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七節:真夜中の訪問


 パラメーターの高い肉体とは言え、ルベンカの中心街から家に戻るまでの道のりまで徒歩で帰るのは疲れる。

少しふくらはぎに乳酸が溜まっているような鈍痛が残っていた。

「ふう、疲れた……ナナシも久しぶりに五感が復活したというのに疲れないのか?」

「私ですか?嬉しくてさっきまでそんな感覚を忘れてましたよ。かかとからつま先までヒリヒリします……」

居間のソファに座り、靴を脱いで足をさすっていた。少し濃い肌の色でも赤らんだ足が見えた。

治癒魔法は得意分野ではなかったが、こうした軽傷でも効くのだろうかと訝しみながら詠唱する。

「腫れも痛みも一瞬ですね、ユーマ様。さすが賢者の石の力ってヤツですか」

感心しながらナナシの感嘆の声が上がる。


 どうやら屋敷に戻ったところで、ナナシを引き止めていた呪縛が再度効力を発揮することはないようだ。

結局、今日一日はナナシの身の回りの買い物が中心となって、この受肉の原因を探るまでには至らなかった。

ソファに座ったナナシと入れ替わりで座り、歩き疲れたふくらはぎに治癒魔法をかけながら明日以降の予定を考えていた。


 今回の受肉魔法がもう少し仕組みが分かれば、他の活用方法も思い浮かぶかもしれない。

例えば結局バスティン朝の侵攻のときに助からなかったアサシン達の蘇生。

霊体からの受肉ということであれば一種の蘇生魔法として普及できるだろう。

尋問でバスティンのアサシン達が生き返れなかった人間がいたと知ったときの、彼らの嘆いた顔を見るとさすがに心が傷んだ。

この気持ちはゲームだからと思って蔑ろにしていた感情だった。今の俺にとっては、文字通りここの世界が現実だということを思い知らされた。


 もう一つ気がかりなことは突然台頭を始めたグロズヌイという盗賊団だ。頭目が人形使いと呼ばれる何者かにすげ替えられてからは、これまでの略奪行為を改めてバスティン人の誘拐に切り替えられている。

彼らのライフラインだったはずの行動原理から、どこかテロリストじみた思想活動に転換したように感じられた。

(バジルからもっと情報を貰えればな……続きは明日、もう一度会ってみるか。きっと日が明ければあいつも何かしら情報を掴んでいるだろう)


 ――気が付けばソファでうたた寝していた。

部屋の明かりは着いたままだったが、ブランケットがかかっていた。

ナナシが俺を気遣ってくれたのか。静寂の屋敷で彼女なりの優しさが身にしみた。

このグロズヌイの一件が終わったら、ナナシの過去を探しても良いかもしれない。


 ふと、玄関の扉を叩く音が聞こえた。

ベッドに戻り眠りたかったのだが、どうやらそうもいかない。馴染みのある声が外から聞こえた。

「ユーマさぁん、マリスです。総統閣下からお呼びがかかったのでお迎えにあがりましたぁ!」

夜更けの思わぬ訪問だったが、さっと飛び起きて玄関の扉を勢いよく開けた。

「マリス、総統閣下の勅命だって?どうしていきなり?」

「さぁ、私には何も教えてくれませんでした……総統閣下は私の口が軽いのを知っていますので、きっと秘密のことなのかと。第一こんなおつかいなんて私以外でもできたはずでしょうにブツブツ……」


 マリスはバスティン朝の襲撃以来、大きな成果を出せないでいた。物理攻撃では帝国一だが、その能力を最近活かしきれていないために気分は低調気味のようだった。

そして、こうして勅命とはいえ雑用をさせられ少し不貞腐れているのが目に見えて分かった。

「今回の呼び出しは秘密のことなんだろう?だったら名前の知らない一介の兵士よりも、信頼できる君に頼みたかったんじゃないか」

「えー?そうなんですかねぇ。いやぁそうならそうと閣下も仰ったら誤解なんてしないのにぃ」

 こいつチョロいな。

「大方、総統閣下からの緊急の依頼ってところだろうし、早速連れて行ってくれ」

「お任せください!謁見室までご案内しますよ!」

すっかり上機嫌のマリスに促され、馬車に揺られて王城へと向かった。

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