四節:盲目の防具屋
ジャックと別れ、次はナナシの普段着を買うということになった。
確かにずっと同じメイド服で過ごしてもらうのは汚らしい話だ。錬成で新しい服を作り出すのも悪くないが、俺のセンスでどんな普段着が作り出されるか分かったものじゃない。
それに俺自身も、当てがある店に用事ができた。
所感として街のレイアウトはゲーム版と変わらないようだった。
街の中心に佇む「イヴァン大帝広場」から放射状に通り道が広がっている。
北の道を進めば王城。背景として映えるよう、後ろにはバスティン朝のアサシンと対峙したクラシーヴィ山脈を望むことができた。
俺たちは南側のストリートからそのまま広場に進んだ。
広場周辺のロータリーに面した建屋の一つにゲーム版で利用していた防具屋兼服屋が建っているからだ。
ここまで立地の良い所に店を構えているので、"FoC"では最高ランクの防具が取り揃えられていた。
ウィンドウから見える装備や服の洗練されたデザインが見えたので、この世界でも仕上がりには期待できそうだ。
中に入ると、トルソーに飾られた鎧、ローブ、カジュアル服が整然と並び、圧巻の光景だった。
外からは歴史を感じさせるこじんまりとした様相だったが、その見た目以上に店内は広い。
というか物理的に広すぎて、明らかに建物のサイズ感と合わなかった。
「――広いですね、ユーマ様」
ポカンと口を開けて、ナナシが唖然としていた。
俺たちの後ろから顔面蒼白で頬がこけたオールバックの男性がぬっと現れた。
「最近は色んな装備が揃っていないと、お客様が寄ってこないのですよ。ですから、こうして空間拡張の魔法でお店と品揃えを広げているのです……コフッ」
咳き込みつつ、喀血した男が辛うじて聞こえる声で話しかけてきた。
「ひえっ。だ、大丈夫ですか?血……出てますが」
「お気遣い、痛み入ります。ですがお構いなく。空間拡張の発動で長時間魔力を消費しているものですから、消耗しているだけでございます」
「へ、へぇ……と言うことはここの店員さん?」
「申し遅れました。及ばずながら、当『ザハロフ』のオーナーを務めておりますバジルと申します。以後、よろしくお願い致します」
バジルは微妙にナナシの顔に逸れた先に一礼した。
元々は戦場で右に出る者がいない実力を持つエンシェントソーサラー、つまり古代魔法の使い手だったらしい。
戦いの負傷により視力を失い、一線を引いたあとは『ザハロフ』を営み、防具屋へと転職した。
「バジル、今日は防具を買いに来た訳ではないんだ。うちのナナシに普段着をと思ってな」
俺の声にバジルが向き直り、そして弱々しく微笑んだ。
「これはこれは、ユーマ様。光を失ってもなお、賢者の石の輝きは美しく『視えます』とも。それにしても所帯を持たれていたとは初耳でした、おめでとうございます」
「し、所帯だなんてそんな……」
バジルの言葉にナナシが赤面して体を少しくねらせている。何照れてるんだこのメイドは。
「バジル。ナナシはメイドだ、嫁じゃない」
きっぱり否定するとナナシが不貞腐れ、こちらをジト目で見つめていた。
「おや、左様でございましたか。奥方様……失礼、ナナシ様より幸せなオーラを感じ取りましたので新婚かと勘違いした次第です」
バジルがこめかみを掻く。オーラ云々のくだりは誇張や例えではない。
彼は失った視力を感知魔法によって補っている。
「本日お探しなのは、ナナシ様のお召し物でしたね。店の者に案内させます。普段着は家内の取り扱いでしてね、どうぞ二階までお上がりください」
体をこちらに向けたまま、バジルは右手で階段の方を指した。
「ナナシ、行っておいで。俺はバジルに防具を見せてもらいたいからさ」
「畏まりました。用事が済みましたら、戻りますね」
ナナシが二階に上がるのを確認して、バジルにある事を尋ねた。
「バジル、『武器は売っているか?』」
「……なるほど、『仕事』をご用命ですか。個室に取り扱いがございますので、どうぞこちらへ――」




