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十節:対峙

「ピョートル!お前盗み聞きを!」

俺は声を荒げてピョートルを怒鳴りつけた。

「いえね、最近どうも閣下の顔色が暗いものでしたから、宰相としてお力添えできればと思った次第ですよ」

「ピョートルよ。お主は我が国のためによく働いてくれているから、大概の不躾な言動には目を瞑ってきた。だが、今回の一件は流石に看過できぬ。相応の処罰は覚悟しているな?」

総統閣下がピョートルを睨みつけ、あくまで厳粛に一人の王として振舞う。


「いやはや、私の申し上げたことをお聞きいただけましたか?人形使いのことで閣下にお聞きいただきたいことがありました故、こうして透過魔法を解いたのですよ」

ピョートルが嘆息し、やれやれと言った風に首を振った。

何か様子がおかしい。いくら無礼な言動を抑えられないピョートルといえど、ここまであからさまに不敬な態度を取る人間ではないはずだ。


「弁解だけは聞き入れてやろう。人形使いについて、何か有益な情報があるというなら申してみよ」

「では、閣下にだけお聞かせしたく存じます――」

 言うや否やピョートルはイヴァン二世総統閣下に耳打ちする素振りで近づいた。

近づくピョートルを制止しようとしたが間に合わなかった。


 その刹那、総統閣下の顔が歪む。

「……ピョートル、貴様……」

耳打ちしたピョートルが側を離れると、閣下がにわかに玉座から崩れ落ちた。

「これで最初の段取りが進んだということですよ、閣下。あなたとの治世ごっこ、退屈しのぎにはなりました」


 うつぶせに倒れた総統閣下の背中をナイフが貫いていた。


 ピョートルが勢いよくナイフを抜くと、瞬く間に床に敷き詰められた真っ赤な絨毯に黒味を帯びた血が傷口から流れ出した。

「一体……どういうことだ!?」

「どうもこうも、見てのとおりです。『私は人形使い』、それ以外に答えがありますか?」

「最初から帝国の乗っ取りを画策していたのか!」

「そんなちっぽけな野望ではありません。悲願の達成には、このお荷物が邪魔だったまでのこと。それに、グロズヌイ共が口を滑らせてしまったようですね。あなたも閣下も、それにあの防具屋までもが知ってしまった」


 バジルのことを把握しているということは、ここでピョートルを倒さなければバジルの身にも危険が及ぶ。

俺はすかさず投げ槍を練成してピョートルに投げつける。

同時にピョートルも手に持っていたナイフを俺に目掛けて投げ放ったが、どうということは無い。

ナイフは軌道を逸れ、槍はあっけなくピョートルの胸を貫き、玉座近くの壁に刺さった。

「色々聞くべきことがあったが、ここでお前を始末しなければ事態は悪化していただろう。だが、これでお前の野望は終わりだ」

「ガフッ……全く、お馬鹿さんですねえ。地球で誰にも愛されなかった坂本優馬さん――」

「何――」


 総統閣下の命を奪ったナイフが、今度は俺の胸に深々と突き刺さっていた。

避けるまでもなく宙に舞っただけだったはずなのに、顛末を理解できない。

それはペンダントとしてぶら下げていた青い賢者の石を砕き、的確に心臓に到達した。


 思わずピョートルの名を叫ぼうとするが声は出ず、その場にへたり込む。

 開けているはずの目が、視界がぼんやりし始める。

 立ち上がろうとする意識を、重力が押しつぶすように妨げる。

 生暖かい液体が胸から流れ、服を赤く染めていた。


 俺は現実世界で遭った火事を、この世界に転生した日のことを、薄れる意識にありながら思い出していた。

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