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夜想曲『花の国』  作者: ことは
Secondo movimento『月の詩』
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第一楽章序節

煌めく星が空を彩る頃、その産声は奏でられた。

待ち望んだ音色は、柔らかな腕に抱かれ、小さく微笑む。

それは、その灯火を囲む全ての人だけでなく、小さな村に喜びを奏でた。


あの穏やかに大地を見守る月に寄り添う、優しい子に育ちます様に。

その願いが、ステラという名前へと彩られる。


彼女は、穏やかに育った。

それは、父と母の背を見続けたが故の、音色。

そこには、いつも温もりが溢れていた。


「ママ、今日も遊びに行ってもいいかな。」

玄関の外には、大勢の友達が待っている。

「もちろんよ。怪我の無いようにね。」

穏やかな母の笑みを抱いて、ステラは駆けていく。

手に持つのは、たくさんの焼き菓子。

一つ一つを袋に入れ、みんなで食べるための幸せの欠片を、大切そうに抱えて、音色を交わす。

優しい陽光が、重なり合う笑顔を包んだ。


野花の冠を作り合い、贈り合う。

いつも、たくさん作るのは、ステラ。

それは、誰もが彼女の花冠を欲しがるから。

それは、彼女が貴族だからではない。

彼女が貴族であることなど、ずっと昔に忘れてしまっている。

その触れ合う温もりが、微笑み合う音色が、柔らかな振る舞いが、何より、優しい心が、ステラの周りに灯火を集めた。


「いつも、遊んでくれてありがとう。」

ステラは、その朗らかな音色と共に、抱えていた袋から、焼き菓子を取り出す。

中には、いつも、お腹を空かせている子も居る。

ステラは、それを知っている。

だから、いつも、自分の焼き菓子だけ多く持ってきていた。

「私、欲張りだからいっぱい持ってきちゃったけど、食べきれないから、食べてほしいの。」

優しく音色を奏でながら、その子に多く分け合う。


その彩りが、ステラの父と母の誇りでもあった。

彼女は、自らの心に従って、貴族のあるべき姿を、既に持っていたのだ。


故に、この優しい日々が、これからも続くと、誰も疑うことなどなかった。


ステラが16を迎えた日わそこには春が訪れていた。

開かれた盛大なパーティーは、ステラもステラの両親も知らせてはいない。

いつものように、微笑みが集う広場へと赴いた時、村人たちが、ステラを歓迎した。

彼らが、お金を出し合って贈ってくれたネックレスは、ステラにとって、世界中のどの宝珠より価値のある宝物となった。

このネックレスは、ステラが大人になった証。

それは、婚姻が許される歳になったことを示す。

そして、その事により、多くの想いが、ステラを呼ぶ。


パーティーが終わる頃、静かな泉で音色を奏でる二人。

それは、ステラへの恋慕を紡ぐ詩。

その日だけで、両肢では数えきれぬ想いを受け取った。

故に、ステラは、答えを出せずにいる。


ステラは、未だ、恋心を知るほどに、心が育ってはいない。

全てが愛おしく、全てに感謝を捧げている。

無垢なる音色は、それ故に、多くの心を掴む。


だからこそ、想いを伝えた者たちも、それが叶う事を望みはしなかった。

ただ伝えられる、それだけで、至福を得る事ができた。


明日も変わらず、この広場で触れ合える事を、知っていたから。



ただ、貧しい村を領地に持つステラの家は、少しずつ綻び始める。

それでも、そこに住まう村人と共に穏やかに営んでいれば、何も心配する事などなかった。



魔王城遠征。

一夜にして集結した惨劇。

それは、後に連なる戦争により、第一次ブランノワール戦争と呼ばれる事となる。

その遠征への参加を、ステラの父は命じられた。


ステラの父は、争いを好まぬ騎士だった。

彼の得意とするものは、座学であり、医学。

剣を握るより、筆を握る方が、技巧に優れていた。

白妙に名を馳せ、輝かしい未来を約束されるのは、いつの時代も剣。


故に、この村は、常に貧しい営みを強いられてきた。

そして、それが、この村に住まう人々の幸せでもあった。


望まぬ物を持ち、望まぬ地へと赴く。

泣いて縋るステラの頭を撫で、帰る約束を繰り返す。

それでも、ステラから雫が消える事はなかった。


何故、父が、選ばれてしまったのか。

その日から、ステラは、星に祈り続けた。


ステラの父が選ばれた理由。

それは、騎士の称号を持つ者の中で、医学に精通した者が、あまりにも少なかった故。

争いを好まぬからこそ磨いた技巧が、最も早く戦場へと誘った。


その事さえ知らぬまま、ステラは、今宵も星に祈る。



魔王城崩落。

それは、城に残された最後の魔族、レーヌの手によるものだった。

そこに集いし騎士たちは、破壊と略奪を尽くした。

それを止める事は、白妙への反逆。

故に傍観する他なかった。

だが、それは、一人ではない。

ヴィオラ率いる精鋭隊もまた、そのどちらにも加担する事はない。


やがて、たどり着いたのは、テラとメルの聖域。

その先に進まぬ様にと願うレーヌを捕え、扉が蹴破られる。

そこで踵を返したのは、ヴィオラの隊。

そして、ステラの父だけであった。

「私は、これ以上、加担したくない。」

それは、誇りでも、正義でも、名誉でもなく、純粋なる想い。


レーヌの冷たく温かい瞳を見送り、彼らは城を後にした。

そして、その直後、全てが白に染まり、無音が支配する。

振り返る彼らが見たものは、黒く塗り潰された中から、崩れゆく魔王城と、脈動の欠片。

それを、ただ照らすだけの、赤く染まった月だけであった。


裏切り者と呼ばれた、勇者の元へと歩む。

そう宣言したヴィオラたちと別れ、ステラの父は、独り、白妙の都へと足跡を奏でた。

伝えなければならない。

それが、多くの民の灯火を守る事に繋がる。

彼は、そう信じ、傷つきながらも、駆けた。


その旅路の先に待っていたのは、ケーニヒの冷酷なる旋律。

魔王城崩落の命に背き、殉職する者たちを見捨て、逃げ帰ってきた罪人。

それが、ステラの父に下された答え。


そして、その罰は、速やかに執行される。


星に祈り続け、待ち続けたステラの元へ帰ってきたのは、父だったものの欠片。

母と共に、それを抱いて雫に溺れる。

その崩れた影は、暁を見ても、動く事さえなかった。


だが、罰は、それだけにとどまる事はない。

白妙は、元より、この村には、大きな価値など見出してはいなかった。

故に、領主の処刑によって生まれる反乱が、芽吹く前に潰す事を、容易く選択される。

その矢面に、ステラの母は自ら立った。


この灯火を賭して、民の幸福を祈りながら。



それは、最後の晩餐。

この時計の針が天の頂を指す頃、母さえも失うステラは、保護される。

そして、それを見送った母の灯火は、潰える。


そう信じていた。

ステラだけは、そして、関係のない村の民だけは、守られると。


そう信じていたかった。

ステラの母は、絶望の中で、刃の先に赤い花を咲かせた。

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