三節:ナナシの実力と戦いの幕開け
気分が落ち着いたナナシが、口を開いた。
「ご主人、お心遣いありがとうございます。ワタクシ、もっと精進します」
「気持ちだけで大丈夫だよ。俺だって簡単なものくらい作れるさ」
――カップ麺を平らげて、そもそもの疑問が浮かんだ。
「ところで、どうしてカップ麺を知ってるんだ?この世界には、そんな現代的……というか、この界隈では『異世界的な』食べ物だと思うんだけど」
「ナナシの魔法です!昨日も何も無い所から誓約書を目の前でお見せしましたよね。あの類です」
確かに、あの時詐欺同然の誓約書をナナシは手の平から浮かび上がらせたのを覚えている。
「もしかして、錬金術の一種なのか?」
「そんな、ご主人しか使えない大それた代物ではありませんよ。転移魔法です。制約は厳しいですが、古代魔法の基本の一つですよ」
古代魔法といえば、"FoC"では三つの要素が含まれる。
「確か、『物理法則を捻じ曲げるもの』、『時空を歪ませるもの』、『第六感を研ぎ澄ますもの』。魔法の発明時期にかかわらず、この要素が含まれるものを古代魔法と呼ぶ、だっけ?」
エルガー老師の言だが、こんな定義付けだったと思う。
「その通りです、ご主人。どういうわけか、家事よりも先に身に付いていた魔法です」
"FoC"の設定では古代のアーティファクトや、王墓の罠には例外なく古代魔法が宿っている。
これに転じて、この三要素が含まれた魔法は古代魔法と総称されるようになった。
「だが、古代魔法はかなりの魔力を消費するはずだ。幽霊って魔力を宿せるのか?」
「はい、微力ながら幽霊だって魔力はあるのですよ?貧弱だから転移魔法では大きな物は呼び出せないし、読心術も意識しなければ使えないですが……そうそう、怨霊は膨大な魔力が溢れるようになるみたいです」
「それ、フラグ?」
「いいえ、断じて!これでもワタクシ理性はありますから――」
ナナシ曰く、理性を失うほど感情的になってしまったら、霊体が暴走してそのまま怨霊になってしまうそうだ。
大抵は恨みの残ったまま死んだ霊が、死後すぐに恨みの原因を思い起こすのがきっかけになるらしい。
ナナシのように、死んでからしばらく経っても平常心でいられるから、ここから堕ちることはそうそう無いのだとか。
しばらく、ナナシについて色々と聞いていたところで、誰かが玄関の呼び鈴を鳴らした。
ナナシをダイニングルームに残して、ドアを開ける。
ルベンカ帝国の憲兵、というかマリスが入口の前に立っていた。




