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夜想曲『花の国』  作者: ことは
Secondo movimento『月の詩』
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第二楽章3節

全てが還る宝珠。

それは、ルナの雫と秘められた魔力の結晶。

それに宿る魔法は、何も選ばない。

何も増やさず、何も減らさず、ただ還す。

その価値を知る者は、魔族ですら少ない。

人族とあらば、尚のこと。

リュクスは、それを知っていた。

それが齎すものを知らずに、その価値だけを。

故に、常に持ち歩き、更に搾取する。

それを見ていたのは、館に集う者。

彼らが奏でてきた不協和音。

ルナを雫へと沈める旋律に堕とし、搾取する。

故に、ここの全てが、それを隠し持っていた。



白妙の錬金術師。

白妙の都の支配者。

リュパン、この地で、その名を知らぬ者など居ない。

そして、この地で、彼に抗える者など、ほとんど居ない。

故に、彼は、王族すら手を焼く程の傲慢を、極めていく。

だからこそ、この現実は、許されるものではなかった。


二つの人形の逃亡。

それが齎したものは、計り知れない。

最初に、その矛先が向いたのは、その夜の管理を任された護衛人。

本来ならば、その仕事は、取り合うほどのものであった。

それは、抗わぬ人形を扱うだけの時間。

例え、微睡みを貪ろうとも、好きに戯れようとも、そこにあるのは人形。

彼らは、それを謳歌していた。


だが、その夜を任された者は、その仕事を勝ち取った事を後悔する。

そして、勝ち取れなかった者は、安堵した。


そこに生まれるのは、地獄の底を見る罰と、それを負う者を擦り付け合う争い。

だが、リュパンは、その色彩に、全てを見ている。

やがて、彼らから溢れ落ちる真実は、全ての護衛への罰へと奏でられた。

それは、怒りのままに下される旋律。


先立つ者の叫び声を聞き、やがて訪れるであろう自らへの反響に震える。

「どうした、情けない。ステラですら、この程度なら無言で耐えていたぞ。」

冷たいリュパンの瞳が、悶え苦しむ姿を嘲る。

やがて、意識を手放した彼を蹴り上げ、私営騎士団の一人に、次を運ばせる。

その繰り返しでさえ、未だ、リュパンの怒りは収まらない。


護衛を請け負う全ての灯火を、地獄の底へ落とし、鎖で繋ぐ。

「次は無い。」

その囁きは、唯一の施し。

リュパンの手によって刻まれた消えぬ焼印は、彼の隷属を証明する。

ステラやルナですら、それに至らなかった色彩が、彼の心を彩る。


それでも、彼らが、鎖から放たれたのは、護衛の任を継続するため。

ただ、それも、次が見つかるまでの凪に過ぎない。

だが、彼らは逃げる事はできなかった。

髪を刈り上げられ、隠すことさえできない焼印。

それは、極刑を言い渡された罪人に施される色彩と同じ。

故に、それを掲げて外を歩けば、脱獄と見做される。

その先に待つのは、監獄と、灯火の消滅。


彼らは、縋る様に、護衛の任に励むこととなった。



次に、リュパンが矛先を向けたのは、給仕。

理由は、一つ。

ステラを虐待し、逃亡の意志を奏でさせたこと。

リュパンにとって、自らが彩る事は全て正義である。

だが、それを他者が塗ることは、利益を奏でなければ悪。

まして、リュパンの損害を奏でるのならば、その罰は、護衛人が纏った旋律よりも重い。


まず、リュパンが与えたのは、彼らの指の損失。

その全てを奪い、歩く自由と掴む自由を奪った。

だが、それでも、それらを奏でることは不可能ではない。

四肢ではなく、指に止めたのは、彼らに諦めるという色彩を奪うためであった。


そして、それは、始まりに過ぎない。

ここから、彼の選別が始まる。

全てをステラに押し付け、怠惰を貪り、花形を勝ち取れなかった自らを恥じず、彼女へ加虐を奏で続けた。

