↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/44

二十二節:同盟

 ――俺とミハイルは円卓に戻り、尋問の終わりと、身柄の解放をバスティン朝の捕虜達に告げた。


 一様に彼らは戸惑いを隠すことは出来なかった。

「……ミハイル様、我々には帰る場所が無くなってしまいました。今故郷に戻れば、きっと王が、軍が許しはしないでしょう。国を売ったと誹られ、処罰されるのは避けられません」

ファイサルが下を向きながら、声を絞り出した。仲間のアサシン達も重々しい顔で事の行く末を憂いていた。


 国に戻れば、見せしめに作戦をしくじった部隊の誰かが「始末」される。

バスティン朝のアサシンは、その死と隣り合わせの戒律によって精鋭とも言える部隊を作り上げてきた。

かつて亡命してきた元アサシンから聞いた情報だと、ミハイルは俺に教えてくれた。

「厳しい戒律のことはこちらも承知しています。ここで取引としましょうか」


 にこやかな口調のまま、円卓の空席に座りミハイルは続けた。

「結論から言いましょう。我々の軍に加わっていただきたいのです」

ミハイルの突拍子もない提案にラシードは開口した。尋問で宗教のことを訊いたかと思えば、唐突に仲間に引き込もうする。純朴そうな表情だが、その裏に何を考えているのかわからなかった。


「私達が?隠密行動などしなくとも、その軍事力だったら大陸中を掌握するなど容易いことではないだろうか」

正論だ。今更「コスい」真似して戦わなくても、総統閣下の鶴の一声で国という国はいとも簡単に群雄割拠の時代は終わる。宰相であるピョートルだってそんな考え方だ。

「その通りですぞ、皇太子閣下。彼奴ら敗軍の将の末路など考える必要はありません」

ミハイルが片方の顔をヒクつかせる。やっぱアイツもピョートルのこと好きじゃないのか。

ルベンカの威光を至上とし、他国の排斥を優先する危険なナショナリスト。ただ武力に頼らずに平和的な解決をイヴァン総統やミハイルが推し進めているため、彼の手腕が軍事に振るわれることは少ない。


「ピョートルさん、ややこしくなるので。あと、先程も言ったとおり口出し無用です」

しつこさに少し辟易して、言い方が投げやりだ。軽く嘆息してから、改めて願い出る。

「隠密としての実力だけではありません。今後、バスティン朝を同盟国として迎え入れたいのです。侵略など、考えておりません」

ミハイルの発言にピョートルが「はぁ?」と言いたげな表情を見せた。あまりに露骨過ぎて思わず吹き出しそうになる。いくらなんでもそれは不敬じゃないか?


「ちなみに父、イヴァン総統閣下からは了承を得ています。ピョートルさんがいないのを見計らいましたので、ご存知じゃなかったのも無理はないでしょう」

ミハイルがくせっ毛をいじりながら、努めて明るく話す。


「グゥ……平和ボケばかりしおってからに、そのような政策を進めていたとは」

「平和ボケ、とは大きく出ましたね。そろそろ不敬罪にかけましょうか?」

にこやかに、それでいて冷徹な目をピョートルに向ける。

ヘビに睨まれたカエルのように、その威圧感によって口うるさい宰相は萎縮してしまった。


「それに、情報操作はお任せください。私から国民に、バスティン朝は同盟を望んでやって来たと公表しますので」

清廉潔白な印象を持たれるミハイルは、その心優しさからイヴァン総統と同じように民に慕われている。

世論に「白い嘘」を流すことによって、不幸になる人間を減らすことは、彼の十八番と言えた。


 侵略ではなく、同盟の使者としてバスティン朝のアサシン達はルベンカ帝国に赴いた。そしてその途上、遭難にあったところを近衛隊が捜索、保護。

無事に生きた状態で辿り着いたバスティン朝からの「使者」の熱意に絆され、二国は同盟を結ぶ。

ミハイルの口から、このカバーストーリーがイヴァン大帝の像が佇む広場にて発表された。


 ちなみにこの「捜索」で失われた兵士達は、両国とも無事に生還した。信じられるか?こんな都合の良い話。

 条件付きだが、この世界では死者を蘇らせる魔法がある。その魔法のルーツこそ、あのエルガー老師だ。

全身大火傷で死にかけ(心肺停止状態で、なおかつ蘇生魔法が効かない一歩手前)の俺を無傷に戻せる魔力。

普通の魔法使いであれば、何かしらの後遺症が残るものだ。

一度は死んだルベンカの先遣隊とバスティンのアサシンをいとも簡単に大地に呼び戻した。

笑いながら、俺を蘇らせるよりずっと簡単だったと破顔していた。

この爺さんから、男性キャラ人気ナンバーワンなのも頷ける男気を感じたのは間違いない。


 それで、次の問題だ。

それはこの嘘を名実共に事実にすることだ。

ルベンカだけが納得しても、バスティンが承服しなければ大々的な嘘は(まこと)とならない。

まあ、ラシードやファイサルというバスティン朝の跡継ぎが人質に囚われていて、大国に楯突く訳がない。


 バスティン朝の元首、スルターン=イヴン=スライマーンは静かに目を閉じ、歯を食いしばり、プルプルと顔を小刻みに震わせて肯いた。

この瞬間、ルベンカ帝国とバスティン朝は同盟関係が決定づけられた。


 この世論が流れると、瞬く間にバスティン朝には歓喜の声が広まった。

ルベンカ帝国の人間も――特に若者中心だが――長年秘密にされていた宗教、そして祈りの言葉が発する特異な響きに惹かれるように広まっていった。


――名目上は人道的な経済支援と古来からの宗教を保護するという目的で、この同盟は成立した。

その実、バスティン国教を保護した上で世界中に布教させるためのものだ。

全ては平和をもたらす神の降臨を待ち望むため。


『僕の計画が、そろそろ始まるよ』

第二章、終了です。

第三章に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。