十四節:異世界でも信仰される邪教
――バスティン朝のアサシン部隊は道の無いような山肌を辿っていた。
ルベンカ帝国の領土へ迫るにつれ、自然が生み出した城壁に行軍を阻まれている。
そして、屈強な精神を保てなければ瘴気や怨霊に取り殺されてしまう。サーカスの綱渡りをブーイングの中で敢行するようなものだった。
「皆、腰を落として重心を下げるのだ!ここから先は一切の迷いを絶て!心弱き者は悪霊に取り憑かれるぞ」
部下達を叱咤激励したラシードはすかさず、王朝の聖典に伝わる祈りの言葉を唱え続けた。
この行為は彼なりの精神維持に繋がるものだ。
「ファイサル殿、ラシード様は何を唱えておられるのですか?」
バスティン朝に流れ着いた異国のアサシンが尋ねる。
「あれはラシード様をはじめ、多くのバスティン国民が信仰する国教だ。王朝を建国した『教祖』様が啓示を受けた古くから伝わる教えである」
「あの祈りの言葉ってどんな意味があるので?」
「遙か宇宙の外から我々を見つめる神の降臨を促し、この地に恒久の平和を願う節であるな。言葉の始まりは確か、『ふんぐうい むぐなるふ』だったか」
ファイサルがそれ以上唱えようとはしなかったことから、国民の全てが熱心なわけでは無さそうに見えた。
「ふんぐるい――、ふんぐるい――――」
高速かつ小声で祈りの言葉を唱え続けるラシードからは、神の降臨を期待する心で満ち溢れていた。
狂気を湛えた瞳と、釣り上がった口角。
脳内麻薬で満たされた彼には、もはや体を突き刺すような寒さと過酷な傾斜の山道など何の障壁にもならなくなっていた。
上へ下へと蛇行しながら歩いた先には、僅か20cmほどの足場が続く崖道が待ち構えていた。
岩肌に腹を付けて横歩きする隘路を渡るが、強風にあおられて一人が滑落してしまう。
もうひとりのアサシンが手を伸ばすが、虚しくも脱落者の断末魔がやがて静寂に戻った。
その崖を渡りきった先の開けた道では、降りしきった吹雪の上澄みが雪崩を引き起こした。
キン、と耳が痛いほどの静寂から打って変わって白い大波が轟音を響かせる。
咄嗟にラシードは大声で退避行動を促すが、雪崩の勢いは強いまま二人のアサシンを呑み込んだ。




