八節:思わせぶりな作戦説明
マリスは相変わらず戸惑った様子だ。
「えっ、一体何が始まるんです?ミハイル様、そろそろ教えてくださいよぅ」
「はは、マリスはせっかちですね。良いでしょう。まず、これからあの山に大雪を降らせます。それもルベンカでは前例が無いくらいの大雪です。ひと通り雪を積もらせたら、第二ステップが始まります」
「大雪を降らせたら、どうなるんです?もしかして、バスティン朝の人たちを凍死させるとか?」
「いいえ、彼らは過酷な環境でも生き延びる訓練を受けています。多少疲弊はするでしょうが、目的はそこではありません」
ミハイルの思惑が分かったような気がした。
「まさか、大雪で罠を使い物にならなくするのか?」
「ただでさえ風の強い山脈です。記録的な大雪が降れば、猛烈な吹雪となります。そうすれば自慢のトラップは吹き飛んだり、仕掛けが台無しになったり散々でしょう」
「雪が収まったときが攻めどきと言う訳か」
「ええ。ですが、そのまま麓を進んでしまっても結局暗殺されるのがオチです。そこで第二ステップが必要なのです」
錬成された雲が遠目でも吹雪きだしたのを確認すると、ミハイルは次の作戦について説明し始めた。
「3時間もすれば、雪は止むでしょう。そこまで大きな雲ではないですからね。止んだらバスティン朝は進軍を再開することになります。第二ステップは、こちらから逆に罠を仕掛けます」
「ミハイル、罠のプロフェッショナルに罠は通用しないと思うのだが」
「言葉の綾ですよ。まずはキャンプに戻りましょう」
キャンプ地のテントに入ると、ピョートルは居なかった。
ミハイルがテント前の見張りに声をかけた。
「セルゲイ、ピョートルさんは?」
「ピョートル宰相は、先ほど総統閣下に呼ばれ謁見の間に向かいました」
「父が?……分かった、ありがとう」
ピョートルは普段は内政と外交が仕事の中心なので、戦略に関わることはそれほどない。
恐らく、政策の打ち合わせか何かで総統閣下と話をするので席を外しているのかもしれない。
内政はともかく、あの性格で外交というのも疑問が残るところだが。
総統閣下は、俺とミハイルが居れば防衛戦は問題ないと判断したのだろう。
テント内で、ミハイルはテーブルの上に山脈のトップビュー図を広げた。
「先遣隊の出撃から報告の途絶までの時間を逆算し、バスティン朝の予測位置を記します」
ミハイルが予測を立てた地点は、丁度ルベンカ城の背後に当たる場所の一帯だった。
「先ほど、ユーマさんにはこの先から麓までを覆う形で吹雪を錬成していただきました。罠の無効化だけではなく、第二ステップまでの時間稼ぎとしても、必要なことだったのです」
「つまり、雪を降らせたエリアにこちら側から『罠』を張るってことか」
「ご名答。吹雪が止んだら後発隊を出します。ユーマさん、ご一緒願えますか?」
「分かった、出撃する前に作戦内容を教えてくれ」
吹雪く風の音が聞こえる中、ミハイルの作戦を確認した――




