五節:雪も溶けるようなマリスのやきもち
馬車の中、二人きりが気まずかった。
丁寧で粗暴、奇妙な服を着た少女のメイドを雇っていること。
それを説明してもマリスがどう感じるのかが怖かった。
その不安を察知してか、マリスが恐る恐る声をかけてきた。
「ユーマさん、さっきの子って……その、言いにくいんだけど、本当にメイドさん?」
誰でも疑問に感じ、かつ核心を突いた質問だ。
「あれは、そうだな……メイドといえばメイドだ」
「それにしては、少し服装が……」
「い、いや、服装はー……えっと、俺の家に転がり込んだときからあんな感じだったんだ」
嘘は断じて言っていない。
何せ下着をつけていない白いタンクトップとジャージだ。マリスはきっと、ナナシを不正に売買取引をした奴隷ではないかと推測しているのだろう。
「信じてもらえるか分からないが、あの子は、ナナシは幽霊なんだ。俺の家が建つ前から、あの土地を彷徨っているらしい」
「ゆ、幽霊!ユーマさん、幽霊を雇っているのですか!?」
やはり、この事実はマリスでなくとも驚きは隠せないだろう。
「そうだ、そうとしか言えない。昨日屋敷に帰ってきた時、ナナシが見えるようになった。あいつには帰る場所が無いし、そもそも実害も無いからな」
「昨日まではナナシちゃん、見えなかったんですね。でも、さっきは私でも見えるようになってましたから不思議ですねぇ」
確かに、今まで見えなかった幽霊が誰にでも――確信は無いが――見えるようになるというのも奇妙だ。
「この賢者の石、何がどこまで作用するか分かりきっていない。ナナシが見えるようになったのと、関係があるのだろうか」
「ユーマさん。この石の力って調べられませんか?例えば、エルガーおじさんの研究室とか」
「いや、それは止めたほうが良いだろう。普通の人間が手にすれば、瞬く間に生気を失うことになる。持っているだけで神に近づける力。まさしく触らぬ神に祟りなしってやつだ」
「そう、ですか。分からないほうが懸命ってことですね」
「ああ。よしんば調べようものなら、エルガー老師ですら無事では済まされないだろうな」
きっと無闇にあれこれ調べたら、賢者の石の錬成魔法が暴走して体の一部が、最悪全身消滅するだろう。
「マリス、何にせよナナシはあの格好で、家事はしっかりしてくれているんだ。見える前から、どうやら屋敷の家事を一手に担っていたらしい。食事は作れないがな」
「口も丁寧なようで大分荒っぽいですよね。夜のドンパチなんて……はぅ」
さっきの暴言にどこか気になるワードがあったみたいだ、また赤面している。
純情なようでムッツリなのかな。やれやれ、色々と発散したくなる。
――舗装された道を外れ、しばらく馬車に揺られていると山脈の麓に着いた。
「ユーマさん、着きましたよ。……まだ狼煙は上がっていないみたいです」
麓入口の近くに設けられたキャンプ地にマリスと立ち寄る。
戦略室のテントを入ると、しかめっ面のピョートルと、若きルベンカ帝国防衛隊長のミハイルが戦略立案に思案を巡らせていた。




