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夜想曲『花の国』  作者: ことは
Secondo movimento『月の詩』
122/127

第二楽章10節

ごめんなさい。

この節は、特に閲覧注意です。


かなりセンシティブです。

残酷描写が、たくさんあります。

必要だと考えたので描きましたが、本当に辛い表現ばかり続きます。


なので、今、辛い想いをされている方や、過去に、辛い想いをしてこられた方は、避けた方がいいかもしれません…。

私は、眠っていたのだろうか。

鉄の開く音に、現を彷徨う。

息が、できない。

忍び寄る足音に、目を向ける。

リュパン…、それと…。

「ルナちゃん…。どうして…。」

傷だらけのルナが、鎖に繋がれて、立っている。

それだけは、避けたかった現実が、彩られている。

「ただいま、ステラちゃん。」

私は、言葉を失い、ただルナを見つめた。

「ずっと一緒って、約束したもん…。」

絶望に彩られた私を映すルナの瞳が、雫を浮かべた。


「漸く泣くのか。だが、足りんな。」

リュパンの歪な笑みが、二人を包んだ。

手足を繋がれ、動くことさえできない私の前で、ルナがリュパンの拳に倒れる。

「やめてください。お願いします。私が全て受けますから。」

思わず、私は叫んでいた。

それを見つめるリュパンは、微笑みを奏でながら、ルナに拳を振り翳し続けた。

赤黒く染まるルナの肢体。

だが、ルナは、表情を変える事はなかった。

「平気だよ。ステラちゃん。心の無い音色は、私には響かないの。」

ルナの穏やかな音色が、地下室に柔らかく響く。

「だって、私は目が見えないから。聞きたいものしか聞けないの。」

それを覆う様に、リュパンの拳が旋律を反響させた。

「ご主人様、私を殴って。そうすれば、ルナちゃんは泣くわ。」

私は、その忌々しい音を掻き消す様に叫んだ。

リュパンは、ゆっくりと振り返り、穏やかに囁いた。

「私の許可なく、声を出すな。後で望み通りに殴ってやるから、待っていろ。」

その旋律を奏で終えた刹那、ルナは、リュパンに噛み付いていた。

ルナは、今まで、何かを拒絶した事はなかった。

その微笑みで、何もかもを受け入れてきた。

それは、私も見た事のない彩り。

「貴方、嫌い。」

ルナの瞳に映るリュパンが、歪な影へと落ちている。

「そうか。ならば、お前に優しくしてやる必要はないな。」

リュパンは、ゆっくりと歩を進めた。

その先にあるのは、あの日、ルナの四肢を落とせと渡してきた小剣。

それを握りしめ、リュパンは、狂い咲く笑みを撒き散らした。

「ルナ、お前は私から逃げた。悪いのは、その足だな。」


私は、知っている。

彼は、それを本当にする事を。

私は、それを受けてきた。

彼は、思いついた事を躊躇いもなく奏でる。

それは、私が、傀儡だったから。

彼にとって、ルナもまた、傀儡だから。


「やめてください。お願いします。私が唆したのです。私が全て悪いのです。罰を受けるべきは、私。ルナちゃんは…。」

振り下ろされる刃。

「やめてください。お願いします。やめて。リュパン様。私の足を落として。お願い。」

ルナの足に、沈みゆく刃。

「リュパン、やめろ。」

こんな汚れた言葉、どこで覚えたのだろう。

聞くに耐えない音色が、私から紡がれるなんて、思ったこともなかった。

ただ、その叫び声だけが、私の喉を貫く。

「リュパン、私の足を落として。リュパン。お願い…。」

まだ間に合う。

まだ間に合ってほしい。


赤い花弁が、壁を塗りたくる。

「ルナちゃん、ルナちゃん。」

泣き叫ぶ私の声が反響し、私の耳を劈く。

ルナは、ただ穏やかに、私だけを見つめていた。

「ルナちゃん、逃げて。お願い、逃げて。」

ルナとの繋がりを失った、麗しき純白の肌が、赤い海へと沈む。

私は、ただ、止まらぬ雫に溺れ、ルナだけを見つめた。


「リュパン、お前だけは、赦さない…。絶対に…。」

