訓練のはじまり
『それじゃあ始めるかねえ。』
アルファン邸の裏にある林そこに俺とシータ、メレーナの三人?がいた。
衝撃の邂逅から一夜明け、今日から魔術の訓練が開始される。
『今のあんたの実力が知りたいんだよ。手始めにそうさねえ、あの木に向かって何か撃ってみてもらおうか。』
出会って最初は杖が喋る状況に驚きはしたものの、前世で描かれていたファンタジー世界では物に人格があるのはそう珍しくもなかったので、この状況に慣れつつあった。
前世からしたらこの世界自体ファンタジーだし
「僕まだ魔術について何も知らないんですけど?」
そう俺が知っている魔術とはケインズ兄が見せてくれた魔術とヒューガ兄の補足だけだ。
魔法については念じるだけなのでイメージと念じることだけなので大して知識が無くてもできる。
しかし魔術は一種の技術だ。
誰かに基礎でも教わらない限り早々できるものでは無い。
『ん?おかしいね?あんたの親父があんたは水で花を作ることが出来ると言ってたんだが?』
どうやら俺の秘密の特訓はバレバレだったらしい。
まあ見られたからってどうなるものでもないしいいんだけど。
「確かに出来ますが詠唱とか魔法陣とかは使ってませんよ?」
「『えっ!?』」
ん?俺変なこと言ったのか?確かにケインズ兄は詠唱を行って水を花の形にした。
でも魔法にはイメージが重要で詠唱は魔法陣は補助的なものだとヒューガ兄は言っていたはずだ。
だったらイメージ次第で形を変えられてもおかしくはないだろう。
俺が首を傾げているとシータさんがさっきまで眠そうにしていた目を見開いて説明してくれた。
ヒューガ兄が言った通り、魔法にはイメージがとても重要だそうだ。
しかし魔法の状態での魔力の操作は途轍もなく難しく、通常は詠唱や魔法陣を型として魔力を流すことで魔法を操作するそうだ。
『あんたみたいに魔術に頼らず魔力を操作出来る奴はいないことはない。だけどかなり希少な才能だ。現にあたしも生まれてから三百年近く生きてるがあんたを含めても3人しか見たことがないよ』
「まさかクロード君が【無詠唱】だなんて、本当に私だけだったら教えるなんてできませんでしたよ。」
まさか異世界転生にこんな補正が付いてくるとは。
俺は平静を装いつつも心の中はガッツポーズどころかお祭り騒ぎだ。
貴族に魔法に才能。
今回の人生は最早イージーモードだ。
顔も前世よりもイケメンだし!これならハーレムだって夢じゃない!
俺はこの世界の主人公なのかもしれない。
きっとそうだ!
「おーい!クロード君!聞いてますかー?」
シータさんの声で没頭していた思考から帰ってくる。
「すいません。少し驚いてしまって。僕兄が魔法使ったところしか見たことが無かったのでまさかそんな大ごとだと思ってませんでした。」
『確かにすごい才能ではあるねえ。何せ詠唱や魔法陣からどんな魔法が来るか読み取れないんだ。そのくせ詠唱や魔法陣より発動までにかなり時間が短縮されるだろうよ。』
メレーナさんの説明で無意識に顔が緩んでしまう。
メレーナさんはそのことに気づいたのか。
『だけどそのことに胡坐を掻いて日々の研鑽を怠ったら直ぐに追い抜かれちまうよ。』
「そうですよ。今は詠唱や魔法陣の簡略化や魔道具の研究が進んでいますかね」
シータさんに釘を刺され、俺も今までの怠けた考えを払いのけた。
確かに魔術も前世に無かっただけで技術である。
であるなら日本の電化製品のように日進月歩であってもおかしくない。
ならば才能を磨かねば時代に取り残されてしまうのも道理だ。
『どうやら甘い考えからは抜け出せたようだねえ。それじゃあクロード、あんたの実力とくと見せてもらうよ。』
「はい!」
指定された木の正面に向き腰を落として右手を手刀にして左肩に引き寄せて構える。
慢心しては駄目だ。
全力で!
「火属性の魔法は周りへの被害が大きいのでそれ以外でお願いしますね。」
「いきます!」
撃つのは水。
イメージは最初放った川ではなく、ウォーターカッターだ。
細く、勢いよく。
そうイメージして、有りっ丈の魔力を右手に込める。
「はっ!」
魔力が最高潮に達するとイメージのままに魔力を放ちそれと同時に右手を横に払った。
一瞬シャーと音がなると木は綺麗真っ二つになって倒れた。
「やった!切れました!やりましたよ!」
どうだ!これが俺の全力だ!
ガッツパーズをとってシータさんのいる方に向うとするが、体が重くて足が動かない。
視界もぼやけて、焦点が合わない。
あれ?どうなってんだ
その後何も考えることなく意識を手放し、支えを無くしたかのように受け身も取らず倒れるのであった。
――――――――――
『全く末恐ろしいガキだよ。』
メレーナは眼前に倒れる少年を見て無い口から溜息を吐く。
最初シータがこの仕事を受けてきた時はどんなに叱ったことか。
私に憧れて、魔術を教えたいと言っていた時はとてもうれしかった。
しかしその最初の教え子が貴族なのはあまりよくない。
ただでさえ初めての指導で慣れていないのに、貴族の馬鹿どもときたら、自分の怠慢を棚に上げて教え方が悪いだの、自分に指導が合わないだのといちゃもんつけるだけだ。
全部の貴族がそうとは言わないが、大抵がそんなアホばかりなのをメレーナは経験上知っていた。
ここに来るときはどうシータをフォローしようかと思っていたが杞憂だったようだねえ
「しっ師匠!どうしよう!?クロード君倒れちゃったよ!」
いくら私が指導したとはいえまだ経験の浅いシータは倒れたクロードの周りであたふたしていた。
『落ち着きな!ただの魔力切れだよ!いつものあんたならすぐ分かるだろに。』
シータを叱り飛ばすと、的であった木の方を見た。
そこには的であった木の後方に切り株になった木々が三十本ほど立ち並んでいた。
『これは教えがいがあるのかないのか判断に困る奴がきちまったねえ』
言葉とは裏腹にその声色は弾んでいたのだった。




