一節:幽霊ダメイドをイジってみた
この世界での初陣から一ヶ月は経過しただろうか。
呆れ返るほどにルベンカ帝国は戦の全く無い日々が続いていた。
現実なら結構なことだが、ゲームプレイ中にこんな状態が続いたらクソゲーだと思う。
俺はリビングで肘を付きながら、この屋敷に棲み着いている幽霊メイドのナナシを見つめていた。
好意を持った視線ではない。
このメイドは俺の生前の世界と繋がりがあるのでは、と思ったのだ。
「なあ、ダメイド」
「誰ですそれ。呪いますよ」
「既にいるだけで呪われたようなもんだ。お前、本当に生前の記憶無いの?」
「うぅん、もやがかかった感じなんですよねぇ」
タンクトップのナナシは、ポリポリと頭を掻いた。なんとも難儀なことだ。
ナナシの存在は少なくともゲーム上では認知できなかった。
どのプレイヤーも知らないキャラクター。
実は俺が生きてきた世界と関わっているのではないかと考えている。
そう思う根拠となる出来事が、初めての食事で出てきたカップ麺。
この一ヶ月間、ルベンカで過ごして分かったことがいくつかある。
一つ。現代的な技術が全く存在しない。
食べ物の保存技術なんて何一つ発達しておらず、全ての食べ物は放ったらかせば等しく腐る。
だからカップ麺なんて保存食の代表は存在しない。いや、存在する理由がない。
活動停止魔法とかなんとかでバクテリアの増殖と活動を止め、腐食を抑えることができる。
大抵の生活基盤は魔法ありきで成り立っている、それがこのゲームの世界で知り得たことだ。
そしてズボラな現代人が身にまといそうな服装も、この世界観にはそぐわない。
「その服装、心当たりあるんじゃないのか?」
「気がついたらこの服装だったもんで、何も疑問に感じないですよ。そんな滑稽です?」
制服が当たり前のクラスルームに、ただ一人だけ私服だったら誰もが怪訝に思うだろう。
ナナシの服装は、ルベンカ、いやFoCの世界では違和感の塊だった。
「それでだ、ナナシ。ちょっと試したいことがあるのだが」
「なんでございましょ?ご主人」
「ちょっと着替えてみてくれないか?」
そう言いつつ、自分の好きなタイプのメイド服を想像して錬成する。
神の神秘を無駄遣いしてバチが当たらないのかな、俺。
で、錬成されたのが露出の多いフレンチメイド。欲望に忠実である。
「……もしかしなくても、ご主人ってば変態ですよね」
アルファベットの"b"を90度回転させた冷ややかな目で、ナナシは俺を見つめた。
ゾクッとする視線は、なぜだか嫌いになれなかった。むしろ好物だ。
「ななな何を言っているんだ」
「人のことジロジロ見たかと思いきや、露出の多い服に着替えろと命令する。これのどこが変態じゃないと言えるんです?」
またまたご冗談を、と俺は手振りで否定するそぶりを見せた。
「これは大事な検証だ。本当に幽霊なら、実体化したこの服を着こなすことなんて出来ないだろ?地縛霊のお前が、この土地にゆかりの無いものを身に着けたら、外に出られるんじゃないかと思うんだ」
個人的な欲望が入っているのは否定できないが、少なくとも後半の考えは前から試したかった仮説だ。
土地に縛られる霊が、土地に縛られないものを着用した上で外出しようとしたらどうなるか。
外に出れたとして、もし何か思い出せるものに出会えれば、きっと成仏のきっかけになるかもしれない。
「ドスケベな主に仕えるメイドも楽じゃないですね……ま、まぁワタクシも屋敷の外は興味が無いわけでは無いですし?その検証とやらに協力するのはやぶさかではないですよ?」
ナナシがため息をつく。この先、ことあるごとにおねだりされる未来が見えたのかな?正解だ。
「本当か?それじゃあ早速――」
「あ、勿論着替えを覗いたら祟りますよ」
「はい、すいません」
ぴしゃりと言い放たれてしまった。
他の三下呪術師ならすぐに解呪できるかもしれないが、得体の知れないナナシだと根深い恨みで苦しめられそうだ。
俺はひとまず暖炉で暖まり過ぎた体を一度リフレッシュしようと、屋敷の外に出た。