私は、赤く染まる刃を手にしながら朗らかに微笑む、異質なそれを睨み付ける。

私の声に振り向いたそれは、私へとゆっくりと近づいて来る。

「そうだった。お前がルナを逃したのだったな。悪いのは、その手か…。」

もう、わかっている。

次に切り落とされるのは、私の手。

そんな事は、もうどうでもいい。

ルナを守れなかった。

それだけが、私の真実。

私の手を抉る刃の蠢きに、私は何も感じることができない。

「やだ。私の手にして。やめて。やだ。やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ、やだ。」

足を失っても、表情一つ変えなかったルナが、切り離されていく私の手を見つめ、泣き噦る、

気づけば、金色の宝珠に塗れた床が、純白の宝珠で埋め尽くされようとしていた。

それでも、掠れる声で悲哀の底を奏でるルナの旋律は、全てを劈く。

私には、それが何よりの痛みだった。


私の手が、鎖にぶら下がり、私の右腕は解放された。

その刹那、私は、失った右手でリュパンに殴りかかる。

復讐なんて、意味はない。

それをしたところで、何も還らない。

でも、ルナの足を奪った事は、許せない。

この男だけは、この男だけは…。


それでも、この忌々しい歪な影に届いたのは、私の赤い花弁だけであった。


だが、それは、彼の憤怒の旋律に触れる事となる。

「そうか、お前は、ルナを失うと最も苦しむのか。」

そう囁きながら、小剣を握りしめる。

「これだけ宝珠が生み出されたのなら、もう充分ともいえるな。」

それは、ルナへと歩み寄り、刃を振り翳す。

そこに映るのは、ルナの首筋。

私は、声にならない声を響かせ、祈る。


神様、お願いします。

私の命と引き換えに、ルナちゃんを助けてください。



地下室に届かぬ陽光は、その館の窓を貫き、赤い花弁を劈く。

既に、プロテアの全身には、柘榴が咲き乱れていた。

それでも、彼は突き進む。

これだけの騒ぎであれば、恐らくリュパンは、宝物事かステラとルナの元に居る。

願わくば、宝物庫へと、向かっていてほしい。

「ステラちゃん、ルナちゃん…。」

無事でいてほしい。

ただ、それだけが、彼の唯一の願い。

それを切り裂く様に、騎士たちの刃が、プロテアを切り裂く。

それでも、前へ進む。

その想いだけが、体をすり抜ける様に溶けていく。

やがて、膝が地に着き、迫り来る刃を振り払う力さえ流れ落ち、この旅路の終わりを悟る。


だが、それは、まだ赦されてはいなかった。

窓の割れる旋律が、館に響き渡る。

投げ込まれる石に、咆哮が混ざり合う。

それは、プロテアの聞き覚えのある音色。

「俺に当たったら、戦力が下がるぞ…。」

穏やかに微笑みながら、残された力を滾らせる。

「まだ、痛みに悶えろというのなら、喜んで受け入れよう。」

プロテアは、窓から雪崩れ込む咆哮に負けぬ旋律を、この館へと叩き付けた。


アプフェルは、争う事をしてこなかった。

だが、その想いが、体を突き動かす。

「プロテア、ステラちゃんとルナちゃんは。」

その旋律に、プロテアは首を振る。

探しに行きたい衝動を抑え、迫り来る騎士を切り伏せる。

それでも、この波は途絶える事を知らない。


月と星の家の仲間も、その灯火を手放し始めた。

その色彩は、戦わぬ者には、深く抉る痛み。

分かち合う、その想いに、勢いは途絶え始める。

そして、それを、騎士は見逃さない。


それでも、意志だけは、潰される事はない。

漸く得た二つの光だけは、愛する二人だけは、守りたい。

その祈りが、決して抗う事を諦めさせようとはさせなかった。

ぶつかり合う、圧倒的な意志と、圧倒的な力。

その蜿は、空へ届き、咲き乱れる祈りに、花弁が散る。


故に、始まるのは、蹂躙。



床に転がる純白の宝珠が、赤いせせらぎに揺れる。

それは、ただ一つの魔法だけを奏で始めた。

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