三節:新たな予感
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高台にあった屋敷から転移魔法で王都に移動した。
転移魔法はこの世界で普及している「理論魔法」と違って、生まれつきの才能がなければ発動されない「古代魔法」の一種だ。
突如姿を見せた俺たちを見ながら、街の人が口々に「錬金術師だ」とか「ルベンカの鬼神だ」とかボソボソ呟くのが耳に入った。
(ゲームのときも、こんなことがしょっちゅうあったな)
ログインをした時、他プレイヤーが俺を称賛していたのを思い出していた。ただ、チャットログが流れるよりも五感で得られるこの感覚にむず痒さが走った。
「街に来てみたのはいいが、どうしようか?」
「ユーマ様、でしたら薪を買いたいです」
「薪だって?」
「ええ、ワタクシ一人だけだと買えなかったものですから、そろそろ備蓄のものが切れそうなのです」
「ああ、外に出られなかったものな。だが薪を買うと言っても……ん?」
遠目から、大きな人影が見えた。いや、正確には大きなモノを背負ったガタイの良い男だ。
胸元まで届く髭をたくわえて、こちらに気づくと成人男性よりも一回り大きい手を振ってきた。
「おーい。ご無沙汰じゃねえか、旦那!」
10メートルはあろうかという距離から、男はこちらに呼びかけてきた。
「あれは……ジャックか!丁度いいところに来たな。行商から帰ってきたのか?」
ジャックと呼んだ男は"FoC"初心者プレイヤー、特に魔法使いクラスだったら必ずと言っていいほどお世話になる。
回復アイテムなどを生成する窯の薪を売るなどで生計を立てている木こりだ。
「うんにゃ、さっきまでクラシーヴィの雑木林で間伐してたとこだ。おや、珍しいじゃないか。メイドでも雇ったのか?」
「ナナシと申します、全霊をもってユーマ様をご奉仕させていただいております」
ナナシは恭しく両手でスカートを摘んで挨拶する。この一ヶ月、ものぐさな印象を抱いていたがメイドとしての所作は身についているようだった。
その敬意も、これから示してくれるようになるだろうか。
「ジャック・ランバーだ。よろしくな、嬢ちゃん。そこの旦那がひよっこだった時にな、うちの薪をしこたま買ってもらってたもんだ。今じゃあ、旦那自身が魔法の窯になっちまってるみたいだがな」
ジャックが豪気に笑う。錬金術師となってからは薪を買うことも無くなってしまったので、どことなく寂しさも垣間見えた。
ひとしきり笑い、ジャックが続けた。
「だが、旦那が入用ってのも珍しいな。またうちの薪が必要になったか?」
「ああ、今まで備蓄してた薪が無くなったらしくてな。魔法窯は使わなくなったが、この雪国だ。暖炉の薪が無いと凍えてしまうからな」
「今年の冬は一層冷え込むらしいぞ。じゃんじゃん買って極寒に備えてくれ」
よく笑うこの木こりの服装は薄着だった。
「薪はこのルベンカ帝国の礎だ。森で埋め尽くされたこの大陸を、国を建てた大帝様が一振りの大斧だけで切り倒して作り出されたのがこの国さ。この国に薪が無くなった瞬間がこの国の黄昏ってことだ。切り拡げる森が無くなっちまうわけだからな」
背中に大量の薪を背負って語るジャックは、自らの生業に誇らしげだった。
ルベンカ帝国の国旗に斧のデザインがあしらわれているのは、建国の祖もまた木こりだったことに因んでいる。
「ジャックさん。それで、薪を買いたいのですが、その切りたての薪をいただけますか?」
ナナシがジャックの背負う膨大な薪を指して尋ねる。
「この切りたては、まだ水分を含んでいるからな。うちの店に水分を抜いてよく燃える薪が取り揃えてあるぜ。今日の分を置いてきたら、屋敷まで持ってってやる。なぁに、昔からの馴染みさ。勝手は知ってる」
それじゃあ、とジャックは手をひらひらさせてタイルの貼られた道をドスドスと歩いていった。
二歩ほど歩き、思い出したように再び声をかけられた。
「そうだ、ひとつ伝えたいことがあったんだ。最近怪しい集団がうろつきまわって、ルベンカに移住したバスティン人を攫ってるんだとさ」
ルベンカ帝国とバスティン朝とで同盟を結んだという事実は周辺の近隣国家の知ることとなり、大きな話題を呼んでいた。この一件が波紋を呼んで、何かしらのトラブルが巻き起こるのも不思議ではなかった。
「バスティン人を?だが、そういうのってギルドで解決できるんじゃないのか」
「ギルドには捜査と討伐を依頼されてるらしいんだが、受けたやつはそれっきり姿を見せねえ。さっき通りがかったエリスの嬢ちゃんが話してたぜ。ギルドだけじゃあ解決できないから、帝国軍にも討伐依頼が来たってよ」
「普段外には出ないエリスが話していたのか。いつもの買い出しは姉のマリスじゃないのか」
「姉ちゃんの方はな、目下その依頼を受けて捜査中さ。協力を仰がれたら快く応えるもんだぜ。器量の大きい男はモテるぞぉ」
ぐひひとジャックはふざけて笑った。ため息をつきつつ「はいはい」と相槌だけは打っておいた。
「そういうことだから、それっぽい奴を見かけたら気をつけな。まぁ旦那だったら返り討ちにできるだろうがな、ハハ」
「それ、俺に倒せって言ってる?」
暗に討伐を持ちかけられているような気がした。
ゲームの世界なら、この一件をフラグにして巻き込まれる形でクエストが始まるものだ。
もしかしたら、ここでも同じような流れで俺が成さなければならない使命が課せられるのか?
再び俺に背を向けて歩き出したジャックを見つめ、一人考え事をしていた。




