戦いの後
今回は短めです。前回が長すぎたので、追加できなかった部分です。
校門を出ると。
二人は無言だった。
その距離は―
近くもなく、遠くもなく。
だが―
「アキラ」
ノブの足が少し鈍る。
「ん?」
アキラも立ち止まる。
「あ、いや……別に」
ノブはそう言うと―
一歩近づき、視線を逸らしたまま、
すっとアキラの肩に手を回す。
そして再び歩きはじめる。
ぎこちない沈黙。
風が吹く。
「……なんか」
「ん?」
「近くね?」
「は!?」
距離、近い。
同時に離れる。
「お前が寄ってきたんだろ!!」
「ちげえよ!!!」
互いに視線をそらす。
「…」
「…」
首を振るノブ。
また歩みが鈍くなる。
「だめだ…」
「ん?」
(……田中くんでは、あなたを守れません)
脳裏に、あの声がよぎる。
(俺には何もねえ)
喉の奥が、焼けるように熱い。
―ガバッ
「…っ」
「……~~~っ?!」
ノブの顔は、少しだけ歪んでいた。
泣きそうで、
でも必死に堪えている顔。
「ごめん、アキラ」
息が少し乱れている。
「今、俺は……」
一瞬、言葉が止まる。
逃げるか、
飲み込むか、
そのどっちでもなく――
「お前を、離したくない」
絞り出す。
まっすぐじゃない。
かっこよくもない。
でも――本音だった。
「……」
アキラの心臓が、強く跳ねる。
(なんだよ、それ……)
ドキドキしてる。
顔も熱い。
なのに――
なぜか、ノブの横顔に、
視線が引き寄せられる。
――震えていた。
押し殺していたものが、全部滲み出ているみたいに。
(……ああ)
気づく。
(こいつ、めちゃくちゃ頑張ったんだな)
さっきまでのこと。
全部、頭の中で繋がる。
ポンッと、ノブの背中に手をやる。
ゆっくりと、撫でる。
コイツは―
強がって、
悩んで、
ぶつかって、
傷ついて、
それで今――ここにいる。
「……」
小さく息を吐く。
そして、
そっと――
肩を預ける。
「……バカ」
小さく、呟く。
「そんな顔すんなよ」
アキラはノブを見つめると、ぐいっと首元を引き寄せる。
「よくやったよ。ノブ」
アキラも少しノブに当てられていた。
強く振る舞っていても、チクチクとした痛み。
涙をこらえるノブ。
こんなに弱っているノブはいつぶりだろうか。
背伸びをして、ノブの頭を撫でてやる。
「……」
ノブは俺のために、
悩んで、
苦しんで、
負けそうになる心を抑えて、
それを真正面からぶつけてくれた。
なぜか、とても―
優しい気持ちが溢れてきた。
アキラは――
ほんの少しだけ、迷って。
でも、すぐに首を振る。
(……いいか)
ゆっくりと距離を詰めて――
唇を重ねた。
(大丈夫だ)
(こいつとなら)
そこには照れはなく。
純粋な気持ちが篭もっていた。
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はぁ――
(尊死……)
木陰で、アヤがぐっと拳を握る。
視線の先。
夕焼けの中で、寄り添う二人。
――やばい。
これは、やばい。
ふと。
視界の端。
電柱の影。
レンズの反射が、きらりと光る。
(……いる)
目を向ける。
そこには――
見知った姿。
デカいレンズ。
カメラを構えた、大森チサ。
「……」
「……」
一瞬だけ、視線が交差する。
言葉はいらない。
(撮ったわね?)
(もちろんです)
ごくわずかに、顎を引くチサ。
アヤも、小さく頷く。
――共有された“真実”。
そして。
すっと、親指を立てる。
サムズアップ。
(最高です)
(神回ね)
夕焼けの中、
二人は静かに、勝利を分かち合った。
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次の日。
朝の通学路。
ざわめきの中――
「ノブ!」
「おう」
何気ないやり取り。
でも、どこかぎこちない二人。
ほんの少しだけ近くて、
ほんの少しだけ照れていて。
それでも――
確かに、昨日とは違う距離。
その様子を、
少し離れた場所から見ている影が一つ。
「……」
チヒロは、小さく息を吐く。
胸の奥にあった重さが、
すっとほどけていく。
(よかった……)
声には出さない。
ただ、
そっと微笑む。
朝日が差し込む。
その笑顔だけが、
まるで無声映画みたいに、
静かに、眩しく浮かんでいた。




