十一節:見えた敵影、なお千里眼
山脈の中腹に差し掛かったあたりだろうか、ミハイルが俺に顔を向け、ある提案をした。
「ユーマさん、一つお願いがあります。よろしいですか?」
「改まってどうしたんだ?」
「あなたの力を、私にも分けて欲しいのです」
素っ頓狂なことを言い出したものだ、何と返せばいいか戸惑った。
「ミハイル。一体どうした?分けると言ったって、やりようが無いじゃないか」
ミハイルは失敬、と言葉を変える。
「『共通認識』の魔法ですよ。これがあれば二人で力を分け合うことができます」
共通認識の魔法は、魔力の流れを使って術者二人を繋ぎ止める魔法だ。
これによって一方が使えない魔法を使えたり、低いパラメータを補うことができる。
欠点もある。痛覚などの感覚でさえ共有してしまうので、一人が大ダメージを受けてしまえば共倒れになってしまう。
逆手に取って夜の商売ではよく活用されるらしい。
何故そんなことを知ってるかって?公式資料集に書かれていたからだ。
「バスティン朝の部隊が近いのか?」
「ええ、一瞬ですが私の索敵魔法に人影が映りました。ユーマさんの魔力をお借りすれば、もっと広範囲を探れるはずです」
「さすがだな、『スカウト』のジョブも経験していたのか」
「全てはこの魔法のためですよ。極めれば霊体を探せますからね」
そう言いつつ、ミハイルは左手を俺に差し伸べた。
魔力を込めた手を握れば、そこで共通認識の魔法は発動する。
極寒の地にいながらも少し暖かいミハイルの手を握ると、そこから魔力の流れる感覚がした。
「うぉ……思わず驚いてしまいました。まさかここまで魔力が流れ込むとは」
「流し方が悪かったかな。――それで、どうだ。気配は感じるか?」
「はい。霊体の気配に混じって、こちら側ではない生体反応が感じられます。と言っても、ずっと先に進んだ道ですけどね」
どうやら俺の魔力で索敵魔法を使うと、索敵できる範囲が10倍近くなるようだ。
試しにシステムウィンドウを開いてみる。
インターフェースのミニマップに生体反応が反映されているようだ。
マップ上に固まった集団がバスティン朝の部隊だろう。
その背後に点々と息絶えたばかりの生体反応が見える。きっと志半ばで怨霊に連れて行かれたバスティン朝の兵士たちかもしれない。
「いやはや、まさしく千里眼ですね。恐らく、私の見た人影はバスティン朝の偵察のようです。同じ気配がバスティン朝の集団に戻っていきます」
ミハイルは自分が踏み込んだことのない領域を肌で感じ、感嘆していた。
「私、様子を見ましょうか?」
マリスがミハイルに提言する。敵に近づいているのに、突撃できないのがもどかしいのだろう。
「マリス、気持ちは分かります。しかし作戦会議でも伝えましたが、バスティン朝は正面から攻め込んでも裏を取ってきます。どうか焦らないでください」
「はーい……」
「拗ねないでください。すぐにあなたの出番が必要になります。ヒーローは遅れてやって来るものですよ」
確かに歩き続けながら幽霊の対処ばかしているせいか、マリス以外の後発隊メンバーもどこか士気が下がっている気がした。
ふと、ミハイルがしゃがみ込む。見ると、両手で一面の雪を探っていた。
「ミハイル?」
そしてルベンカの指揮官が立ち上がる。
「ここが攻めどきでしょう。皆様、お疲れ様でした。ハイキングは終わりです。作戦を説明しましょう――」




