十五節:王への殺意と斜陽の皇太子
「ここまで来て四人、か。この下は鬱蒼と生い茂る雑木林だ。今頃二人はミンチになっていよう」
雪崩が過ぎ去ったあとの雪原を見渡してから、ラシードは後方で待機する部下を打見した。
残り十一人、たったの十五人で帝都に潜入して皇帝を討伐するなど愚策にも程があると、ラシードは顔を歪めた。
(神の教えを碌に聞かぬ父への神罰に、私まで巻き添えを受けてしまうとは……)
ラシードの父親はバスティン朝の王、スルターン=イヴン=スライマーンである。
建国の祖、『教祖』の血を引くと言われている。同時に建国から続いたアサシン軍団の最盛期を率いた「最強のアサシン」とも称される。
だが、彼の息子は父を軽蔑していた。
理由は単純で、『教祖』の血を引くと言いながら聖典がなければ祈りの言葉を唱えられず、年に一度の『国教祭典』では常に側近が居なければ取り仕切りもままならないからだ。
敬虔なバスティン国教信者であるラシードからすれば、国の礎を蔑ろにする王では廃れてもやむなしといった心情だろう。いずれ、この「無能な王」の寝首を掻く日がやって来るのも時間の問題だ。
加えて、国民感情も近年では芳しくないものと言える。
スライマーンが人命を厭わないような戦略ばかり立案するため、頭数の少ない軍隊と、軍事力の要であるアサシンの離反を招いてしまっているからだ。
その埋め合わせに、他国からの移民や傭兵を受け入れざるを得ない現状なのが、国が抱える悩みの種となっている。
戦う前からクラシーヴィ山脈で苦戦を強いられる残った十一人の精鋭も、四人は移民で構成されている。
再び無音が帰ってきた銀白の山道を、ラシードの静かな声だけが響く。
「……皆の者、行軍を続けよう。作戦の成功はもう少しだ」
雪崩の収まった雪原、これ以上崩れることはないと確信したアサシン部隊は再び地獄の淵を歩いていく。
広い平原のような道から、雪の壁がそびえる隘路に差し込んだときだった。
ラシードの傍らで常に視覚拡張の魔法で状況確認をしていたファイサルが耳打ちをする。
「ラシード様。この先で十人程度、気配を感じます。ルベンカ帝国の小隊と推測します」
「帝国直属の騎士共か。この環境で重装備をしているのなら、仕留めるには先程の雑魚ほど難くないだろう」
鼻で笑うラシードからは、過信とも取れるほどの自信が溢れていた。
「父上は確かに無能だが、事実帝都の手綱を握ればバスティン国教の伝搬は容易になる。神よ、降臨の足掛かりのため、力をお貸しください。ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅるう――」
この侵攻に対する小さな独白と、神への願いを唱えながら、邪悪な瘴気の中をアサシンの小隊が突き進んでいった。




