八節:轍から石畳へ
日中の買い出しと打って変わって、馬車に揺られて丘の上から王城までの道のりが長く感じられた。
朝からずっと人形使いの事件を追っていたのか、マリスが疲れた顔で俺に愚痴をこぼす。
「もうずっと一日中馬車馬のように歩き回りましたよ……誰なんですかね、バスティンの人たちを攫ったのは」
「俺が聞いた情報だと、人形使いって魔術師の類らしいがな。弱小の盗賊団を取り込んで勢力を広げているそうだ。大方、この呼び出しもその件だろうな」
「それ初耳です!情報を掴むのが早いですねえユーマさん!」
憔悴しきった顔で対面していたマリスが身を乗り出して目を輝かせた。
その仕草でI字の谷間がご挨拶して目のやり場に困る。
そういえばゲームの公式設定集では「愛のあるI字谷間のIカップ」だとか書いてあったな。
グッジョブ、キャラデザイン。
インターフェースのアイテム欄からバジルの調査メモを開く。
今日の話では語られなかった内容を含めた人形使いの情報が、マリスの訪問前にポストに投函されていた。
「情報筋によれば、人形使いってのは無機物を操るゴーレム使いとは違う。普段は自律行動するホムンクルスを自分の意のままにする新鋭の魔法を使う学派の人間らしい」
「へぇ、その人形使いって名前自体が通称ではなくて魔法使いを指すんですねえ。そしたらリーダーの名前はまだ分からずじまいですか……」
マリスがフーっと鼻から溜息をこぼす。
「そう落胆するものじゃあない。剣を極めたマリスだったら分かるだろ?一番敵として相手にするのが怖いのは自分と同じ達人ではない。実力の分からない相手だ。少なくとも何をする敵か分かっただけでも大きな収穫だと思うぞ」
「確かに達人相手だったら自分より強いか弱いかの見分けはつくので、命の保証はあるかもですね……」
「人形使いの下についている盗賊団は所詮烏合の衆だ。マリス一人で一網打尽は簡単だろう。問題は人形使いが使役するホムンクルスがどれだけの力ってことだな」
「そうか、人形使いの操り人形が強くなかったら盗賊団の上なんて立てないですよね。手強いのは間違いないんですかねえ?」
マリスが首を傾げるが、その点については俺も測りかねるところだった。
ホムンクルスを使役するにも使い方が違うのではないか。
一騎当千か、それとも人海戦術か。
人形使いという正体が分かっても、その人形をどう使うのか情報がまだ足りない。
少なくともステータスがカンストしている状態だから、俺自身の敗北はあり得なさそうだが。
問題は、盗賊団の規模がどれだけ広がっているかだ。
それ以外にもまだまだ山積しているものがある。
「バスティン人の移住と同時に拉致事件が始まったようだが、奴らの目的が掴めていない。正直、人形使いを叩けば済む話でもなさそうなんだよな」
「私、剣術バカなんでそこまで考えてなかったです……悪い奴が居たら叩っ斬れば良い。悪・即・斬じゃあダメですか?」
「ダメだろ」
「やっぱり?えへへ……」
こんなシリアスな状況なのにマリスの可愛さに癒されてしまう。
馬車の車輪が轍から石畳の上を走るようになり、車内の揺れが少し和らぐ。
しばらく一人黙って考え事をいたら、マリスがうつらうつらと船を漕いでいた。
中心広場に差し掛かったとき、既に時は日を跨いでいたのだから仕方がない。
王城まであと一時間といったところだろうか。
カタカタと車輪の音だけが聞こえる馬車で、腕を組み空を見ていた。
嵐の前の静けさを感じさせる夜だ。
目が冴えて、仮眠でも眠れそうになかった。




