あれが先生!? その二
馬車の荷台。
俺の目の前には一人の少女がスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。
とても小柄な黒髪の少女。
俺はここに俺の魔術の先生がいると聞いて来ている。
なのにいるのはこの子だけだ。
一体どうゆうことだ?もしかしてこの成りで実は結構歳いってるとかとかそうゆうオチか?この世界にはドワーフとかもいるし
「おーい。起きてください。着きましたよ。」
とりあえず肩を揺すって起こしてみる。
するとピクリと瞼が動きゆっくりと開いた。
大きな黒い瞳で此方を見ている。
しかしまだ半開きだ。
「・・・あと五分。」
「へっ?」
可愛らしい子供の声で何かを呟いたと思ったら俺に背を向けて二度寝を始めた。
おいおいどうすんだよこれ?
結局十五分経ってから馬車から降りてきた彼女は執事に応接間に案内された。
今は俺と父と机を挟んで座っている。
冒険者の人たちは契約内容の確認やこれからの予定を話し終えると直ぐに町の宿に向かっていった。
そして残ったのはこの少女のみである。
「初めまして。私はシータ=ルンと言います。今日からそちらのクロード坊ちゃんの魔術及び勉強の指導をさせていただきます。よろしくお願いします。」
杖を持った手を合わせてお辞儀する様は教える側というより教えられる側にしか見えな。
不安に顔を引きつらせて助けを乞うように父を見た。
するとこちらの視線に気づいた父は俺の頭を撫でてきた。
「心配はいらないよクロード。彼女はドワーフだから身長が低いんだ。年もお前より八つも上なんだ。」
思った通り彼女はドワーフだった。
ドワーフはファンタジーの世界ではお馴染みの種族だ
ごついが小さい体に口髭を蓄えた力持ち、手先が器用で鍛冶を得意とする。
そんなイメージだが、実際は男だけではなくきちんと女のドワーフもいる。
それに確かこの国では十二歳までが義務教育の期間だ。
そう考えると目の前の少女は見た目と違ってしっかりしているのかもしれない。
ファーストコンタクトがあれでなければ俺もそう思い直したかもしてない。
父によると彼女は今年王都の初等学院を卒業し、冒険者になったばかりだそうだ。
元々初等学院在学中に自分が暮らす孤児院の家計を助けようと魔法を駆使して魔物を狩ってその素材を売っていたそうだ。
その時の彼女が持ってくるのは一般の冒険者でもパーティーを組んで狩るような魔物であった。
そんな評判もあり父は経験はあるにしても新米冒険者で依頼金が少なくて済む彼女に依頼したのだ。
恐らく父は年もそう離れていない方が接し易いとも考えたのだろう。
確かに力はあるのだろう。
だがその人自身の力と指導能力は別物である。
俺にはこの目の前おっとりした子がきちんと指導できるようには到底見えなかった。
「大丈夫ですよ坊ちゃん。」
「え?何が大丈夫なんですか?」
「確かに私はまだまだ未熟です。坊ちゃんに指導できるかにも不安があります。」
依頼を受けておいて、自分の指導力に不安があると言ったシータにさすがの父も一瞬眉を顰めたがすぐさま元の顔に戻った。
「それなら何が大丈夫なんですか?」
俺が疑問をぶつけると、シータはおもむろに両手で持っていた杖を立て、目線を向ける。
つられて俺たちも杖を見た。すると杖についている赤い宝玉が光り出した。
『やれやれ。もう着いたのかいシータ?』
突然室内に若い女の声が響き渡った。
「はい師匠今目の前に居られるのが依頼人のアルファン男爵とそのご子息クロード様です。」
響いた声に動揺することなく、シータは俺たちを紹介していく。
『ほう。あんたが私たちの教え子かい。なるほどその年でその魔力量は大したもんだ。これはきたえがいがあるねえ。』
俺はこの奇妙な現状にただただ声も出せずに驚いていた。
ふと父を見てみると父もいつもの鋭い目つきが嘘のように目を見開いていた。
どうやらこの状況はこの異世界でも常識外れのことらしい。
「ルンさん。これはどういうことですか?」
あくまでも平静を装って、父が質問する。
するとその答えは杖のほうから飛んできた。
『まあ私を見たらそうなるのも無理ないねえ。いいよ教えてやる。』
そういうと杖は自分の身の上を明かした。
この杖の名前はメレーナ=ピレルモン。
元は200位前の魔術師で魔術の繁栄を願い魔術師を指導するために杖としてとどまっているそうだ。
そして数年前にシータに拾われ、彼女を育てたそうだ。
俺も今まで天使らしきものを見たり、転生したり、魔法を使えるようになったりでかなり驚かされてきたが、またもや度肝を抜かれたしまった。
「といういうことで、クロード坊ちゃんは私シータと師匠が教えますのでご心配なく。あっ報酬も最初のお話通りでいいです。三食昼寝が付いていれば文句は言いません。」
最早俺だけではどうしていいか分からず父に助けを求めて視線を向ける。
すると父は何かを考えるように下を向き口元に手を当てて何かを呟いている。
「・・・もしかして?いやまさか?少し確認したいのですがいいですか?」
「はい。なんでしょう?」
『何でも聞きな。わたしゃイケメンには弱いんだ。』
意を決して疑問をぶつけようとした父をエレーナは茶化した。
それを意に返さず話を続ける。
「エレーナ=ピレルモンとはもしや、魔術学院の母であるあのエレーナ=ピレルモンですか?」
魔術学院。
王都よりさらに南にある王族直轄地。
そのこに四方を山に囲われたスルナと言う町にある王国由一の魔術専門の学び舎。
数多くの高名な魔術師を輩出する名門で、国家運営に関わる魔術の研究なども行われているそうだ。
そんな国の重要施設の創設者かと父は杖に尋ねたのだ。
『そういえば晩年にそんなあだ名があったねえ。確かに私が魔術学院をつくったんだよ。』
俺は新人冒険者に魔術を習うはずが、この国の歴史書に名前が載るくらいの偉人に魔術を習うことになったのだった。




