第二楽章10節
ごめんなさい。
この節は、特に閲覧注意です。
かなりセンシティブです。
残酷描写が、たくさんあります。
必要だと考えたので描きましたが、本当に辛い表現ばかり続きます。
なので、今、辛い想いをされている方や、過去に、辛い想いをしてこられた方は、避けた方がいいかもしれません…。
私は、眠っていたのだろうか。
鉄の開く音に、現を彷徨う。
息が、できない。
忍び寄る足音に、目を向ける。
リュパン…、それと…。
「ルナちゃん…。どうして…。」
傷だらけのルナが、鎖に繋がれて、立っている。
それだけは、避けたかった現実が、彩られている。
「ただいま、ステラちゃん。」
私は、言葉を失い、ただルナを見つめた。
「ずっと一緒って、約束したもん…。」
絶望に彩られた私を映すルナの瞳が、雫を浮かべた。
「漸く泣くのか。だが、足りんな。」
リュパンの歪な笑みが、二人を包んだ。
手足を繋がれ、動くことさえできない私の前で、ルナがリュパンの拳に倒れる。
「やめてください。お願いします。私が全て受けますから。」
思わず、私は叫んでいた。
それを見つめるリュパンは、微笑みを奏でながら、ルナに拳を振り翳し続けた。
赤黒く染まるルナの肢体。
だが、ルナは、表情を変える事はなかった。
「平気だよ。ステラちゃん。心の無い音色は、私には響かないの。」
ルナの穏やかな音色が、地下室に柔らかく響く。
「だって、私は目が見えないから。聞きたいものしか聞けないの。」
それを覆う様に、リュパンの拳が旋律を反響させた。
「ご主人様、私を殴って。そうすれば、ルナちゃんは泣くわ。」
私は、その忌々しい音を掻き消す様に叫んだ。
リュパンは、ゆっくりと振り返り、穏やかに囁いた。
「私の許可なく、声を出すな。後で望み通りに殴ってやるから、待っていろ。」
その旋律を奏で終えた刹那、ルナは、リュパンに噛み付いていた。
ルナは、今まで、何かを拒絶した事はなかった。
その微笑みで、何もかもを受け入れてきた。
それは、私も見た事のない彩り。
「貴方、嫌い。」
ルナの瞳に映るリュパンが、歪な影へと落ちている。
「そうか。ならば、お前に優しくしてやる必要はないな。」
リュパンは、ゆっくりと歩を進めた。
その先にあるのは、あの日、ルナの四肢を落とせと渡してきた小剣。
それを握りしめ、リュパンは、狂い咲く笑みを撒き散らした。
「ルナ、お前は私から逃げた。悪いのは、その足だな。」
私は、知っている。
彼は、それを本当にする事を。
私は、それを受けてきた。
彼は、思いついた事を躊躇いもなく奏でる。
それは、私が、傀儡だったから。
彼にとって、ルナもまた、傀儡だから。
「やめてください。お願いします。私が唆したのです。私が全て悪いのです。罰を受けるべきは、私。ルナちゃんは…。」
振り下ろされる刃。
「やめてください。お願いします。やめて。リュパン様。私の足を落として。お願い。」
ルナの足に、沈みゆく刃。
「リュパン、やめろ。」
こんな汚れた言葉、どこで覚えたのだろう。
聞くに耐えない音色が、私から紡がれるなんて、思ったこともなかった。
ただ、その叫び声だけが、私の喉を貫く。
「リュパン、私の足を落として。リュパン。お願い…。」
まだ間に合う。
まだ間に合ってほしい。
赤い花弁が、壁を塗りたくる。
「ルナちゃん、ルナちゃん。」
泣き叫ぶ私の声が反響し、私の耳を劈く。
ルナは、ただ穏やかに、私だけを見つめていた。
「ルナちゃん、逃げて。お願い、逃げて。」
ルナとの繋がりを失った、麗しき純白の肌が、赤い海へと沈む。
私は、ただ、止まらぬ雫に溺れ、ルナだけを見つめた。
「リュパン、お前だけは、赦さない…。絶対に…。」
私は、赤く染まる刃を手にしながら朗らかに微笑む、異質なそれを睨み付ける。
