死んだと思ったのに!?
重たい瞼が開く。
そこには白い天井があった。
そして背中にはふかふかとした感触があるどうやらベッドで寝ているらしい。
俺こと花山弥彦は電車に轢かれて死んだ。
体は千切れかけのボロボロで、まさにボロ雑巾のようになって死んだ。
はずだった。
少なくとも俺はあの時そう確信した。
なのに意識がある。
もしかして俺助かったのか?
ふと目線だけで右腕を見てみる。そこには多少部活で鍛えて引き締まった馴染みのある腕ではなくぷっくりとした柔らかそうな腕があった。
!?????
訳がわからない。
どういうことだ?意識が戻ったのは一命をとりとめたからだと解釈できる。
だがこの腕は何だ?俺の腕は少なくとも左手はどう見たってもう切断しか道がないほど損傷していたはずだ。
なのにちゃんと胴体と引っ付いており、それどころか動かすことができる。
そして何より何で赤ちゃんみたいな腕になってるんだ?いつもの腕じゃないにしても変化するとしたら痩せ細るくらいだろ。
自分の身に起きた出来事に困惑しているとガチャっと扉が開く音がした。
そして音の鳴った方を見て息を飲む。
ものすごい美人だ!恐らく二十代前半くらいだろう。
スラッとした体型。
しかしそんな体型には似つかわしくないほどの大きな胸。
銀色の髪は腰辺りまであり幻想的に光輝いている。
顔立ちは西洋風だがどことなく日本のアニメーションに出てきそうな顔だ。
鼻はスッと高く、その大きな瞳はとても慈愛に満ちている。
気品溢れるその姿は宛ら貴族のようだ。
彼女は俺と目が合うと慈愛に満ちた顔をさらにほころばせて此方に一直線に向かってくる。
デッデカイ!
胸のことではないとだけ予め言っておこう。確かに胸もデカイが、俺が思ったのは全体的なデカさだ。俺と比べるとまさに赤ちゃんと大人くらいの差がある。
「◎●△▽▼☆※*#」
えっ?なんだって?何言ってるんだこの人は?
俺には彼女が発した言葉が何語なのか分からなかった。
少なくとも普段国際ニュースとかでも聞いたこと無い様な言葉だ。
彼女は俺を抱き上げると、また何かを話し出した。
それが一段落すると俺を元の場所そっと置くと扉から出ていった。
ここでようやく俺は1つの回答を導き出す。
俺赤ちゃんになってる!?
――――――――――
「クロードの様子はどうだいアイシャ?」
子供部屋を出て談話室の扉を開けると正面にあるソファーに腰かけたピーターが私に気づいて話しかけてきた。
「ちゃんと起きてたわ。」
「そうかい。言った通りだろ?何の心配もいらないって。」
「ええそうね。私過敏だったかもしれないわ。」
私アイシャ=ネブルス=アルファンは目の前にいるピーター=ネブルス=アルファン男爵の第二の妻である。
元はアルファン男爵領の商家の長女だった。
ピーターとは領内の学校で知り合った。
最初は貴族なんて権力を笠に領民をいじめる悪いやつだと思っていた。
現にお話に出てくる貴族はいつも悪さばかりしていたし。
しかし彼は私たちクラスメイトに優しかった。
怪我をすれば手当してくれたし。
分からない問題があると丁寧に解説してくれた。
私は徐々に彼に惹かれていった。
しかし彼は男爵家唯一の男児だった。
結婚どころか恋愛すらもできないだろう。
そう思っていた。
しかし私は第二の妻ではあるけれどピーターと結ばれた。
そして待望の子供も授かった。
クロード=ネブルス=アルファン。
生まれた当初はとても動揺した。
何せ泣かなかったからだ。
領内の助産師から泣くものだと聞いていたし、泣かないと何か子供に問題があるかもしれない言われていた。
部屋の中にいた全員が医者の診察を固唾を呑んで見守った。
医者が問題無しと告げた時どれだけ安堵したことか。
「まあ何も無かったんだからそれでいいじゃないか。それにクロードは将来有望だ。」
「そうね、生まれた時からあの魔力量。何で初級魔術しか使えない私から生まれたのか分からな位だわ。」
クロードには生まれた時にもう一つ驚かされた。
その魔力の多さだ。
子供の魔力量は一般的にはそれほど多くないとされている。
これは生まれて間もない魂はまだ未熟だからだと言われている。
しかしクロードは最低でも中級魔術師と同等の魔力量を持って生まれてきた。
無いことではないがかなり稀なケースだ。
「三男だから将来に不安はあったが、これならきちんとした生活が送れるだろう。」
確かに将来職に困ることはないだろう。
だけど私を見た時のクロードの驚いた顔が引っかかる。
ピーターもああ言ってるし、少し悲観し過ぎなのかもしれない。
そう思うと疑問を飲み込み自分に子供が生まれた事の喜びにまた顔を綻ばせるのであった。




