した瞳に彩られていたのは、かつて自らが蔑んできた幾つもの影だった。

それは、一糸纏わぬ醜い肢体を嘲笑い、罵声を奏でる。

彼にとって、その影は、彼によって支配された傀儡達。

本来ならば、ここに立つのは、リュパンではなく、その傀儡のはずだった。

その傀儡が、このリュパンを晒し者にして、嘲笑う。

許可なく言葉を紡ぐだけでも、怒りに満ち溢れる。

それが、あろう事か、彼を罵倒している。

リュパンは、抑えきれぬ怒りに震え、言葉を紡ごうとするも、一つの音色も紡げない。

そして、その醜い肢体を隠そうにも、磔られたように、動くことができない。

幾つもの目が、リュパンを突き刺し、嘲る。

彼の築き上げた尊厳は、容易く崩壊していく。

だが、それは、瞬く間に再生した。

恥辱と憤怒が入り混じる中、それは巡り、途絶えぬ反響を奏で続ける。

遂に、リュパンの中に張られた弦が切れた刹那、薄暗い鳥籠に堕ちていた。


鎖に繋がれ、身に纏うのは穢れた薄紗。

聞こえてくる足音が、恐怖を突き刺す。

リュパンは、それを見つめる。

その先に、何が待つのかは、未だわからない。

ただ、それが、悍ましい影であることだけは理解していた。

鉄格子に彩られ始めたのは、富に肥えた醜い足。

月を背に、歪な笑みを浮かべたそれは、鉄格子をゆっくりと開ける。

その錆びた音色が耳を劈く頃、自らが寝ていることに気づく。

瞳は開かれ、意識は覚醒しているのにも関わらず、彼は動くことさえできずに眠る。

故に、それが振り下ろされるのを見た。

「お…ぐえ…。」

吐瀉物と共に、腐った音色がこぼれ落ちる。

それは、靴底で抉られた腹の痛み。

「起きろ、人形。」

聞き覚えのない声は、これまでの旅路で奏で続けた音色。

その音色が、動けぬリュパンの耳を切り裂く。

だが、答えるよりも早く、次の痛みが奏でられた。

靴底が、顔を踏みつける。

軋む骨の音が、肢体に響き渡る。

それでも、指先一つ動かす事は、叶わない。

それが、その影の怒りを買ったと、リュパンは思い知らさらた。

靴の先端が、瞳に映る。

それは、閃光を放つ様に、リュパンの鼻筋を飛ばした。

飛び散る赤い花弁は、やがて口を満たす。

「はひゅ…はひゅ…。」

もはや、何を紡ごうにも、それが言葉を彩る事はない。

何故、こんな目に…。

それが心を支配した刹那、彼は答えに辿り着く。


この影は、リュパン自身。


だが、それが意味するものなど、何一つわからない。

わかろうとする余力すらない。

留まることを知らない痛みが繰り返され、肢体が潰され続ける。

最早、そこに流れる赤いせせらぎが、いつ始まったのかさえわからない。

許してくれ。

そう祈り続けるも、それを許さなかったのは、リュパン自身。

やがて、その全てが苦痛で麻痺する頃、リュパンの首に、鎖が繋がれた。


引き摺られるがままに階段を落ちる。

その扉の先に彩られた旋律は、これから起こることを優しく教えてくれる。

数々の器具が並べられ、鉄の腐臭に満ちた部屋。

そこは、リュパンの遊戯室。

荊の枷が手足を縛り、微動を紡ぐ度に身が抉られる。

薄紗すら剥ぎ取られ、身を守る物など一つもない。

そこに加えられるのは、熱した鉄。

声無き声で叫び、肢体を捻る。

それが、荊を食い込ませ、更なる苦痛を奏でる。

やがて、それが穏やかさを彩り始める頃、鉄の鞭が、肌を這う。

その度に飛び散る赤い花弁は、少しずつ身を削っていった。

影が腕を振り上げる度に、次の苦痛へと構える。

それが振り下ろされる頃、構えたことさえ無駄であったと悟る。

それでも、意識だけは鮮明にリュパンを起こし続けた。


もはや、力は残されていない。

息を吸うことすら、その痛みに斑らとなる。


だが、それで終わる程、彼の奏で続けた色彩は甘くはない。


集まり寄る複数の影。

その中心に立つのは何なのか、もうリュパンはわかっていた。

それは、リュパンが奏で続けたリュパン自身。

その悍ましく不快な不況音。

それは、嘔吐を催す悪臭と共に、粘り気のある泥に塗れた醜物を肢体へと抉り込ませた。

口を塞ぎ、蠢き、得体の知れぬ汚濁を流し込む。

思わず吐き出すそれは、燻んだ緑を孕ませ、白濁に蕩ける。

影がリュパンの髪を掴み、それが這う石造りへと叩きつける。

「舐め取れ。」

その声は、逆らう事を許さない。

震える舌で、ゆっくりと舐め、それを嚥下する。

吐瀉物と共に、濁った雫が瞳を溺れさせるが、何も変わらない。

その悍ましい醜物に口を塞がれたまま、腹部に疼痛を奏で、肢体の奥へと不快が這い上がる。

それは、肢体の中を蠢く蚯蚓の如く、それは這い摺り周り、蛆虫を産むかの如く、白く腐乱した花弁を撒き散らす。

それが、リュパンの心身を蝕み、呑み込み、瞬く間に糜爛していく。


引き抜かれたそれに、糜爛してゆく心が揺れる。

たが、それが休ませてくれることなどない。

再び始まる色彩に、終わらぬ悪夢を呑み込んだ。



いくつもの不協和音が、永遠に続く。

リュパンの持つ全てが、ここに破壊される。

彼は、彼が人形であると思い始めた。

虚無に全てを委ね、塵ひとつとして意思の持たぬ人形。

それは、彼が彼を守る為の唯一の盾。


だが、それも、打ち砕かれる。

癒しの再生。

記憶と痛みだけが残り、傷は消え、意思が芽生える。


そして、始まる、最初の旋律。



永遠の夢。

リュパンが与えてきた、疼痛、鈍痛、苦痛、屈辱、悲哀、後悔、欠損、凌辱、加虐、略奪、奪取、挙げきれぬそれが、全て還る。


終わらぬ夢に果ては無く、虚無すら無い。


ただ器は朽ちていく。

それでも、それを孕みながら咲く花は、永遠を彩る。

純白と金色が混ざり合い、リュパンが奏で続けた色彩に溶け堕ちたまま。



純白の宝珠は、何も増やさず、何も減らさず、全てを還す。

そして、金色の宝珠は、ただ癒しを与える。

それらは、何を選ぶ事もなく、その色彩を奏で続ける。

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