私の声に振り向いたそれは、私へとゆっくりと近づいて来る。
「そうだった。お前がルナを逃したのだったな。悪いのは、その手か…。」
もう、わかっている。
次に切り落とされるのは、私の手。
そんな事は、もうどうでもいい。
ルナを守れなかった。
それだけが、私の真実。
私の手を抉る刃の蠢きに、私は何も感じることができない。
「やだ。私の手にして。やめて。やだ。やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ。」
足を失っても、表情一つ変えなかったルナが、切り離されていく私の手を見つめ、泣き噦る、
気づけば、金色の宝珠に塗れた床が、純白の宝珠で埋め尽くされようとしていた。
それでも、掠れる声で悲哀の底を奏でるルナの旋律は、全てを劈く。
私には、それが何よりの痛みだった。
私の手が、鎖にぶら下がり、私の右腕は解放された。
その刹那、私は、失った右手でリュパンに殴りかかる。
復讐なんて、意味はない。
それをしたところで、何も還らない。
でも、ルナの足を奪った事は、許せない。
この男だけは、この男だけは…。
それでも、この忌々しい歪な影に届いたのは、私の赤い花弁だけであった。
だが、それは、彼の憤怒の旋律に触れる事となる。
「そうか、お前は、ルナを失うと最も苦しむのか。」
そう囁きながら、小剣を握りしめる。
「これだけ宝珠が生み出されたのなら、もう充分ともいえるな。」
それは、ルナへと歩み寄り、刃を振り翳す。
そこに映るのは、ルナの首筋。
私は、声にならない声を響かせ、祈る。
神様、お願いします。
私の命と引き換えに、ルナちゃんを助けてください。
地下室に届かぬ陽光は、その館の窓を貫き、赤い花弁を劈く。
既に、プロテアの全身には、柘榴が咲き乱れていた。
それでも、彼は突き進む。
これだけの騒ぎであれば、恐らくリュパンは、宝物事かステラとルナの元に居る。
願わくば、宝物庫へと、向かっていてほしい。
「ステラちゃん、ルナちゃん…。」
無事でいてほしい。
ただ、それだけが、彼の唯一の願い。
それを切り裂く様に、騎士たちの刃が、プロテアを切り裂く。
それでも、前へ進む。
その想いだけが、体をすり抜ける様に溶けていく。
やがて、膝が地に着き、迫り来る刃を振り払う力さえ流れ落ち、この旅路の終わりを悟る。
だが、それは、まだ赦されてはいなかった。
窓の割れる旋律が、館に響き渡る。
投げ込まれる石に、咆哮が混ざり合う。
それは、プロテアの聞き覚えのある音色。
「俺に当たったら、戦力が下がるぞ…。」
穏やかに微笑みながら、残された力を滾らせる。
「まだ、痛みに悶えろというのなら、喜んで受け入れよう。」
プロテアは、窓から雪崩れ込む咆哮に負けぬ旋律を、この館へと叩き付けた。
アプフェルは、争う事をしてこなかった。
だが、その想いが、体を突き動かす。
「プロテア、ステラちゃんとルナちゃんは。」
その旋律に、プロテアは首を振る。
探しに行きたい衝動を抑え、迫り来る騎士を切り伏せる。
それでも、この波は途絶える事を知らない。
月と星の家の仲間も、その灯火を手放し始めた。
その色彩は、戦わぬ者には、深く抉る痛み。
分かち合う、その想いに、勢いは途絶え始める。
そして、それを、騎士は見逃さない。
それでも、意志だけは、潰される事はない。
漸く得た二つの光だけは、愛する二人だけは、守りたい。
その祈りが、決して抗う事を諦めさせようとはさせなかった。
ぶつかり合う、圧倒的な意志と、圧倒的な力。
その蜿は、空へ届き、咲き乱れる祈りに、花弁が散る。
故に、始まるのは、蹂躙。
床に転がる純白の宝珠が、赤いせせらぎに揺れる。
それは、ただ一つの魔法だけを奏で始めた。