故に、彼らが、リュパンを満足させる仕事ができるなど、微塵も期待を詩うことはない。

だが、そこに自らの灯火が賭けられたならば、その色彩は生まれ変わる。

それでも、リュパンが描く基準に満たなければ、それは廃棄物へと塗り潰される。


給仕たちは、後悔した。

それは、ステラへの贖罪の音色ではない。

ただひたすらに、この場から逃れることができなかった自らの旋律。

やがて、それは、隣り合う灯火への罵声と加虐へと彩り始める。

これが、リュパンの描く選別であった。


地下の遊戯室、かつて、ステラとルナがその心身を刻まれ続けた、悪夢の香る部屋。

リュパンの光悦たる音色が、日々続けた腐臭の色彩。

そこに集められたのは、争い合う給仕の塊。

「好きなだけ、擦り付け合え。」

リュパンの歪な微笑みが、その始まりを彩る。


彼が、遊戯室を選んだのは、給仕室が赤い花弁に穢れるのを嫌った為。

そこは、館の表。

世界へと向ける顔の一つ。

そこに、穢れなど彩られてはならない。

だが、彼の望む色彩は、この遊戯室にある。

故に、この部屋へと、集められたのだ。


響く鈍い音色と、飛び散る赤い花弁。

獣の如き声色が、リュパンの子守唄となる。

「もう少し、派手に咲け。」

欠伸と共に奏でられた旋律は、彼らの恐怖心に響き渡る。

加速する旋律に、柔らかさが潰れ、硬さが砕ける音色が混ざり合い、不協和音を響かせる。

リュパンは、玉座を模したそれに座し、その色彩を、ただ見つめた。



床に広がる黒赤のせせらぎ。

それは、灯火の器だった色彩の破片を、縫う様に流れている。

そこに立つ、幾つかの影は、もう何一つ奏でる力さえ残っていない。

リュパンは、傍の騎士に冷水を運ばせた。

「身を清めろ。」

かつて、ステラとルナが行った、悪夢の終わりの儀式。

リュパンは、醜いものを嫌う。

その選別は、リュパンに在り、その刹那で色彩を変える。

故に、悪夢が終われば、清めなければならない。

彼らは、震える手で、その冷水を掬う。

その身を劈く氷の刃に、その手が止まる。

「どうした。早くしろ。お前達が蔑んでいた人形ですら、毎日やっていたぞ。」

その屈辱が、給仕の絶望へと彩られていく。

それでも、肢体が震え、それを動かすことが叶わない。

彼らは、その瞳に、縋る様な旋律を奏でる。

それを見つめ、リュパンは、騎士へと命じた。

その囁きは、給仕達には届かない。

歩み寄る騎士に、彼らは、ただ怯えた色彩を紡ぐだけであった。


騎士が手を伸ばす。

その緩やかな音色に、給仕達の肩が跳ねる。

だが、掴んだのは、冷水に満たされた桶。

給仕達は、それぞれの前に立つ騎士によって、その冷水へと溺れた。


再び与えられた給仕服を身に纏う様に命じられ、給仕は、それに手を伸ばす。

彼らが軽蔑し侮辱し加虐してきた人形が、耐え抜いてきた旋律。

それを、自らが被る。

初めて、彼らは、その旋律の重さを知った。

柘榴の咲く肢体に、給仕服が擦れ、漏れる悲鳴を噛み締める。

それが奏でられれば、再び罰へと落ちる事を、彼らは、もう知っている。

故に、全ての命令に従う他ない。


彼らが連れてこられたのは、給仕室。

リュパンは、彼らに、饗す為の準備を命じた。

彼らに求めるのは、ステラが奏でてきた麗しき色彩。

それに達せなければ、彼らは、廃棄物となる。



その日、灯火を抱き続けた給仕は、一人として居なかった。

「代わりなど、幾らでも有る。」

リュパンは、玉座を模したそこに座し、歪な笑みと共に不協和音を奏でる。

その手に転がすのは、全てが還る宝珠。

ルナの生んだ幾つもの宝珠。

その煌めきを見つめ、握り潰す様に覆う。

二つの人形への怨嗟を彩りながら。



彼らが、知ることはない。

その宝珠の魔力が蠢き、既に、その旋律を奏でている事を。

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