十九節:尋問<導入>
時は尋問の始まりに遡る。場所は王城の大円卓。
上座にはミハイルが控え、捕虜となったバスティンのアサシン達が肩を並べる。
彼らが案内されたのは、犯罪者や従来の捕虜を取り調べる薄暗くて湿気が不快になる収容所ではなかった。
普段は同盟国の盟主と会談や会食を交わす客室。敵軍を招き入れる曰く付きの場所ではないのは確かだ。
バスティン朝という小国の一軍隊に、国賓級のもてなしをするのは妙な話ではないだろうか。
ミハイルのことだ。先に見据えるものがあるからこそ、ここまで力を入れているに違いない。
恐らく、バスティン朝のアサシン達もミハイルに何かしらの意図があることは感じ取っている。
出口の傍らには、やきもきした表情でピョートル宰相が壁にもたれかかっていた。
皇太子の不可解な行動に頭と胃を痛める面持ちだ。
同じ立場だったら、俺もあんな顔をするかもしれない。
ただミハイルに「口出し無用」と言われたのを、小一時間食い下がるのはどうかと思ったが。
瀬戸際に立って妥協した結果、ああして尋問の様子を見守るだけという着地点に到った。
「やれやれ、ミハイル様の考えることが益々分からなくなってきた。これだから世間知らずの皇族は――」
ピョートルなりにボリュームを下げて小言を呟いているつもりのようだ。
だが当の本人に丸聞こえなので、ミハイルは苦笑していた。
「あれでこちらに聞こえないと思っているのだから、宰相という仕事は余程図太くないと務まらないらしい」
ラシードが皮肉ると、それに気付いたピョートルは顔を蒼くした。その様子に会議室で爆笑が渦巻いた。
「ははは、気苦労が絶えないんですよ。父上、いえ総統閣下が多忙なときは私の相手をしなければなりませんから」
「ミハイル様、談笑している暇はございませんぞ。速やかに尋問をお済ませください!」
気恥ずかしさを紛らわせようと、小さいと思い込んでいた声を大きくした。
「ピョートルさんはせっかちなんですから。まぁ、場も暖まりましたから本題に入りましょう」
「あぁ、そうだった。失礼、ここまでの手厚い歓迎をされたので、うっかり私達が捕虜だという意識が薄れていた」
「それで結構です。身構えられて話が進まないと、聞きたいことも聞けませんから。安心してください。貴方達の命は保証します」
「気遣い感謝する。しかし、こんな小国の軍事や内政を聞いたところで何の役に立つ?潰そうと思えば、すぐに滅びる国だ。今まで生き残っていたのが不思議なくらいにな」
ラシードは自嘲してみる。バスティン国民とはいえ彼もミハイルと同じ身分、王の嫡男だ。
そんな彼にここまで言わせるのは、余程国が荒廃している証左かもしれない。
「仰る通り。実を言うと貴国の内情は全て筒抜けでした。我が国にもバスティン朝の国民やアサシンが移り住んでいるんですよ。彼らから聞いた情報だけでそこは事足りますす」
「ならば、なぜ――」
「ラシード殿のような、生粋のバスティン国民が信仰する宗教。これを詳しく知りたいのです。よろしいでしょうか?」
ミハイルの好奇心にも似た目が、鋭く光った。




